研究課題
基盤研究(B)
未知なる機能物性の開拓とそれを実現する物質開発は、物性物理学における重要な研究テーマである。特に近年では、データ科学や機械学習を応用して、コンピュータ上で物質探索を行う方法が著しく発展している。しかしながら、その応用において重要な役割を果たす第一原理計算は強相関化合物の記述には不十分である。そのため、これらデータ科学的アプローチの応用は、「非」強相関化合物に限られている。本研究は、磁性や超伝導などの機能物性を第一原理的に記述する実用的な理論を構築し、強相関化合物の物質設計に向けた基礎を作ることを目的とする。
本研究では、動的平均場法を用いた強相関化合物の第一原理計算法(DFT+DMFT法)の発展とその応用に取り組む。全研究期間を通した研究計画は、DFT+DMFT法に関連した理論構築とその適用範囲を検証する“基礎”と適用限界の範囲で強相関化合物の物質設計に応用する“応用”に分かれる。そのうち、本年度は応用に取り組み、以下の成果を得た。1. クラスター多極子の感受率:単位胞に磁性原子が2つ以上存在する場合には、それらをひとまとめにしたクラスター多極子によって秩序状態を記述するのが便利である。第一原理計算に基づきクラスター多極子の秩序状態を調べるために、DFT+DMFT法で複数の原子が絡んだスピン・軌道感受率の定式化を行った。得られたスピン・軌道感受率をクラスター多極子の完全基底で表現することにより、クラスター多極子感受率が計算できるようになった。2. CeCoSiにおけるクラスター多極子感受率:クラスター多極子感受率の応用として、CeCoSiに注目した。この化合物は非共型な空間群に属し、単位胞に2つのCe原子を持つ。これまでの実験研究から反強的な四極子秩序の可能性が示唆されている。この化合物に1の方法を応用し、クラスター多極子感受率を計算した。その結果、低温で見られている反強磁性秩序に対応した揺らぎが大きいことが分かった。四極子の可能性については、結晶場パラメータやf電子の遍歴性も考慮に入れたさらなる検討が必要である。3. アルカリ超酸素における軌道秩序:アルカリ超酸素CsO2は酸素分子のπ軌道を占有する電子がスピンと軌道の自由度を持つ強相関電子系である。実験において短距離相関の強い磁気的振る舞いが観測されているが、その原因は未解決であった。本研究では軌道秩序と幾何学的フラストレーションが短距離相関の要因であることを提案した。
令和5年度が最終年度であるため、記入しない。
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