研究課題
基盤研究(B)
本研究では中距離の構造(> 20Å)を捉える二体相関分布関数(PDF)とEXAFSを組み合わせて,構造を平均化しない合金の構造(原子配置)の可視化を目指す.合金中の原子対が歪みを伴って連結した3次元の中距離構造を見ることで,原子対の伸び縮みが格子全体の弾性変形へ伝播するプロセス,および異なる配位環境下で原子対に働く磁気的な相互作用を可視化する.柔らかなFe-Ni合金から剛性に富むステンレス合金まで展開し,Fe合金の弾性特性をFe-Fe原子対を主軸に理解する.
X線吸収分光と逆モンテカルロ法による中距離合金構造の可視化から,Fe合金の磁気体積効果による熱膨張の異常を原子間の結合の観点から解明した.インバー合金ではFe-Fe対の原子間距離がFe-NiとNi-Ni対と比べて0.02 Åほど長い.このFe-Fe対の伸長は加圧によって減少し,常磁性相に入ると長さが同程度になる.従って磁気体積効果の原子レベルの起源はFe-Fe対の伸長と分かった.興味深いことにインバー合金以外の組成のFe合金でもFe-Fe対の伸長が見られた.このため熱膨張ゼロのインバー効果は,合金中のFe-Fe対の数と強磁性秩序の安定性の繊細のバランスによって発現する.
インバー合金のほぼゼロの熱膨張は1897年の発見から120年以上が経過したが原子レベルでのその原因が分かっていなかった.X線吸収分光法と逆モンテカルロ法を用いた合金構造の可視化より,今回初めてインバー合金の特異な磁気体積効果がFe-Fe間の原子間距離の伸長・収縮によって生じていることを見出した.一般的に面心立方格子中のFeの磁気状態には大きな磁気体積効果が期待されるが,Fe-Fe間の伸長という特長がインバー合金に限らず組成の異なる合金中においても実現していることも見出しており,意義ある結果といえる.
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Frontiers in Materials
巻: 9 ページ: 954110-954110
10.3389/fmats.2022.954110
Physical Review B
巻: 103 号: 22 ページ: 1-5
10.1103/physrevb.103.l220102
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/65313