研究課題
基盤研究(B)
本研究では中距離の構造(> 20Å)を捉える二体相関分布関数(PDF)とEXAFSを組み合わせて,構造を平均化しない合金の構造(原子配置)の可視化を目指す.合金中の原子対が歪みを伴って連結した3次元の中距離構造を見ることで,原子対の伸び縮みが格子全体の弾性変形へ伝播するプロセス,および異なる配位環境下で原子対に働く磁気的な相互作用を可視化する.柔らかなFe-Ni合金から剛性に富むステンレス合金まで展開し,Fe合金の弾性特性をFe-Fe原子対を主軸に理解する.
これまで磁気体積効果と弾性特性の関係は異種の金属原子が不規則に配列する歪んだ合金は構造モデル化が難しく,構造や磁性を平均化することでしか説明できなかった.本研究では広域X線吸収微細構(EXAFS)等,検出可能な構造スケールの異なる放射光実験を駆使して磁気体積効果と弾性特性の解明を目指している.本研究では特に複数の放射光実験データを取り込み,これらを同時に満たす中距離スケールの(> 20Å)合金構造を導出する逆モンテカルロ法を用いて原子レベルでの磁気体積効果メカニズムを調べた.R3年度は熱膨張ゼロのインバー効果を示すFe65Ni35インバー合金について,強磁性と常磁性状態での合金構造の違いを見出し,磁気体積効果の起源がFe-Fe間距離の伸長であることを明らかとした.インバー合金ではFeと同じ強磁性元素のNiが存在するのに,Fe-Ni,Ni-Ni原子間距離ではこの伸長が見られない点が興味深い.この結果を論文発表しプレスリリースも行った.また,Fe65Ni35よりNiリッチで圧力誘起インバー効果を示すFe-Ni合金の合金構造解明にも着手し,現在その結果を論文にまとめている.また3元Fe合金のステンレス合金の合金構造の可視化も試みている.他の原子対よりも磁気体積効果により伸長したFe-Fe原子対を「超秩序構造」と捉えた高精度な解析を用いた,共同研究も推進している.
2: おおむね順調に進展している
R3年度ではSPring-8でのX線回折実験,X線吸収実験の圧力下測定を行い,順調にデータを取得している.また圧力媒体を静水圧性の高いヘリウムに変えた加圧実験を進め,高い精度の測定も行っている.R3年度では研究計画に記述したX線全散乱測定(PDF)測定まで着手できなかったが,R4年度7月にビームタイムが確保され,実施の予定である.論文は出版が1件,投稿予定が1件である.このため概ね計画通りに進んでいると考えている.
2022年度は,放射光実験の継続と成果発信に努めると同時に,研究室での物性測定と試料作製を進める.X線全散乱測定に適したFe-Pt合金を作製し,EXAFS測定とX線全散乱測定の実施を計画している.既にFe-Pt合金の一組成は作製を終えている.また逆モンテカルロシミュレーションから得られた3次元合金構造の圧力変化や組成依存性について,定量的かつ視覚的な解析手法の開発も進めたい.以上のように,多角的な実験と解析から磁気体積効果の起源に原子レベルから迫り,論文化と成果発信に努める.
すべて 2021 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Physical Review B
巻: 103 号: 22 ページ: 1-5
10.1103/physrevb.103.l220102
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/65313