研究課題/領域番号 |
21H01048
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
水野 大介 九州大学, 理学研究院, 教授 (30452741)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2022年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2021年度: 6,760千円 (直接経費: 5,200千円、間接経費: 1,560千円)
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キーワード | 非平衡 / 非熱揺らぎ / 細胞質 / マイクロレオロジー / 非平衡力学 / アクティブ流動化 / 細胞質ガラス / 生体高分子機械 / 代謝活性 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞内の体高分子機械は、希薄なin vitro系よりも細胞内の混み合い環境の下で最適に稼働する。本研究では、生体高分子機械の稼働速度やエネルギー効率に対して、周囲媒質の“非平衡性”が及ぼす影響に着目して、この謎の解明に貢献する。 混み合い環境のもとで稼働する生体高分子機械は、周囲媒質との相互作用の下で非熱的な揺らぎを生み出す。非熱揺らぎの増大に伴って細胞質の流動が促進され、生体高分子機械の働きが亢進する。他方で、細胞内における非熱的な揺らぎは、系の熱力学温度を全く変えない程度の僅かなエネルギーしか持たない。本研究では、非熱的な揺らぎが細胞の挙動に影響する機序を非平衡統計学の観点から明らかにする。
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研究実績の概要 |
細胞内部の物理環境のモデル系として細胞抽出液を用い、そのレオロジーと代謝活動との関係を調べた。抽出液の高分子濃度やATP濃度を制御しつつ、マイクロレオロジーによる力学特性の計測や吸光度測定、顕微鏡観察を行った。生細胞中では低周波数帯において揺動散逸定理が破れており、非熱揺らぎが存在する。他方で、細胞抽出液中の揺らぎは生細胞中の熱揺らぎよりもさらに小さかった。これは生細胞中では代謝由来の非熱揺らぎが細胞の粘弾性を低下(細胞質を流動化)させていることを示す。 また、生体高分子濃度が生細胞に近い濃厚細胞抽出液のレオロジーの時間変化を測定した。生細胞内とは異なり、抽出液の粘弾性が試料作製後時間経過とともに変化するエイジング現象が観測された。さらに抽出液にATPを加えると、試料作製直後はATPを加えていない抽出液と比べ流動化し、生細胞と同程度の粘弾性を示した。しかしながら、時間経過とともにATPを加えなかった試料よりも粘弾性は急激に増大した。抽出液中の生体高分子は代謝活性を維持してATPを加水分解している。代謝活動によって試料作製直後の抽出液は流動性を保つが同時に、時間経過に伴うエイジングも促進されている。 上記のレオロジー計測を行った際には、細胞質は均一性を保っていたが、さらに時間にわたり顕微鏡観察すると、巨視的に相分離し完全に白濁する。混み合いやゲル化による動力学の凍結により相分離の進行も抑制されるため、濃度を低下させた細胞質の顕微鏡観察と濁度測定を行い、試料がゲル化しつつ巨視的な相分離が進行する様子を観測した。細胞質はエイジング・相分離するが、生細胞内では代謝活動により逆行する若返り現象が起きて、エイジングと拮抗することで恒常性が維持されている。しかしながら抽出液のエイジングは、ATPを加えることで逆に促進された。これはガラスのエイジングが冷却速度に依存する機構で説明できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
閉鎖環境におかれた濃厚な細胞抽出物が、エイジング・相分離する様子を観測できた。他方で、生細胞内では代謝活動により逆行する若返り現象が起きて、エイジングと拮抗することで恒常性が維持されていると推察される。しかしながら抽出液におけるエイジング過程は、ATP を加え生細胞内の代謝環境に近づけたはずの操作によって、逆に促進された。ATP を添加した抽出液は特に大きくエイジングし最終的には、Vogel-Fulcher 則で予測されたガラス的な抽出液のレオロジーへ遷移した。これはガラスのエイジングが冷却速度に依存する描像で考察できる。したがって、概ね順調に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
培養細胞のマイクロレオロジー測定を実現するための独自の実験系を構築して研究を進めてきた。しかしながら細胞は、外部環境の変化に自律的に適応して生存を図る複雑系であり、その内部環境を人工的に操作しにくい。そこで細胞抽出物を用いることが有力な選択肢となる。昨年度は、エネルギー源や有害な代謝生成物を交換しない閉鎖系に細胞抽出物を封入して計測を行った。しかしながら代謝活性を保つ細胞質は、閉鎖環境では短時間でエネルギー源(ATP)を使い果たして活性を失う。そこで本年度以降は、環境制御された非平衡・定常開放系として、細胞内部環境に近い条件で代謝回転を維持するモデル系を確立する。すなわち、半透膜を介して外部環境とエネルギー物質や代謝生成物の交換を行わせることで、これを実現する。
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