研究課題/領域番号 |
21H01072
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分14030:プラズマ応用科学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 宏昌 名古屋大学, 低温プラズマ科学研究センター, 教授 (00508129)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2021年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | プラズマ生命科学 / プラズマ活性溶液 / 低温プラズマ / プラズマ活性乳酸リンゲル液 / 遺伝子発現 / マイクロアレイ |
研究開始時の研究の概要 |
近年、低温プラズマのライフサイエンスへの応用研究が活発に進められている。我々は低温プラズマによるがん治療研究を活発に進め、プラズマ照射した溶液による抗腫瘍効果を発見し、この溶液をプラズマ活性溶液と名付けた。その後、プラズマ活性溶液による細胞死の分子機構が世界中で研究され、様々な既知のシグナル伝達経路の関与が明らかになってきた。本研究では、マイクロアレイ解析により未知のプラズマ応答遺伝子を探索し、定量リアルタイムPCR(qRT-PCR)法により検証する。更に質量分析に基づくプロテオミクス解析などを行うことにより低温プラズマやプラズマ活性溶液が活性化する新規シグナル伝達経路を探索する。
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研究実績の概要 |
これまで、脳腫瘍培養細胞U251SPを主な研究対象としてプラズマ活性培養液(PAM)やプラズマ活性乳酸リンゲル液(PAL)による細胞死の細胞内分子機構の研究を進めてきたが、今年度はプラズマ活性溶液による選択的細胞死のモデルとして、乳がん細胞MCF7と乳腺上皮細胞MCF10Aを主な研究対象として、その細胞内分子機構の研究を進めた。 まずは、大気雰囲気下で8mLの乳酸リンゲル液を照射距離3mm照射時間5分でプラズマ照射したPALの様々な希釈系列を用意し、MCF10A細胞に対してMCF7細胞を選択的に殺傷するPALの条件を見出した。更に、アルゴン雰囲気下で、フィードガスの条件をアルゴン100%、アルゴン90%+窒素10%、アルゴン90%+酸素10%、アルゴン80%+窒素10%+酸素10%で作成したPALを用意し、各種希釈系列で選択的殺傷効果を示す条件を探索したところ全ての条件で選択的殺傷効果を示す希釈倍率が存在したが、窒素を加えたPALでは選択的殺傷効果のレンジが拡がることが分かった。以上の結果から、酸素が加わることで、PALの強さを制御し、窒素が加わることで更に選択制を制御しうることが分かった。また、これらのPALの過酸化水素濃度、亜硝酸イオン濃度、pHを測定した結果、酸素が加わることで、過酸化水素の濃度が上昇し、窒素が加わることで、亜硝酸イオンの濃度が上昇するが、酸素と窒素が両方加わることで、過酸化水素濃度と亜硝酸イオン濃度は更に上昇することが分かった。 最後に、選択的殺傷効果を示す条件のPALに加え、MCF7とMCF10Aの両方を殺傷する条件のPAL、両方に対して影響を与えない条件のPALを用意し、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、各条件で未照射の乳酸リンゲル液に比べPAL投与により2倍以上発現量が上昇する遺伝子がいくつか同定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、PALの新たな成分を同定した論文、これまで同定していたPALの成分であるピルビン酸、ギ酸、酢酸、グリオキシル酸、2,3-ジメチル酒石酸が生成される反応機構をまとめた論文、PALによる遺伝毒性を評価した論文など10報の論文が学術雑誌に公表され、当初の計画以上に進展していると言える。また、Free Radical ResearchにこれまでのPALの成果をまとめたreview論文を公表することにより本分野における我々のプレゼンスを世界にアピールすることができ、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度のマイクロアレイの結果同定された遺伝子のうちで、選択的殺傷効果を示す条件のPALにおいて、MCF7のみで遺伝子発現が上昇あるいは下降するする遺伝子やMCF10Aのみで遺伝子発現が上昇あるいは下降する遺伝子に着目し、リアルタイムPCR法によりマイクロアレイ実験の妥当性を検証すると共に、PAL投与後の遺伝子発現のダイナミクスを調べる。例えば、選択的殺傷効果を示す条件のPALでMCF7のみで遺伝子発現が上昇する遺伝子としては細胞死を誘導するシグナル伝達経路に関する遺伝子が含まれると考えられることから、これらの遺伝子を明らかにすることによりMCF10Aに対してMCF7を選択的に殺傷するシグナル伝達機構を解明できると考えている。また、選択的殺傷効果を示す条件のPALにおけるMCF7細胞とMCF10A細胞において細胞内ROSを検出したり、アポトーシスを起こしている細胞の割合を調べたり、DNAダメージを検出することにより、多くのプラズマ細胞応答として惹起される酸化ストレス依存的な細胞死の寄与を評価する。更にはEcto-CRT(細胞膜表面のカルレティキュリンタンパク質)のレベルを評価することにより、いくつかのプラズマ細胞応答例として注目されている免疫原性細胞死の寄与を評価する。以上から、PALによる選択的殺傷効果の作用機序を解明したいと考えている。
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