研究課題/領域番号 |
21H01087
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
西村 信哉 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (70587625)
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研究分担者 |
湊 太志 九州大学, 理学研究院, 准教授 (00554065)
LIANG HAOZHAO 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50729225)
今井 伸明 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (80373273)
西村 俊二 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 先任研究員 (90272137)
有友 嘉浩 近畿大学, 理工学部, 教授 (90573147)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2022年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2021年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
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キーワード | 宇宙核物理 / 中性子過剰核 / 高エネルギー天体 / 元素合成 / rプロセス / 高密度天体 / 高エネルギー天文学 / 核分裂 / 核反応 / 高エネルギー天体物理 |
研究開始時の研究の概要 |
rプロセス元素合成は、宇宙における鉄より重い元素の主要な起源である。rプロセスの元素合成経路は安定核から大きく離れた中性子過剰側にあり、原子核の物理的性質が未解明である。rプロセスが起こる天体環境も長らく未解明であったが、近年、重力波・マルチメッセンジャー天文学の進展により、対応する天体現象キロノヴァが観測された。本研究では、重力波天文学の新しい知見を踏まえ、元素合成と原子核の理論計算の両者を「アップデート」する。原子核理論の最近の成果を基に代表者が構築してきた元素合成計算を拡張する。rプロセスを対象に、核物理と天体物理の双方の不定性を踏まえ観測から理論を制限する。
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研究実績の概要 |
本研究計画では、宇宙で起こる元素合成の一つであるrプロセスを対象に、特に原子核の未解決な点に着目して研究を行う。rプロセス元素合成は、連星中性子星の合体や超新星など爆発的な天体環境で起こり、金やウランなどを生成する。rプロセスが起こる環境では、中性子数密度が非常に高くなり、大量の中性子過剰な不安定核が形成される。それら中性子過剰核の多くは加速器実験で生成されておらず、現在のrプロセス理論計算は、原子核の理論予測値に基づいており、不定性が大きい。本研究計画では、中性子過剰核の反応・崩壊率の理論計算をアップデートし、rプロセス計算に適用し影響を調べ流ことを目標としている。さらに、原子核の不定性を考慮して定量化するモンテカルロ元素合成計算を用いて、元素合成の不定性の評価と重要な反応率の同定を目指す。
本年度は、主として中性子過剰核の核分裂と分裂後の中性子放出の計算手法の開発と応用に進展があった。中性子過剰核の核分裂は、rプロセスが最も進む重い領域での到達限界を決めるとともに、質量数が80から150の領域の分裂片の分布も、元素合成の最終生成物を決める上で重要である。ただし、核分裂は原子核の動的な過程で非常に複雑であり、また分裂片についても、励起エネルギーや運動エネルギーを持ち、複雑な物理状態になる。我々は、前年度より構築してきた核分裂の動力学計算と統計模型による励起状態からの崩壊、特に中性子放出を接続した計算を引き続き整備し、ウラン236や中性子過剰核など具体的な原子核に適用し、存在するものについては実験値と比較して、計算の妥当性を議論した。特に、実験が存在するウラン236については高い再現性を示すことができ、中性子過剰核についてもいくつかの対する核の比較において非自明な結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、中性子過剰核の原子核理論の計算、特に核分裂に進展があった。rプロセスで生成される重い核は、核分裂を起こして軽い核に崩壊する。分裂によって生成された核は、さらに、中性子放出などを引き起こすが、ここで出てくる中性子の数はrプロセス元素合成への影響があるにも関わらず、現在のところ網羅的な研究がなされていない。前年に引き続き、我々は核分裂の動力学計算をベースに、分裂後の中性子放出を統計模型で計算するコード(KiLM + CCONE)の開発と適用を行なった。まず、ベンチマークとして、計算結果をウラン236の実験データと比較したところ、分裂直後の分布から中性子放出後の独立収率についても高い再現性を示した。特に、分裂後の振る舞いを決める重要な因子である運動エネルギーについても高い再現度を示した。加えて、実験が存在しない中性子過剰核であるウラン250とウラン255についても同様の計算を行った。中性子過剰なウラン同位体は質量数の増加とともに分裂が非対称から対称に遷移することが期待される。これら2つの中性子過剰核は、我々の計算においてその遷移が起こる核である。一般に、我々の計算では対称分裂になると、分布の特性から、中性子の放出効率が下がる。その影響で、中性子過剰であるウラン255の方が、ウラン250よりも平均中性子放出数が下がるという結果を得た。これらの結果は、論文としてまとめてPhysical Review C 誌に投稿し、最終的に出版された。
以上の内容は、計算コードの開発とベンチマークの意味もあり、対称核を絞ったが継続してウランの中性子過剰同位体の約30核種にも適用した。基本的には、上述の結果の延長として、ウランの同位体について網羅的に分裂片と中性子放出数の結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き中性子過剰核の理論反応・崩壊率データのアップデートとrプロセス元素合成への影響の定量的評価を軸として研究を進める。核分裂に関しては、将来のrプロセス計算への適用のために、原子番号92番のウランだけでなく、原子番号が100を超える多数の原子核についても同様の計算を広げる必要がある。多くは実験値が存在しないので、理論の枠組みで広い範囲に適用し系統性を調べる必要がある。特に、核分裂の分布とともに、中性子放出数の結果も含む網羅的な理論の「データベース」としてまとめて、元素合成計算に適用しやすい枠組みにする。
以上の核分裂を含む理論核データのアップデートと共に、元素合成計算に適用し、rプロセスへの影響を調べる。モンテカルロ元素合成の計算コードに関しては、新たに核分裂を考慮した不定性評価の計算や解析手法を構築する。ベータ崩壊や中性子捕獲 と異なり、核分裂は核反応ネットワーク上で遠方の多数の原子核を結びつけるため、連立方程式の疎行列度が下がり、またインプットデータも膨大なものとなる。将来的な、多次元流体シミュレーションでの天体モデルを考慮したrプロセスの研究で大規模元素合成計算を達成するためには、計算効率の向上や、アルゴリズムの工夫なども必要である。
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