研究課題/領域番号 |
21H01089
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鳥井 寿夫 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (40306535)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
16,640千円 (直接経費: 12,800千円、間接経費: 3,840千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2021年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
|
キーワード | ストロンチウム / レーザー冷却 / 微細構造定数 / 原子波干渉計 / 精密測定 / 準安定状態 / 磁気光学トラップ |
研究開始時の研究の概要 |
微細構造定数の最も正確な測定は、ペニングトラップを用いた電子の異常磁気能率(g-2)の測定値を量子電磁力学の計算と比較することによって行われていた。2018年、原子波干渉計を用いたCs原子の反跳周波数の精密測定より、g-2実験を下回る不確かさで微細構造定数が測定された。本研究は、Cs原子の原子波干渉計の感度を上回る可能性のあるストロンチウムの原子波干渉計を用いて、微細構造定数の測定値の不確かさを更に低減することを目標とする。g-2実験+QEDで得られた微細構造定数との間に有意な差や、微細構造定数の時間変化を検出することができたならば、標準模型を超えた物理への重要な指針を与えることができる。
|
研究実績の概要 |
ストロンチウム原子の準安定状態(5s5p:3P2-5s5d:3D3遷移, 波長496nm)を用いた磁気光学トラップ(green MOT)の諸特性を効率的に調べるための実験装置の改良を主に行った。真空装置に関しては、これまで原子オーブンからの原子ビームを磁気光学トラップ用ガラスセルに直接入射していたが、回転導入機を用いた原子ビームシャッターを新たに導入し、原子ビームを完全に遮断できるようにした。この改善により、磁気光学トラップの寿命測定が正確に行えるようになり、ストロンチウム原子の様々な励起状態の緩和過程を詳細に調べることが可能となった。光学系に関しては、これまで自由空間で種々のレーザー光を真空装置に輸送していた方式から、光ファイバーによる輸送方式に変更した。また、これまでレーザー光の遮断には音響光学素子(AOM)もしくはメカニカルシャッターを用いていたが、これを光ファイバースイッチに変更した。これらの改善により、光学系が大幅に簡素化された。また、複数のレーザー光を光ファイバースプリッターおよびコンバイナーを用いて1本の光ファイバーに集約し、ファブリペロー共振器に導入することにより、複数のレーザー光の周波数を同時に安定化することが可能となった。具体的には、原子オーブンからのコリメートされた原子ビームのドップラーフリー周波数変調分光信号によって絶対周波数が安定化された461nm(5s2:1S0-5s5p:1P1遷移)光源からのレーザー光と、他のレーザー光(483nm, 487nm, 496nm)を共振器長を掃引したファブリペロー共振器に導入し、その透過スペクトルの形状(絶対周波数が安定化された461nm光の透過ピークに対する他のレーザー光の透過ピークの相対位置)をマイクロコンピュータで解析し、他のレーザー光(外部共振器半導体レーザー)の共振器長へフィードバックした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
年度の途中で原子オーブン内のストロンチウム原子が枯渇した。その結果、真空を大気圧に戻して原子オーブンの入れ替えを行う必要があった。大気に曝した真空装置を超高真空に戻すためのベーキング処理中にビューポートのリークが多発し、何度もベーキングを繰り返すこととなった。
|
今後の研究の推進方策 |
ストロンチウム原子の準安定状態(5s5p:3P2-5s5d:3D3遷移)を用いた磁気光学トラップ(green MOT)の性能向上を行う。具体的には、冷却レーザー光(496nm)を、現在の3本の折り返しビームではなく、6本の独立したビームとし、輻射圧の微調整を可能にする。磁気光学トラップされた原子を偏光勾配冷却によってさらに冷却するため、磁気光学トラップ用ガラスセルを磁気シールドで覆う、もしくは補正コイルを導入して、環境磁場を取り除く。また、昨年度は着手できなかった、光誘起脱離(light-induced atom desorption)による磁気光学トラップへのローディングも試行する。パイレックスガラスセルを事前に不働態化(passivate)する目的で、真空装置にルビジウム原子源も導入する。ストロンチウム原子を数マイクロケルビンまで冷却するための確立された手法である狭線幅遷移(689nm)を用いた磁気光学トラップのためのレーザー周波数狭窄化の研究も進める。既存の光共振器を用いた狭窄化ではなく、環境(主に振動や温度変化)の影響を受けにくい原子気体の偏光分光信号を用いた狭窄化を試みる。
|