研究課題/領域番号 |
21H01117
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
深尾 祥紀 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (80443018)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | ミュー粒子 / 稀崩壊探索実験 / SiC半導体 / ビームモニタ / 放射線 / シリコンカーバイド半導体 / ビームモニター / 耐放射線 / シリコン検出器 |
研究開始時の研究の概要 |
素粒子の一つであるミュー粒子が電子に転換する現象を探索する実験を行う。これは未知の現象であり、発見された場合、新物理の証拠となる。本実験は、100兆回に1回起こる現象を捕えることができる感度で実験を遂行する計画である。実験を成功させるためには大量の背景事象(ノイズ)を選り分ける能力が重要であり、本研究において開発する前方シリコン検出器の導入によって、その性能を劇的に改善することを目指す。
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研究実績の概要 |
2021年度では、ミュー粒子ビームモニタ検出器の仕様を決定するための種々の調査を主に行い、並行して基盤技術であるSiC半導体センサーの性能について評価を進めた。 検出器の大きさ、SiCセンサーのサイズや数、SiCセンサーからの信号処理の方法など、基本的な仕様をシミュレーションを用いて設計を進めた。シミュレーションでは、J-PARCからの陽子ビームをCOMET実験装置に入射し、二次ミュー粒子ビームを生成し、ビームの性質についての情報を得る。得られたミュー粒子ビームに対し、本検出器によって得られる信号および本検出器によって引き起こされる実験全体への影響を評価した。本検出器で得られる信号量はビーム強度、ビームエネルギー、ビームの時間構造などに依存し、これらの情報を集約して検出器の信号量として抽出した。二次ビームにはミュー粒子以外の粒子も含まれており、それらとの切り分け方法を検討し、粒子毎の到達時間差を利用することで、実現することを決定した。 SiC半導体センサーそのものの評価としては、1チャンネルの試作機を制作し、それを用いて実験を行った。密封線源によるベータ線照射を用いて、信号波形、信号ゲイン、印加電圧特性などを調査し、J-PARCにおいてパイ粒子ビーム照射による測定も行った。それにより、荷電粒子入射によって得られるSiC半導体の信号量は本研究の目的として十分であることを確認した。 SiCセンサーからの信号の読み出しとして、フロントエンド回路の設計・制作を行った。ビームモニタ検出器が設置される場所はビームに非常に近いため、十分な放射線耐性を持つ必要がある。本研究では、十分な放射線耐性を持つと期待されるASIC(特定用途集積回路)をベースとした回路を制作する。ASIC試作機の設計および制作を行い、そのための評価基板の制作を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
GEANT4によるシミュレーションを用いて、ミュー粒子ビームモニター検出器の仕様の最適化を行った。モニター検出器の設計において、信号の増幅度、信号量の測定範囲を決定する。COMET実験におけるビーム強度に対してモニター検出器が得られる信号量を推定し、モニター検出器の設計における信号の増幅度、信号量の測定範囲を決定する。また、モニター検出器によって散乱されるビーム、背景粒子の増加量を評価し、その影響が十分に小さいことを確認した。 モニター検出器はビームの入射タイミングに同期してデータを取得する必要がある。J-PARC加速器グループと議論し、加速器の入射信号をモニター検出器に取り入れる方式について検討を行った。その情報をもとにモニター検出器のフロントエンド回路の試作一号機の制作を行い、その性能評価を行っている。評価によって得られた情報をもとに、試作二号機の設計を進めている。 バックエンド回路はフロントエンド回路から転送されたデータを受け取り、さらに後段のデータ収集システムへとデータを送る。バックエンド回路は複数のフロントエンド回路からのデータを受け取るため、高速のデータ通信能力を実装する必要がある。また、COMET実験からのトリガー信号や加速器からのタイミング信号を受け取りフロントエンド回路へと送る役割も持っている。バックエンド回路をFPGAをベースとした基板で設計し、その性能評価を行っている。 モニター検出器では、荷電粒子検出のためにSiC半導体センサーを利用する。SiCセンサーを取り付ける電子基板はビームに直接さらされるため、可能な限り薄く、かつ、十分な放射線耐性を備えていなければならない。本研究では、ポリイミドをベースとした電子基板を試作した。通常の電子基板とは異なるため、実機サイズの基板を試作し、起こり得る問題の洗い出しを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き読み出し回路の開発を進める。フロントエンド回路はSiCセンサーからのアナログ信号をデジタル化・整形してバックエンド回路へとデータを転送する。ただしくエンコード・デコードされているかを調査し、エラー頻度を調査する。その上で、アナログ信号のデジタル化が最適化されているかの評価を行い、必要に応じて改善を行う。バックエンド回路は上記のデコードが正しく機能しているかを調べ、フロントエンド回路への設定信号の送信機能の実装・評価を行う。また、バックエンド回路には、加速器信号の取り扱い、COMET実験全体とのデータ同期をとる役割があり、その実装を行う。 SiCセンサー基板は厚さを最小にし、かつ、十分な放射線耐性を持たせるために、ポリイミド樹脂基板を採用している。通常、リボンケーブルとして利用されている技術であるが、本検出器のような大面積の基板は通常ない。基板に歪みやたわみがないかを調査し、信号線の導通を確認する。また、SiCセンサーに高電圧を印加するため、それによる問題がないか、SiCセンサーからの微小なアナログ信号の転送に対してノイズの影響がないか、などの電気的な特性を調査する必要がある。 SiCセンサーそのものとしては、これまで、密封線源による低エネルギーベータ線、加速器による高エネルギー荷電パイ粒子ビームの照射により、性能を評価してきた。実際のCOMET実験では、その中間程度のエネルギーのミュー粒子ビームを検出する。そのエネルギー領域においては、SiC半導体の出力信号量はミュー粒子のエネルギーに強く依存するため、ミュー粒子入射によるSiCセンサーの反応を実際に測定しなければ、検出器全体の設計を最適化できない。そのためのミュー粒子ビームによるビーム照射試験を計画している。
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