研究課題
基盤研究(B)
超新星残骸における宇宙線加速の理解は、高エネルギー天文学の重要課題である。申請者はこれまでに、超新星残骸に付随する星間雲の特定が、被加速粒子の振る舞いや非熱的放射の理解に不可欠であることを示してきた。一方で銀河系内の研究対象は、星間雲の解像が容易な視直径の大きい太陽系近傍天体に限定されていた。本研究では、電波干渉計 ALMA による高解像度分子雲探査を軸に、系内天体の大部分を占める視直径0.5度以下の遠方天体にこれを拡張する。従来の10倍以上広い空間レンジで被加速宇宙線エネルギーを定量し、宇宙線加速や非熱的放射に対する星間雲の役割を銀河スケールで明らかにする。
[1] SN1006 に付随する星間雲の特定 (Sano et al. 2022, ApJ, 933, 157)超新星残骸 (SNR) SN1006 に付随する原子雲 (HIガス) を、ATCA 電波干渉計を HI 線データの空間・速度分布解析によってかつてない確度で特定・定量した。結果として SN1006 が、白色矮星と伴星からなるシステムからの質量降着風によって形成されたバブル内部で爆発したというシナリオを提案した。また、被加速宇宙線陽子の全エネルギー Wp は、わずか ~1.2-2.0×10^47 erg であり、これまでの SNR 年齢-Wp の関係ともそういないことを確認した。宇宙線加速効率の SNR 年齢依存性を議論するうえで重要な研究成果である。[2] Puppis A に付随する星間雲の特定 (Aruga, Sano et al. 2022, ApJ, 938, 94)NANTEN2 電波望遠鏡や ATCA 電波干渉計を駆使して、SNR Puppis A に付随する星間雲を特定した。CO/HIの膨張シェル、高いガス温度などが決め手だった。ガンマ線との比較から、加速された宇宙線の大部分がすでにSNRから拡散していることを突き止めた。宇宙線の拡散過程を観測的に解明した貴重なサンプルである。[3] ALMA 観測提案の受理 (PI: 1件, Co-I: 2件)ALMA Cycle 9 において、SNR 方向の CO 輝線観測を提案した。結果として、ガンマ線 SNR RCW 103 や、Puppis A, IC443 の計3天体の観測が PI として1件、Co-I として2件採択された。Puppis A については、[2] の研究成果の発展を促すものであり、大変意義深い。観測はほぼ全て完了し、次年度以降の研究推進のための必要不可欠なデータを準備することができた。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルスの世界的な蔓延による ALMA 電波干渉計の運用停止など、データ取得に若干の遅れが生じたが、当該研究課題に関する成果を、申請代表者が主著または責任著者の2編の査読つき論文 (Sano et al. 2022, ApJ, 933, 157; Aruga, Sano et al. 2022, ApJ, 938, 94) として出版できたこと、さらに ALMA 観測提案3件の採択に鑑みて、上記の区分を選択した。
10個を超える SNR について、ALMA による CO 輝線観測データが取得できたので、これらのデータ解析を進める。具体的には、干渉計データのリダクションをはじめ、 SNR シェルとの比較による空間・速度分布解析や、non-LTE 近似を用いた付随分子雲の運動温度および水素分子個数密度の定量を行う。併せて、ALMA への追加の観測提案も積極的に行う。成果は査読つき論文として出版できるように準備し、それらのブラッシュアップのために、国内外の研究会で積極的に講演を行う。
すべて 2023 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 13件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 12件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 8件、 招待講演 6件) 備考 (2件)
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