研究課題/領域番号 |
21H01259
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分19020:熱工学関連
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研究機関 | 九州工業大学 (2023) 東京大学 (2021-2022) |
研究代表者 |
児玉 高志 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (10548522)
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研究分担者 |
志賀 拓麿 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (10730088)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,940千円 (直接経費: 13,800千円、間接経費: 4,140千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2021年度: 11,180千円 (直接経費: 8,600千円、間接経費: 2,580千円)
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キーワード | ナノスケール伝熱 / マイクロ/ナノ加工 / 熱エネルギー工学 / 高熱伝導材料 / 高電気伝導線材 / カーボンナノチューブ / 分子内包効果 / 線材化技術 / マイクロ・ナノ加工 / 熱電変換材料 / ナノ/マイクロ加工 |
研究開始時の研究の概要 |
カーボンナノチューブ(Carbon nanotube, CNT)は優れた電気・熱伝導性を有する代表的なナノ材料であり、様々な分野で工学応用が期待されている。CNTはバルク構造化によって電気・熱伝導率がそれぞれ大きく低下してしまうことが現在の課題となっているが、その性能劣化は主にナノレベルにおけるCNTの伝導性の変化によって生じていることが、近年の研究で新たに明らかになっている。本研究では、これまでに申請者が開発した単一ナノ構造体やバルク体の伝導測定技術を利用して、様々な材料形態のCNTに対して伝導率の"階層的評価"を行い、複合材料化によるCNTの伝導機構の解明と戦略的な伝導性制御に挑戦する。
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研究実績の概要 |
本申請研究では、カーボンナノチューブ(Carbon nanotube, CNT)のバンドル化や分子内包といった”複合ナノ構造化”によるナノレベルにおける物性変化がCNTバルク構造体の熱物性に与える波及効果に着目し、サスペンドマイクロ加工デバイスを用いたナノスケール熱伝導測定技術、および我々研究グループが新たに開発したバルクスケール四端子熱計測技術を利用した実証実験、および分子シミュレーションを融合させることで、ナノスケールの熱伝導性の変調メカニズムやバルク構造体への物性伝搬メカニズムの解明を目標として研究を遂行している。 2年目は、1年目に得られた単一バンドルレベルでの熱伝導率の劣化がバルク構造体の熱伝導率に波及することで熱伝導率の低下を促進しているという知見に基づき、バルク線材を自前で製作するための技術開発と熱伝導率の劣化メカニズムの仮説の構築、および材料選定に着手した。まずCNTの線材化技術に関しては、研究室内にシリンジポンプと小型回転テーブルを組み合わせた自作システムを構築し、様々な分散剤、凝固剤を用いて線材開発に着手した。CNTを線材化させるためには、溶媒の粘性が重要な物性であり、また、分散溶媒のCNT濃度が線材密度と熱伝導性に密接に関与していることなどの重要な知見を見出した。また、CNTを分散させる過程で強い超音波処理を施した場合、平均長さの低下などの理由により、製作される線材の密度や熱伝導性が大きく低下することがわかった。これらの結果、CNTの湿式紡糸に良く利用されているコール酸ナトリウムなど界面活性剤を利用した水溶液の場合、溶解可能なCNT濃度に限界があり、分散溶媒は硫酸やクロロスルホン酸など広く利用されている強酸が利用可能な溶媒であること、それらの溶媒に対して更に平均長さの長い商用CNTを超音波処理を施さずにゆるやかに溶媒に分散させる必要があることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標であるCNTの熱伝導性のナノスケールからバルクスケールの伝搬メカニズムに関しては、1年目にナノレベルでの性能劣化が生じていることを見出し、CNTバンドルの結晶性の低下が要因であるという仮説を導き出している。それを解決するための手段として、直径分布の狭い原材料に対して高密度、高配向の線材を製作することができれば、この仮説の実証実験が可能であり、この理由により、2年目は自前でバルク線材を開発するための技術開発と線材化するための条件検討、使用する商用CNTの選定を中心に研究を遂行した。その結果、自前の線材化が可能であること、使用可能な溶媒やCNT原料などに関して、絞り込みを行うことができた。年度内に所属研究機関の異動があり、特に本研究で主要な役割を担っているナノスケールの伝導測定に必要な測定デバイスの加工などに関して、研究技術の再構築が必要である点など、3年目の研究遂行に関して懸念点があるが、1年目に製作したデバイスを再利用するなどの手段で本助成の研究期間を研究計画どおり遂行する予定であり、おおむね順調に進んでいると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たる2023年度は、これまでの助成期間で開発、および確立したマイクロデバイス定常法とバルクスケール四端子熱計測法を積極的に活用し、バルクスケールのカーボンナノチューブ(Carbon nanotube, CNT)材料の熱伝導率を向上させる方法論を検討する。実験はナノからマクロスケールまで様々な材料形態のCNTに対して一貫して包括的に伝導率評価を行い、実験試料としては、共同研究者より提供されている遷移金属ダイカルゴゲナイド内包CNTや直径分布幅の狭いCNTを中心として、昨年度に見出したOCSiAl社製単層CNTなど、商用で平均長さの長い試料に対して、単一チューブや単一バンドルのナノスケール電気・熱伝導率、熱起電力の測定を行い、バンドルレベルでの性能変化について実証実験を行う。また、多量の試料を手に入れることが可能な商用材料であるOCSiAl社製単層CNTや名城ナノカーボン社製単層CNTに関しては、自前で線材を製作し、伝導性の評価を行う計画である。世界的に広く利用されている硫酸や硝酸、クロロスルホン酸をCNTを分散させるための溶媒として選定し、それらの溶媒を凝固液上に注射針で押し出すことで線材を得る予定である。線材を製作するための重要なパラメータであり、2年目に検討することができなかった押し出し速度や針先端径、溶媒温度などについても検証を行う。そして出来上がった線材に関しては、材料密度と熱伝導性の関係性を議論し、X線測定や偏光ラマン散乱測定でCNTの配向度に関する議論まで行う予定である。電気伝導率に関しては、別途ドープ剤を添加することで電気伝導率の変化についての検証も行う。これら一連の実験結果から、CNT材料の階層性に関する学理を構築し、分子シミュレーションと共にバルク材料の性能向上に関する知見を報告することまでを最終年度の目標とする。
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