研究課題/領域番号 |
21H01317
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分21010:電力工学関連
|
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
内田 諭 東京都立大学, システムデザイン研究科, 教授 (90305417)
|
研究分担者 |
小田 昭紀 千葉工業大学, 工学部, 教授 (70335090)
立花 孝介 大分大学, 理工学部, 助教 (10827314)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
12,740千円 (直接経費: 9,800千円、間接経費: 2,940千円)
2023年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2022年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2021年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
|
キーワード | 電荷 / 電界 / プラズマ医療 / 分子動力学法 / 細胞膜 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、大気圧プラズマ照射による医療応用が進展し、がん治療、止血処置や遺伝子導入に おける有用な成果が得られている。これらは、主に放電由来の化学活性種が外的因子となり、細胞を刺激して生じることが実験的に示されている。一方でプラズマが細胞近傍に誘起する電荷や電界は、表面帯電や膜電位変動を介して細胞膜の物質輸送へ直接的に影響を与えうるが、その機構は十分に理解されていない。 本研究では、プラズマ・希薄水層・細胞膜の各階層を数値的にモデル化して、界面パラメータを介した統合を行うととともに、放電電流電圧条件を精査することで、膜帯電および膜電位に対する細胞自身の電気定数ならびに膜輸送係数の変移を定量化する。
|
研究実績の概要 |
近年、大気圧プラズマ照射による医療応用が進展し、がん治療、止血処置や遺伝子導入における有用な成果が得られている。これらは、主に放電由来の化学活性種が外的因子となり、細胞を刺激して生じることが実験的に示されている。一方でプラズマが細胞近傍に誘起する電荷や電界は、表面帯電や膜電位変動を介して細胞膜の物質輸送へ直接的に影響を与えうるが、その機構は十分に理解されていない。 本研究の目的は、プラズマが誘起する電荷および電界が細胞膜の物質輸送機能に対してどのような影響を与えるか、その物理的特性を明確にするため、プラズマ・希薄水層・細胞膜の各階層を数値的にモデル化して、界面パラメータを介した統合を行うとともに、電流電圧条件を精査することで、膜帯電および膜電位に対する細胞電気定数ならびに膜輸送係数の変移を定量化することである。具体的には、(1)大気圧グロー放電照射により生じる細胞膜への誘起電荷および電界を導出する。(2)希薄水層上の気液界面における荷電粒子分布を分子動力学的に解析する。(3)界面の電気二重層を含む帯電細胞膜をモデル化し、細胞電気定数の変動を検証する。(4)3階層間における誘起電荷量ならびに電界分布を整合したモデルを構築して、電界印加時における細胞膜の膜輸送係数を定量化する。(5)実験結果と比較して、細胞膜における浸透機構および浸透効率を考察する。 上記の目的を達成するため、プラズマ・希薄水層・細胞膜を数値モデル化し、段階的な計算工程にて研究を行う必要がある。そこで、本年度は、前年度の基本モデルで得られた電荷・電界パラメータを介して、統合モデルへの拡張を行った。実際に、① 誘起膜電位の等価回路検証、② 電界下における希薄水層内の電荷移動解析、③ 帯電膜における電気定数変移の考察を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①「誘起膜電位の等価回路検証」については、昨年度作成したHe/N2グロー放電の1次元流体近似シミュレーションにより導出したプラズマインピーダンスを入力値とし、細胞を多段の抵抗および容量の直並列で近似した等価回路モデルを構築した。この時に上部水層や細胞膜、また細胞質内に印加される電圧(電界)を定量的に導出した。これらは、先行研究で示された文献の特性と傾向がよく一致していた。さらに、正確な帯電膜の状態を評価するため、電荷流入フラックスを再計算した。 ②「電界下における希薄水層内の電荷移動解析」については、理論的な考察を深めるため、関連文献を再調査するとともに、典型的な電荷移動量の簡易計算を行った。結論として、分子動力学シミュレーションを行うには、時間スケールの問題があることが分かった。また、詳細な検討を行うには、2次反応の考慮が必要であり、最終的な電荷の移動のみを考慮するのであれば、マクロな視点から帯電量を見積もる方が適している、と判断した。 ③「帯電膜における電気定数変移の考察」については、上記項目②の結果を踏まえ、まずは広い範囲での最終帯電状態を仮定して、対応する誘起電界を想定し、膜電位以下から膜破壊に至るまでの電界印加を前年度に作成した脂質二重構造の膜分子モデルに適用して分子動力学シミュレーションを実施した。過酸化水素の膜中自由エネルギーが電界印加によって、正負極性の側で段階的な変動が生じていることを確認した。これは構成分子の分極性等に変化が生じた可能性を示唆している。ただし、定量値については、精度の面でやや不確実さが見られたため、再計算による統計処理が必要である。 以上の成果は、国内外の学術会議において適宜報告しており、研究はおおむね適切かつ順調に行われていると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、前年度の結果を踏まえて放電電流電圧における制御条件の検証を行い、膜電界に対する物質輸送諸量の変化を定量的に精査する。 ① 放電電流・電圧における制御条件の検証(担当:小田・内田) 流体モデルと回路モデルを統合して計算の自動化・効率化を図るとともに、プラズマにおける電流電圧条件と細胞膜への局所誘起電界分布の相関を明らかにしてデータベース化する。 ② 膜電位変化に対する物質輸送諸量の定量化(担当:内田・立花) 上記項目①における誘起電界を膜電位に重畳し、典型的な活性種(H2O2)やイオンに対する細胞膜の物質輸送諸量(自由エネルギー、局所拡散係数、膜浸透係数、チャネル透過率)を古典MDおよびアンブレラサンプリングにより統計的に導出して定量化する。そして、制御条件に対する浸透効率から膜透過機構を考察する。
|