研究課題/領域番号 |
21H01402
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分22010:土木材料、施工および建設マネジメント関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
杉山 隆文 北海道大学, 工学研究院, 教授 (70261865)
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研究分担者 |
松本 浩嗣 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (10573660)
高橋 駿人 東京理科大学, 創域理工学部社会基盤工学科, 助教 (30861786)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
16,380千円 (直接経費: 12,600千円、間接経費: 3,780千円)
2023年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2022年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2021年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | コンクリート / X線CT / カーボンニュートラル / 長寿命化 / 建設材料 / 放射光 / X線CT法 / 環境負荷低減 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の概要は、新しいコンクリート材料が研究開発される中で、放射線技術を積極活用することで、研究開発に要する時間を著しく短縮するとともに生産性を向上させる新たな研究手法を開発することにある。特性把握のための適正な試料寸法に基づき、時空間を極限まで縮小し、この構造内部を非破壊で繰り返し観察できる3次元透視技術を開発する。高強度X線および放射光X線等を用いることで、材料開発におけるデジタルデータを一元化して、これにより「土木構造材料開発におけるデジタルエンジニアリング」の構築に資する材料開発手法を研究する。
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研究実績の概要 |
材料開発段階における生産性向上をはかるために、微小供試体を用いた短時間の実験から、マイクロメートルオーダーで分析できる放射線利用の有効性を調べることを目的としている。実験では、直径3㎜、高さ6㎜の微小円柱供試体のセメント水和物の溶脱に伴う劣化を短期間に再現して、非破壊CT-XRD連成法を用いて空隙構造の変化を調べた。30日間の溶出試験では、X線CT画像の解析結果から、微小供試体の円縁周辺部で水酸化カルシウムの溶出に伴い空隙が増加することを示した。溶出試験時間を200日まで延長すると、微小供試体の全断面で空隙率が増加していた。また、溶出試験の雰囲気温度を80℃へ高温とすると変質範囲が拡大して空隙率も増加した。さらに、変質領域と非変質領域における拡散係数の相違を、CT画像解析とランダムウォークシミュレーションから定量的に示した。これまで、セメントペーストと骨材の界面(遷移帯)の拡散係数は直接測定することが困難であったが、X線CT法から取得したデータの画像処置によって、遷移帯を抽出することで、拡散係数を求めることが可能になることを示した。これによって、水と接するコンクリートでは、水和物の溶脱によって拡散係数が10倍程度増加し、さらに遷移帯における溶出の進行が速まることを明らかにした。また、X線CT法と数値解析を組み合わせることで劣化の将来予測が可能となる手法の開発を行った。すなわち、CT画像のデジタルデータはモデル化に対して優れた親和性を有しており、コンクリートをセメントペースト、骨材、遷移帯の3相としてそれぞれの形状および寸法を忠実にモデル化できることを示した。このように放射線技術と数値演算処理を組み合わせることで、材料開発段階における生産性を著しく向上できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コンクリートの変質において、水と接することによるカルシウム溶出に関係する劣化は、塩害にかかわる塩化物イオンの浸透とは異なり、劣化の進行が極端に緩慢な現象である。そこで、あえてカルシウム溶出による変質状況をX線を用いて分析することで時間短縮の可能性を調べている。すなわち、供試体寸法および試験時間の大幅な短縮によって、時空間を極限まで最小化し、劣化を再現した硬化体の構造内部をマイクロメートルオーダーで観察しながら、非破壊の特徴を生かした繰り返し観察によって、3次元透視画像による客観性ある評価手法の可能性を示した。特に非破壊でコンクリートの内部構造をありのままに画像化できる最大の特徴を生かして、材料の変質状態を同一供試体を用いて4次元(空間+時間)で研究できることで、空隙率の経時変化を定量的に求めることが可能であることを示した。 また、現象の再現に関してスケールアップした供試体を用いて変質の加速実験を行い、この供試体について高強度X線源を利用した。微小供試体と比較して膨大なデータ処理が必要となり、その演算手法に関する研究に着手できた。 現在までの進捗は概ね順調と判断した。なお、本研究の推進には放射線装置の適用が必要である。したがって、装置利用法を考慮しながら研究を推進することが必要となる。これまで、大型放射光施設や学内や学外施設の利用が順調に行われている。
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今後の研究の推進方策 |
セメント系硬化体の性質を調べる研究では、従来長期間に及ぶ試験時間と比較的大規模な供試体が使用されてきた。しかし、本研究課題では、時空間を大幅に低減できる手法の開発を行っている。すなわち、高耐久で低環境負荷な新材料の研究開発段階における生産性向上に寄与するX線CT法の優位性を示すことが可能であることを示した。これまで指摘されているように、持続可能な社会におけるインフラの構築や維持管理において、とくにカーボンニュートラルの達成にも寄与することが可能となるコンクリート構造物の設計や施工、維持管理、解体廃棄におけるライフサイクルにかかるセメント系材料の特性を把握することが重要である。つまり、効果的な方策としては、コンクリート構造物の長寿命化であり、新たな資源やエネルギーの投入を極力低減させることになる。セメント系硬化体の性質を把握するには、現象的に乖離しないような実験手法の選択が大切であり、劣化要因と関係するコンクリートの微細構造における物質移動性の理解が重要となる。これらを踏まえ、水セメント比が0.5程度や普通ポルトランドセメントの使用による一般的な材料から、カーボンニュートラルにつながる新しい材料の開発に向けた、放射線技術の適用性についての研究を引き続き推進する。
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