研究課題/領域番号 |
21H01441
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分22040:水工学関連
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
片岡 智哉 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 准教授 (70553767)
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研究分担者 |
古谷 昌大 福井工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (30737028)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2021年度: 10,530千円 (直接経費: 8,100千円、間接経費: 2,430千円)
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キーワード | プラスチック微細片 / 劣化指標 / 流域流出 / モデリング / 紫外線劣化 / 紫外線促進劣化試験 / 力学的特性 / 化学的特性 / 低分子量 / 光劣化 / 力学特性 / 化学特性 |
研究開始時の研究の概要 |
「海洋環境中で低次から高次までの全ての海洋生物に有害汚染物質を運ぶ5mm未満のプラスチック微細片(S-MicP)は,流域圏のどこでどのように生成され,どのような過程で河川に流出しているのだろうか?」本研究では,この学術的な「問い」に応えるため,流域圏で化学的・力学的刺激に暴露されているプラスチックからS-MicPが生成される高分子科学的過程,並びに様々な土地形態が含有する流域圏から河川に降水が流出する水工学的過程を考慮した流域圏から河川へのS-MicP流出量の推定モデルを開発する.
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研究実績の概要 |
本研究は,流域圏における5mm未満のプラスチック微細片(S-MicP)の生成過程と流域圏から河川への流出過程を考慮した流域圏から河川へのS-MicP流出量推定モデルを開発することを目的としている. 当該年度ではS-MicP生成過程のモデル化のため,流域圏に散乱する代表的なプラスチックゴミであるペットボトルキャップに着目し,新品のペットボトルキャップ4種を用いた紫外線(UV)促進劣化試験を行い,72時間毎(松山市の紫外線強度で1年分に相当)にウルトラミクロ天秤で質量,共焦点レーザー顕微鏡で表面形状,赤外顕微鏡でIRスペクトルを取得して,質量・表面形状・化学組成の経時変化を得た.これらの結果に基づき,質量・表面形状に関する劣化度モデルを構築し,実際に河川河岸に漂着するペットボトルキャップの野外暴露時間を推定した.さらに,キャップの賞味期限から推定した野外暴露時間と比較したところ,有意な相関があり,モデルの妥当性を確認した. また,屋内外でのペットボトルキャップの暴露試験を行い,デシケータ内(コントロール),屋外及び屋内(水中・日向・日陰・冷蔵庫)の計6箇所に静置し,化学的特性と力学的特性を評価した.その結果,屋外及び屋内(水中)で32週間後に顕著な接触角の増大が見られ,水分による試料表面の劣化が確認された.また,力学的特性では,屋内(冷蔵庫)以外の試料において寒暖差によるキャップの脆化が示唆された.さらに,ソックスレーと溶媒偏析による低分子量化合物の抽出を行い,GC-MS及び1H-NMR測定を行うことで,効果的な添加剤抽出方法について検討した.ソックスレー抽出の1H-NMRスペクトルから芳香族や酸素原子を含む化学構造の存在が示唆され,GC-MS分析の結果,滑剤や可塑剤に由来する化合物と考えられた.溶媒偏析抽出によるGC-MS分析の結果,酸化防止剤や光安定剤が確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度はペットボトルラベルに着目したが,UV促進劣化試験やモデル構築の困難さから当該年度は,同じく流域圏に散乱する代表的なプラスチックゴミであるペットボトルキャップに着目し,UV促進劣化試験に基づき,プラスチック微細片(S-MicP)の生成過程のモデル化を行い,重信川河岸に漂着するペットボトルキャップの劣化度から野外暴露時間推定の妥当性の検証を行った. 当該年度の研究実績により,UV劣化により質量が線形的に減少することが明らかとなり,その質量減少率は表面粗さから得られる算術平均粗さと有意な相関があり,nmレベルのサイズで微細なプラスチックが発生する可能性が示唆された.この成果により陸域散乱プラスチックごみからのS-MicPの発生量を見積もるための基礎モデル(S-MicP発生量モデル)が構築できた.さらに,本モデルを用いて日本全国におけるペットボトルキャップからのS-MicPの発生量を見積もった. さらに,ペットボトルキャップの力学的特性及び化学的特性や低分子量化合物の評価方法についても検討を行い,水分の有無による劣化の差異や添加剤の抽出に成功した. 以上のことから, S-MicPの発生量のモデル構築や劣化過程を評価するための基礎的な分析方法を確立していることから,当初計画通りに研究を推進することができた.
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今後の研究の推進方策 |
当該年度に実施したUV促進劣化試験は,乾燥状態の試料を対象にした.しかし,当該年度の成果により,水分の有無による劣化の差異が明らかとなったため,次年度は乾湿状態の差異による質量・表面形状・化学組成に関する劣化度の経時変化を明らかにして,劣化度モデルの説明変数に組み込む. これらにより新たに構築したS-MicP発生量モデルを適用して日本全国流域圏におけるS-MicP発生量を見積もる.さらに,重信川流域を対象に,流出解析モデルを用いて降雨時の表面流出水の動態についてもモデル化をして,重信川流域圏におけるS-MicPの表面流出モデルを構築する. また,当該年度に実施した屋内外でのペットボトルキャップの暴露試験結果を踏まえ,ペットボトルキャップ試料に対する加温や冷却,水中への浸漬を人工的かつ系統的に行う.それらの環境因子が試料の力学的特性や化学的特性に及ぼす影響を調べる.装置としては,超微小押込み硬さ試験機や接触角計,ATR-IRの使用を考えている.一方で,添加剤の含有量の評価方法については,試料が少量であっても簡便で再現性良く評価できる方法を確立する.分析装置としては,GC-MSや1H-NMRを用いる.さらに, TG-DTA測定等により新品試料と劣化試料の差異を把握することで,ペットボトルキャップの質量減少の要因について考察する.
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