研究課題/領域番号 |
21H01605
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26010:金属材料物性関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
河江 達也 九州大学, 工学研究院, 准教授 (30253503)
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研究分担者 |
稲垣 祐次 岡山理科大学, 基盤教育センター, 准教授 (10335458)
丸山 勲 福岡工業大学, 情報工学部, 准教授 (20422339)
志賀 雅亘 九州大学, 工学研究院, 助教 (40961701)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2021年度: 11,960千円 (直接経費: 9,200千円、間接経費: 2,760千円)
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キーワード | 水素 / 極低温 / 量子トンネル / 金属内への侵入・拡散 / 非弾性電子分光 / 量子効果 / 超伝導 / ジョセフソン効果 / 量子ノイズ / ニオブ / バナジウム / 鉛 |
研究開始時の研究の概要 |
これまでの研究で申請者は、液体水素中で金属ナノ接合に数十mV程度の微小電圧を印加すると、金属内に水素が侵入・拡散し高濃度水素化物が生成されることを明らかにしている。本計画はこの現象の起源を解明するため ①金属表面から内部への水素侵入 ②内部での水素拡散、の2過程に注目して非弾性電子分光測定を利用することで微視的に追跡する。①に関しては、金属表面の構造、表面における水素密度、温度変化などに注目して実験を行い水素侵入が起きる条件を明らかにする。②については水素トンネルに焦点を当て研究を進める。以上をもとに①②それぞれに対する電圧印可の役割を解明することで、本現象の全容解明を行う。
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研究実績の概要 |
Nb製超伝導-常伝導-超伝導ジョセフソン接合(SNS-JJ)を作製し、その表面に水素を吸着させた際の微分伝導信号dI/dVを詳細に調べた。セル内に水素(H2)を導入する前は超伝導ギャップに起因するピークが見られた。一方、T~20KでH2をSNS-JJに吸着させると超伝導ギャップ内の信号は大きく変化し、電圧値の正負に対して対称的にスパイク状のピークがほぼ等間隔に多数出現した。さらに、温度変化させてもスパイク間隔は変化せず、超伝導転移より高温ではスパイクは消失した。またHe吸着ではこのような変化はない。Nbは水素吸蔵金属なので、同様の実験を水素が吸蔵されず、超伝導転移する金属であるPb製SNS型ジョセフソン接合で行ったところ、やはり超伝導ギャップより低エネルギー側のdI/dV信号にスパイク状ピークが多数出現することが分かった。さらにこのスパイク状ピークは、温度やコンタクトサイズを変化させても、大きく変化しない。以上より、スパイク構造の起源は表面に吸着した水素が、超伝導電流と相互作用をすることによってノイズ構造を発生することが明らかになった。 SNS-JJ内部に侵入した水素が超伝導電流に対して、どのような影響を与えるかについても調べた。微量の水素を予めバナジウム(V)金属ワイヤに吸蔵させ、超伝導転移温度(Tc~5.2K)以下まで冷却し、MCBJ法を用いてSNS-JJを作製しその信号を調べた。その結果、超伝導ギャップより高エネルギー側にも電流異常が出現することが分かった。さらにその温度変化、水素不純物濃度変化、ジョセフソン接合のサイズ変化、水素位置の変化などを調べることで、このスパイク状ノイズが超伝導中の準粒子の干渉により発生していることが明らかになった。以上より、素子内に不純物や欠陥が存在することでも準粒子の干渉が誘起され、超伝導電流に対するノイズ源になることを明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
極低温域では物質の熱運動は抑制される。しかし水素は質量が最も小さい元素であるため、ヘリウムと並んで強い量子性を示すことが知られている。したがって極低温域でもトンネル効果によって物質中に侵入・拡散が起きる可能性がある。さらに近年注目を浴びる量子コンピュータに使用される量子ビットにおいても、水素が量子ノイズの原因となることが近年の研究で明らかになっている。しかし、液体水素温度域での金属と水素間相互作用はほとんど研究されていなかった。 これまでの我々の研究で、液体水素中で金属ナノ接合に数十mV程度の微小電圧を印加すると、金属内に水素が侵入・拡散し高濃度水素化物が生成されることが明らかになった。特にこの水素侵入については、常伝導金属の非弾性電子分光、超伝導のジョセフソン電流変化を利用することで、ナノ金属に30mV程度の電圧を印加すると急激に進行することを明らかにできた。さらに、超伝導ジョセフソン接合に水素が吸着した場合、多数のスパイク状ノイズが発生することを明らかにした。また、ジョセフソン接合内に侵入した水素は超伝導波動関数の干渉効果を引き起こすことを明らかにした。以上のように水素が引き起こす量子ノイズに関しても研究を進展させることができた。 またこれら研究に関連して論文発表もできている。このような理由より研究は順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験より超伝導-常伝導-超伝導ジョセフソン接合(SNS-JJ)に水素が吸着した場合、多数のスパイク状ノイズが発生すること、内部に侵入した水素は超伝導波動関数の干渉効果を引き起こすことを明らかにした。これら現象は、近年の超伝導量子ビットにおける量子ノイズの問題と関係する。そこで、SNS-JJに吸着あるいは侵入した水素の引き起こす量子現象について、微細加工試料や単結晶薄膜試料などを用いてより詳細に調べる。また重水素効果についても明らかにすることで超伝導クーパー対と水素・重水素の相互作用について明らかにしていく。 近年、高濃度水素化物に100GPa以上の圧力を印加すると室温でも超伝導が出現することが発見され大変な注目を集めている。一方、パラジウム水素化物PdHxは水素濃度xが0.75以上になると常圧でも超伝導が出現し、水素濃度xの増加とともに転移温度が上昇する。しかしこのPdHxの超伝導は良質の試料が作製できないことが原因で、その超伝導特性は十分明らかにされていなかった。我々は室温より十分低温でPdHxを作製することで非常に高品質の試料作製に成功した。微細加工したPd試料に低温水素吸蔵技術を組み合わせることでPdHxの超伝導特性を調べ、水素化物における高温超伝導出現のヒントを探る。 極低温域における金属内の水素拡散はフォノン・アシストトンネル(PAT)機構に起因する。もし水素拡散がPAT機構に起因するのであれば、金属ナノ接合に印可する電圧値をスイープさせていくと、それに合わせて水素拡散の大きさが変化すると予想される。これまでの研究でPATに起因すると思われるピーク構造が見られた。今年度は同様の実験をトンネル拡散が大きく抑制されると予想される重水素で行いPATの観測を目指す。以上をもとに量子トンネルによる水素の拡散過程を実験的に解明する。
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