研究課題/領域番号 |
21H01636
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26030:複合材料および界面関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福本 信次 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (60275310)
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研究分担者 |
松嶋 道也 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (90403154)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
15,860千円 (直接経費: 12,200千円、間接経費: 3,660千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2021年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | 多孔質 / 毛細管現象 / 浸透 / 液相 / 接合 / 毛細管 / 多孔質体 / 連続孔 / すず合金 / 銅 / 浸透現象 |
研究開始時の研究の概要 |
自動車産業は今後20年で電気自動車が主流になるため,電力制御を担うパワーデバイスの実装技術の開発に注力する必要がある.本研究はSiC次世代パワー半導体と基板との接合(ダイボンド)に適した接合材料およびプロセス開発を目指したものである. 連続微細孔を有するポーラス(多孔質)体には毛細管現象によって液体(金属融液)が速やかに浸透する.接合のためのインサート材として適切な微細孔を有するポーラス体を設計および作製し,すずなどの低融点金属を浸透させることで接合する液相浸透接合の技術を確立することを目的とする.
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研究実績の概要 |
次世代パワー半導体ダイボンド技術として,多孔質材における毛管圧力を駆動力とした液体の浸透現象を活用した新規接合法の開発を目的としている.本年度は主に銅およびアルミニウムの多孔質体の創製と各種すず合金の浸透性を評価し,接合性への材料および多孔質構造の影響を検討した. 【多孔質体の作製】銅およびアルミニウムの多孔質体を粉末冶金法によって作製し,粉末径および焼結条件に対する多孔質構造の変化を調べた.またスペーサ法ならびに粉末床溶融焼結法を用いて空隙率の大きな銅およびアルミニウム多孔質体の創製をそれぞれ試みた.焼結条件および材料の選定によって,銅多孔質体の空隙率は13.7%~26.7%,空孔径は4.9~12.5μmまで変化させることが可能となった.アルミニウムに対しては粉末床溶融結合法によって微小凹凸を表面に付与することができた. 【多孔質体における浸透現象】多孔質銅へSn-Bi,Sn-Ag-Cu(SAC),Sn-Pb,およびSn-Zn-Biソルダペーストを溶浸させた.Sn-Znソルダ以外はすべて多孔質銅へ浸透し,浸透性が各種ソルダの毛管圧力に依存することが示された.溶融ソルダの浸透速度はルーカスウォッシュバーンの式で見積もられる速度に比して遅く,等温凝固の進行とともに減速することが明らかになった. 【銅の接合】多孔質銅を被接合銅間に挿入し,そこにSn-Znソルダ以外の3種類のソルダを浸透させた場合,いずれも銅同士の接合が可能となった.浸透したSACソルダは骨格を形成する銅と反応し,Cu-Sn系IMCを形成した.接合層は銅とIMCが絡み合う構造となり,50MPaを超える接合界面せん断強度が得られた.一方,Sn-Biを浸透させた接合部は,優先的にSnと銅が反応するため,接合界面に脆弱なBiリッチ相が生成し,低接合強度となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【連続孔を有する多孔質体の作製】 本新規接合法の達成のためには,第1段階として連続孔を有する多孔質体の作製およびその空孔率の制御が必須であった.昨年度は比較的簡便なプロセスである粉末冶金法を用いてその作製に成功した.今年度はインサート層となる銅多孔質体の構造設計の自由度を増すため,空隙率および空孔径の範囲を広げることを目指し焼結条件,焼結方法ならびに粉末径を変化させた.空隙率と空孔径を独立制御することは困難であるが,溶融すず合金が隅々まで浸透できる多孔質体の作製が可能となった.アルミニウムの多孔質体を3次元造形法である粉末床溶融焼結法で創製を試み,表面へ起伏を付与する段階まで進んでいる. 【多孔質体への低融点金属の浸透現象】 浸透現象の解明のため表面エネルギーの異なる4種類のSn系ソルダの浸透実験を行った.溶融ソルダの多孔質体への浸透現象をCCDカメラを用いてその場観察できる装置を組み,浸透速度を測定し,浸透現象を定量的に評価できるようになった.銅と溶融錫の固液反応であるため,浸透速度が減速することが明らかになった.浸透する合金の表面エネルギーや銅とのぬれ性の違いが浸透性に影響することを明らかにしており,順調に進んでいる.ただし,当初予定していた非反応系の浸透現象については,多孔質銅へのアセトンなどの溶媒の浸透現象を観察するにとどまっている. 【多孔質体をインサート材として用いた接合】 多孔質体を被接合体の間に挿入し,接合界面の外側からすず合金を浸透させることで銅の接合が可能であることは昨年度に示された.本年度は接合層の微細組織形成について調べた.浸透材料の組成と接合層の微細組織および接合強度の関係が明らかになり,静的強度の調査については順調に進んでいる.耐温度サイクル特性に対する接合層微細組織の影響解明は今後の課題であるが,全体的に概ね順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度までに粉末冶金法によって作製した多孔質銅インサート材中に溶融すず合金が毛管圧力を駆動力にして浸透することで銅を250℃以下かつ短時間接合できることを示した.本年度は浸透現象および接合部の信頼性を接合層の微細組織の観点から評価することを中心に研究を推進する. 【浸透現象】多孔質体への液体の浸透速度ならびに距離はLucas-Washburn式で整理することができるが,銅と錫融液は反応によって等温凝固するため,多孔質体の孔径が接合中に減少する.そのため浸透速度は徐々に減少し,浸透距離に限界が生じる.まず,非反応系の浸透現象を樹脂浸透によって明確にし,接合に適した多孔質体の微細構造設計を目指す.当初予定していた断面連続観察による3次元構造の解明は,分散相のサイズが大きいため観察が困難であった.そこで 2次元観察像を定量金属組織学的に検討することに変更する. 【接合】これまでは浸透性を優先するためにソルダペーストを浸透材料として用いてきたが,アプリケーションを考えた場合フラックスフリーが望ましい.フラックスフリーのためにギ酸雰囲気中での接合を実施する.また多孔質銅へのニッケル-金めっき等をすることによるぬれ性改善と固液反応の軽減を行う. 【信頼性評価】本年度は熱サイクル試験を実施してダイボンドとしての信頼性評価を行う.被接合材は半導体チップと同等の線膨張係数を有するコバールを代替材として使用する.熱サイクル試験によって接合部に負荷される応力・ひずみは接合体の厚さだけでなく,接合層の線膨張係数,ヤング率,降伏応力に依存する.そこで,孔径,空隙率,骨格となるポーラス材料種々変化させたポーラス体を作製し,錫や樹脂浸透銅の材料物性を測定する.測定した材料物性値を用いて有限要素法によって応力-ひずみ解析を実施し,最適な接合層の微細構造設計を行う.
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