研究課題/領域番号 |
21H01669
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26050:材料加工および組織制御関連
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
中田 大貴 長岡技術科学大学, 産学融合トップランナー養成センター, 特任講師 (80800573)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
18,200千円 (直接経費: 14,000千円、間接経費: 4,200千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2021年度: 13,910千円 (直接経費: 10,700千円、間接経費: 3,210千円)
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キーワード | マグネシウム合金 / 押出し加工 / 整合析出物 / 電子線後方散乱回折 / 結晶塑性シミュレーション / 熱力学計算 / 電子線後方散乱回折法 / 結晶組織 / 引張特性 / 電子顕微鏡 / 結晶塑性解析 / 結晶方位解析 / 非底面すべり |
研究開始時の研究の概要 |
マグネシウムは構造金属材料中で最軽量であることから、輸送機器の軽量化に貢献する次世代の軽量材料と言える。ただし、強度や延性は低く、押出し材には特有の強度異方性も存在することから、既存アルミニウム合金の代替材料として使うことは困難と考えられていた。本研究では、マグネシウム合金押出し材の新しい組織制御手法として整合析出物に注目し、熱力学計算や結晶塑性シミュレーションも援用しながらマグネシウム合金のプロセス-微細組織-特性の関係を明らかにする。また、その成果を基に、安価で広範な用途に利用可能な新しいマグネシウム合金開発も行う。
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研究実績の概要 |
押出し加工前の均質化処理によって析出物の分散状態を変化させたMg-0.5Ca-1Mn(mass%)を作製し、押出し加工後に組織観察を行ったところ、マグネシウム母相に固溶した合金元素を押出し加工中に析出物として形成させた場合が、押出材の結晶粒の微細化により効果的である可能性を得た。 Mg-0.5Ca-1Mn合金に形成するMg2Ca相は、高速押出しに伴う加工発熱が大きい場合、マグネシウム母相に固溶し、結晶粒径の微細化効果が小さいことがわかった。このため、αMn相の析出量を増やすためにマンガンを多く添加したMg-0.2Ca-2Mn(mass%)合金を押出し加工に供したところ、結晶粒径を微細化でき、Mg-0.5Ca-1Mn合金とほぼ同じ破断伸びや圧縮破断ひずみを維持しながらも、引張および圧縮耐力を向上させることができた。ただし、Mg-0.2Ca-2Mn合金中には、粗大化した結晶粒も一部存在しており、より熱的安定性の高い析出物を形成する合金系を検討する必要があると考えた。 また、カルシウムフリーのMg-Mn合金押出材の特性評価を進める中で、特異な現象を見出した。押出し加工前の熱処理条件や押出し条件の最適化によって、Mg-Mn合金にて、平均粒径3μmの微細かつ均一な結晶組織を得ることができたが、常識とは異なり、結晶粒径の微細化に伴う特性改善効果が極めて限定的であった。電子線後方散乱回折法によって、Mg-Ca-MnおよびMg-Mn合金の引張試験時の組織変化を調べたところ、カルシウム未添加の場合には、柱面すべりの活動が抑制されることがわかった。また、粒界すべりが生じた可能性も示唆されたことから、塑性変形時に粒界すべりが生じやすく、強度が低下した一方で、柱面すべりが活動しなかったため、延性も低下したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
押出し加工前の熱処理によって、析出物や合金元素の固溶状態を制御することで、高速押出し加工後の希薄マグネシウム合金の結晶粒径を微細化することができた。特に、Mg-Mn合金を用いて、平均粒径3μmの微細結晶粒径を得るための条件や指針を見出した。ただし、Mg-Mn合金は、結晶粒径の微細化による強度や延性の改善効果が少なく、本研究で目的とする結晶粒径の微細化による高強度・高成形性の発現には、カルシウムの添加が必要であることも確認した。 合金元素添加量や加工熱処理条件の最適化によって、Mg-Ca-Mn合金の組織制御も進め、既存マグネシウム合金押出材を上回る優れた強度-延性バランスを得ることにも成功したが、均一な微細結晶組織を得ることはできておらず、さらなる結晶組織制御は欠かせない。しかしながら、Mg-Ca-Mn合金中に形成する析出物は、高速押出し加工に伴う温度上昇によって固溶もしくは粗大化しやすく、目的とする結晶組織を得ることは困難な可能性があり、元素添加によって、熱的安定性の高い析出物を形成させ、それを活用する必要があると考えられる。 当初目的の7000系アルミニウム合金相当の特性発現に向けて、解決すべき課題はまだ残されているものの、マグネシウム合金押出材の組織形成および特性発現メカニズム解明は着実に進んでいる。Mg-Mn合金押出材の単純な結晶粒径の微細化だけでは、強度および延性の同時改善は困難であったが、カルシウムの添加によって柱面すべりが活発化し、優れた特性発現が可能であることを確認した。また、押出し加工中に形成する析出物が、結晶粒径の微細化に特に有効という知見も得られつつあり、マグネシウム合金押出材の組織制御および特性発現を可能とする普遍的な原理は順調に確立できている。
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今後の研究の推進方策 |
Mg-Ca-Mn合金に形成する析出物の熱的安定性を高める方法として、微量なアルミニウム添加による組織制御を試みる。本研究開発の中で、アルミニウムの固溶により非底面すべりが活動し難くなり、マグネシウム合金押出材特有の引張および圧縮特性の異方性低減も困難となることを確認したが、母相に固溶しない程度のアルミニウム添加量を探索することで、押出材の結晶粒径の微細化と異方性低減を同時に達成できる可能性がある。このため、熱力学計算を援用しながら、最適な合金元素添加量を検討し、高性能合金設計を加速させる。 Mg-Ca-Mn(-Al)合金では、鋳造直後、カルシウムを含む晶出物および析出物が分散する。これらは、均質化処理によって固溶可能であるものの、マンガン系の析出物は、熱力学計算による予測に反して、高温下でも固溶できない。一方で、マンガンは鋳造直後では母相に固溶しており、低温かつ短時間の均質化処理では析出物を形成しない。以上の実験結果より、押出し加工前には、押出し性を損なう原因である晶出物やカルシウムを含む析出物を固溶させつつ、マンガン系の析出物の形成も抑制できるような均質化条件を探索することで、押出し加工中に形成する析出物量を最大化でき、効果的に結晶組織の微細化を達成できると考えた。このため、熱的に安定な析出物を形成するMg-Ca-Mn-Alを用いて種々の条件で均質化処理を行い、微細組織を観察する。特に、一般的なプロセスでは使用されない、ごく短時間の均質化処理にも注目し、晶出物は固溶させながらも、微細な析出物は形成させない条件を探索し、押出し加工に利用する。その後、種々の条件で押出し加工を行い、7000系アルミニウム合金と同等の特性を有する高性能Mg-Ca-Mn合金押出材の組織因子、およびそれを実現するプロセス条件を確立する。
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