研究課題/領域番号 |
21H01715
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分27030:触媒プロセスおよび資源化学プロセス関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
影島 洋介 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (20821846)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2021年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
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キーワード | 光触媒 / 水分解 / リン酸系官能基 / マストランスファー / シランカップリング修飾 |
研究開始時の研究の概要 |
光触媒的な水分解反応は、半導体内外での複数プロセスが関与する複雑なシステムであるが、これまで溶液内(半導体外)での物理化学過程の理解・制御はほとんど見落とされてきた。最近研究代表者は、ホスホン基を有するシランカップリング剤を光触媒表面に修飾することで、ホスホン基が効果的に活性点までプロトンを輸送し、光触媒的な水素生成活性が向上することを見出した。本研究では、表面に固定化されたリン酸系官能基が水素生成・酸素生成反応へと及ぼす効果とそのメカニズムを個別に明らかにし、水の全分解反応へと応用することで、光触媒反応における表面官能基を介した物質輸送促進の新たな学理を構築することを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、光触媒粉末表面に固定化したリン酸系官能基を介した反応物マストランスファーの促進に関する、新たな学理構築を目的とする。既往の「水分解用光触媒の開発」は「材料そのものの開発」が主流であり、「溶液内での物理化学現象」の理解・制御はほとんど見落とされてきた。最近、ホスホン基を有するシランカップリング剤を光触媒表面に修飾することで、ホスホン基がプロトン供給を促進し、水からの水素生成活性を向上可能であることを見出した。固液界面での物理化学現象(反応物拡散)の促進を目指す、「光触媒研究」における新たな学問領域の開拓に資すると期待できる。 本年度は、昨年度に引き続き「1.ホスホン基を介した反応促進の機構解明」を進めるとともに、「2.様々な光触媒材料に対する適用可能性の検証」を行った。 1の検討では、ホスホン基を有するシランカップリング剤を修飾したLa,Rh共ドープSrTiO3 (La,Rh:STO)粉末を用い、水素生成速度や光触媒粉末のゼータ電位のpH依存性を評価した。加えて、回転ディスク電極 (RDE) を用いた対流ボルタンメトリーに基づいて、活性点近傍でのプロトン供給の促進や緩衝作用について考察した。この時、光触媒反応駆動時のホスホン基が関与する現象を、電気化学測定時の電極近傍で再現するためには、導電担体材料と活性点の表面積の比率が重要なパラメータであることが明らかになった。他方、昨年度までの検討において、近赤外領域の長波長光まで吸収可能な水素生成用Cu2(Sn,Ge)S3 (CTGS)光触媒粉末に対しても、ホスホン基修飾が有効であることが分かっている。2の検討では、新たなCTGS粉末の合成ルートを開発することで、更なる活性向上が可能であることを見出した。 これらの成果の一部は既に国内学会・国際学会において報告しており、また既に国際学術誌に採択されているものもある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、あらゆる光触媒材料に対して、光触媒反応駆動中のプロトン供給を促進し、その水分解活性向上に寄与するレベルまで、リン酸系シランカップリング修飾の手法としての汎用性を押し上げるとともに、そのメカニズムの定量的な解明を目指す。昨年度に引き続き、「1.ホスホン基を介した反応促進の機構解明」、「2.様々な光触媒材料に対する適用可能性の検証」を行い、以下に示すような新たな知見が得られた。また、光触媒表面に固定化されたホスホン基濃度をさらに増大させるための、新たなシランカップリング処理条件の開発にも着手した。 1の検討では、ホスホン基を修飾したLa,Rh:STOの水素生成活性やゼータ電位のpH依存性を評価した。中性領域でのホスホン基の緩衝作用が活性向上に寄与していることが明らかとなった。加えて、ホスホン基修飾にはプロトンからの水素生成反応の拡散限界電流を向上させる効果もあるということが、RDEを用いた電気化学測定から分かった。ここで、光触媒反応駆動時の現象を電気化学測定によって再現するためには、導電担体材料と活性点の表面積の比率が重要なパラメータであることが明らかになった。すなわち、一般的なカーボンブラック担体では比表面積が大きすぎて、活性点近傍の環境を光触媒の場合と同程度にすることが困難であったが、より低比表面積な担体を用いることでこれを解決した。他方、2の検討では、これまでCTGS粉末を合成するために用いていた固相反応法に替わる新たな合成ルートとして、フラックス法や、溶液法である錯体重合法をベースとした手法を開発した。比較的粒径の揃った高品質な結晶粒子の合成が可能となり、水素生成活性が向上することが分かった。並行して、シランカップリング剤のポリマー化の検討にも着手し、必要な実験環境の整備が完了した。 以上の結果から考えて、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
ホスホン基修飾による水素生成活性向上のpH依存性と修飾量依存性について、回転リングディスク電極 (RRDE) を用いた電気化学測定を利用することで、より定量的な機構解明へと展開する。RDEを用いた本年度までの検討を通して、局所的なpHの変化やプロトン還元に起因する電流値のモニタリングが可能であることを見出している。電解液のpHやシランカップリング剤修飾量をパラメータとしてより詳細な評価を行うことで、ホスホン基を介した水素生成反応のダイナミクス解明を目指す。 また、引き続きシランカップリング処理条件の改良を通して、更なる光触媒活性の向上を目指すとともに、表面に固定化されたリン酸系官能基が光触媒反応へと及ぼす効果とそのメカニズムを明らかにする。過去の報告ではアニオン性部位が1か所のみのメチルホスホン酸基を有するシランカップリング剤を用いていたが、ホスホン基含有シランカップリング剤のポリマー化によって、リン酸系官能基を高濃度化し、水素生成活性の更なる向上を試みる予定である。この時、シランカップリング処理時や反応駆動時のpHが、シラノール部位の吸着様式や光触媒活性に及ぼす影響を系統的に評価したり、前述のRRDEを用いた電気化学的評価と併用したりすることによって、反応促進の機構解明へとつなげるとともに、更なる活性向上へとフィードバックを行う。 水の全分解反応への適用を志向し、Y2Ti2O5S2などの可視光応答材料の開発も並行して行う。光触媒粉末材料の合成条件や助触媒修飾条件などの基礎的な検討を行いつつ、ホスホン基修飾へと繋げていく。
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