研究課題/領域番号 |
21H01745
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分28020:ナノ構造物理関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
足立 智 北海道大学, 工学研究院, 教授 (10221722)
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研究分担者 |
俵 毅彦 日本大学, 工学部, 教授 (40393798)
鍜治 怜奈 北海道大学, 工学研究院, 助教 (40640751)
笹倉 弘理 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (90374595)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2021年度: 8,580千円 (直接経費: 6,600千円、間接経費: 1,980千円)
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キーワード | 核スピンエンジニアリング / 核磁場 / 超微細相互座用 / 量子ドット / 希土類添加結晶 / 量子メモリ / 電子・核スピン結合系 / 半導体量子ドット / スピントロニクス / ナノ構造 |
研究開始時の研究の概要 |
最近我々は安定状態は2つしかないと実験的にも理論的にも説明されてきた核スピン分極に第3の安定状態があることを実証し,また光注入電子スピンと直交する大きな面内核スピン分極形成を観測すると共に,両現象の定性的モデル計算にも成功した.本研究では,これらの画期的な成果を手掛かりに,量子ドット内電荷制御や歪印加等によって,従来不可能であった電子・核スピン相関時間や核四極子効果等の物性パラメータを変調・制御し,電子・核スピン結合系の物理を解明する.更に,ナノ構造での核スピン分極の3重安定性を実証すると共に,任意の磁場配置での結果を定量的に説明可能な統一モデルを構築する.
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研究実績の概要 |
異常ハンル効果発現の物理原因を探るため,核四極子相互作用(NQI)の主軸分布を考慮した新規モデルを実装した.NQIの主軸分布が試料面内にあるとした場合と試料に垂直(結晶成長方向)にあるとした場合の両極端での計算結果を比較し,「印加横磁場を面内核磁場で相殺する」という異常ハンル効果の本質はNQIの主軸の試料面内に分布する成分が原因となっていることが明らかになった.以前は実験において観測されていた横磁場掃引時の核磁場のz成分の緩やかな減衰が異常ハンル効果発現の物理原因解明の手掛かりとして着目していたが[Phys. Rev. B 97, 075309/1-8 (2018)],これは新規モデルによる計算結果からはNQIの主軸分布のz成分に由来するもので,「印加横磁場を面内核磁場で相殺する」という異常ハンル効果の本質には関与しないことを明らかにした.この成果は学術論文に投稿し,現在査読中である. 核スピン分極の三重安定状態については,電子・核スピンの相関時間が磁場依存性を持つことを実験的に明らかにし,モデル計算から相関時間を制御できれば核スピン分極の三重安定状態発現を検証できることが分かったが,実験的に相関時間のみを大きく変化させることが困難であったため,2つの2重安定性発現の実証までは達成できているが,3重安定性の実証は未達成となった. 核磁気共鳴測定については,AlGaAsバルクにおいて,時間分解カー回転分光と組み合わせた全光核磁気共鳴の測定に成功している.現在量子ドットで測定可能となるように,感度向上に努めている.また試料として,エルビウム添加YSO結晶を用い,ホスト結晶であるYSOのYイオンの核スピン揺らぎがEr電子のデコヒーレンスに及ぼす影響(superhyperfine interaction)について,上記モデルを適用して計算を行い,デコヒーレンス抑制の手法を探索した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
構築した新規モデルでは異常ハンル効果が起きるVoigt配置だけでなく,Faraday配置で観測される核スピン分極の双安定性,3重安定性も再現できることを確認した.これにより磁場配置に関わらず,定性的には構築したモデルで実験結果の説明が可能となったので,本研究の目的が達成できたと言える.この成果は2つの論文として現在査読中である.またモデルを量子メモリの有力候補として注目されているエルビウム添加結晶でのホスト結晶の原子核スピンゆらぎによるエルビウム電子スピンデコヒーレンスの抑制研究にも適用して,初期計画を超えて研究を進めることができた.
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今後の研究の推進方策 |
上記のように,本研究の目的は既に達成されたので,今後は種々の実験でモデルの正当性を再検証するとともに,定量的議論ができるまでに詳細な点を詰めていく予定である.また,歪印加デバイスによる核四極子相互作用(NQI)の直接変調(NQIの歪チューニング)を検討している.数値計算から数度の主軸傾斜で 1桁程度核スピン緩和時間が変化するためNQIは大きな影響を持つことが分かっている. 新規に提案した電子・核スピン結合系ダイナミクスのモデルによる計算では,NQIの主軸の傾斜が異常ハンル効果発現に非常に重要であることが分かったため,歪印加デバイスによるNQIの直接変調を試み,量子ドット(QD)試料では単一QDハンルカーブの変形度合いを,バルクAlGaAs試料では時間分解カー回転分光によるラーモア歳差運動の変化を調査するとともに,構築したモデルでの計算結果との比較を行う.この研究は成功すればインパクトがある. また,量子メモリの有力候補として注目されているエルビウム添加結晶でのエルビウム電子スピンのデコヒーレンスの主な原因であるホスト結晶原子の核スピン揺らぎを抑制する手法を作成したモデルにより更に探索する予定である.
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