研究課題/領域番号 |
21H01763
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分28030:ナノ材料科学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小林 慶裕 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (30393739)
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研究分担者 |
仁科 勇太 岡山大学, 異分野融合先端研究コア, 研究教授 (50585940)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2022年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2021年度: 6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
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キーワード | ナノ炭素材料 / グラフェン / 層間相互作用 / 結晶工学 / 薄膜物性 / 酸化グラフェン / 化学気相成長 / 超高温プロセス / 歪センサ / 光吸収 / 層間カップリン / 層間カップリング |
研究開始時の研究の概要 |
層状物質である多層グラフェンにおいて、グラフェン本来の物性を著しく変質させる層間カップリング(相互作用)を層間へのスペーサ挿入や、乱層(ランダム)積層構造の形成によって抑制することにより、多層でありながら単層グラフェンと同様の優れた物性を引き出すことを目指す。層間カップリングの抑制には、高温プロセスで得られる乱層積層構造に加え、酸化グラフェン層間へのnmスケールのスペーサ材料の挿入という新たなアプローチを導入する。本研究により、単層グラフェンの優れた特性と多層グラフェンの容量の大きさを兼ね備えた新規ナノ炭素材料を創成し、今後のスケーラブルな応用展開への基盤が構築される。
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研究実績の概要 |
3次元に積層した単層グラフェンにおいて、本来の物性を著しく変質させる層間相互作用を積層グラフェンの層間へのスペーサ挿入による層間隔拡大や、ランダム積層構造の形成によって抑制することが目的である。その目的に向けて、以下の研究項目について進捗させた。 ・構造制御酸化グラフェン(GO)のスケーラブル合成:3次元積層グラフェン形成に適したGO作製をめざし、酸化条件や原料となる黒鉛材料について電気化学酸化プロセスを重点的に検討した。安価な膨張黒鉛を用いた場合でも電解液、電圧、浸漬条件を最適化することにより低欠陥GOの形成に成功した。 ・滴下法によるスペーサ導入グラフェン形成:層間にスペーサ材料を確実に挿入するため、GOとスペーサ材料(カーボンナノチューブ(CNT)及びナノダイヤモンド(ND))を交互に滴下して堆積した試料を作製した。その構造をラマン分光法で解析した結果、NDをスペーサ材料とした場合に10層以上の多層膜でも単層性が維持できることを明らかにした。 ・テンプレート上CVD成長によるランダム積層グラフェン形成:成長グラフェンのドメインサイズ拡大と平坦性向上にむけて、テンプレート形成からその上でのランダム積層成長までを大気にさらさず一貫しておこなうプロセスを検討した。表面の清浄性が向上した結果、ランダムな核形成が抑制されることを見いだした。今後、駆動力を最適化し、層状成長による大面積化を目指す。 ・スペーサ導入グラフェンの物性解析:セルロースナノファイバやNDを添加したGOの熱処理により3次元グラフェンを形成し、その構造をX線回折で解析した。スペーサ導入により分散液中で凝集したGOの再凝集が抑制され、ランダム積層がバルクスケールで維持できることを見出した。さらに層状に形成した多層膜について可視~中赤外領域での吸収分光計測をおこない、層間カップリング抑制効果を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書では、(1)構造制御GOのスケーラブル合成、(2)層間カップリング抑制自立グラフェン作製、(3)テンプレート上CVD成長による乱層積層グラフェン形成、(4)層間カップリング抑制グラフェンの物性解析の4項目を今年度に実施するとしていた。 (1)について、GO合成プロセスにおいて、環境に配慮した新たな低欠陥GOのスケーラブル合成法として電気化学剥離法の検討を推し進め、これまでGOの作製が困難であった安価な膨張黒鉛からもGO形成に成功するなど予定通りに進捗させた。 (2)について、本課題で目的とするグラフェン層間相互作用の制御のために層間に確実にスペーサ材料を挿入する手法として交互滴下法の検討を進めた。スペーサ材料としてナノダイヤモンドを用いることにより、前年度に行ったCNTよりも均一性が向上し、10層以上の多層膜でも単層性が維持できることを見出した。これは2次元性を保った多層グラフェンを形成する上で重要な進捗である。 (3)について、グラフェン成長でのテンプレート表面の清浄性の効果に着目し、テンプレート形成からその上でのランダム積層成長までを大気にさらさずに行う真空一貫プロセスの検討を進めた。表面清浄性が向上した結果、ランダムな核形成が抑制されたが、成長速度が不十分で大面積化には至らなかった。今後、駆動力を最適化し、層状成長によるドメインサイズ拡大と平坦性の向上を目指す。 (4)について、前年度に引き続きX線回折による構造解析を推し進めた。スペーサ材料の導入により分散液中で凝集したGOの再凝集が抑制され、ランダム積層がバルクスケールで維持できることを実証した。さらに層状に形成した多層膜について可視~中赤外領域での吸収分光計測をおこない、層間カップリング抑制効果を明らかにした。 以上のように、当初の目標を達成するとともに、計画外の方向へも展開しており、概ね順調と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までにおこなった研究を受け継ぎ、以下の項目についての研究を推進していく。 (1)構造制御GOのスケーラブル合成:引き続き、構造修復と3次元化に適した酸化グラフェン(GO)の形成プロセス検討を進める。特に、3次元化に避けることのできないGO乾燥過程に着目し、様々な酸化度やサイズの酸化グラフェンに対して乾燥法による効果を検証する。 (2)層間カップリング抑制グラフェン作製:GOをbuilding blockとして、層間に異種物質からなるスペーサ材料(セルロースナノファイバやナノダイヤモンドを利用)を挿入し、層間カップリング抑制がグラフェン物性に及ぼす効果の検証を昨年度に引き続き進める。層間にスペーサ材料を確実に挿入可能なGO/スペーサ材料の交互滴下法による薄膜形成の最適化を推し進めてcmスケールで均一な試料を作製し、物性計測計測へと展開する。 (3)テンプレート上無触媒CVD成長による乱層積層グラフェン形成:物性測定に必要な欠陥密度の低減、ドメインサイズ拡大と平坦性の向上を図るため、グラフェン成長の真空一貫プロセスにおいて成長条件の検討を進める。特に炭素源ガスにエッチング作用のある水や二酸化炭素を添加するによる成長駆動力の調整に重点をおく。 (4)層間カップリング抑制グラフェンの物性解析:スペーサ挿入による層間カップリング制御効果の検証のため、可視~遠赤外領域での吸収分光解析を推し進め、広エネルギー範囲での均一な光吸収材料の実現を目指す。さらに層間カップリング制御効果を活かした応用展開にむけて、3次元グラフェンの導電性や比表面積の評価結果を基にスーパーキャパシタや2次電池の電極としての性能を検証する。
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