研究課題/領域番号 |
21H01792
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野島 勉 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (80222199)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
13,130千円 (直接経費: 10,100千円、間接経費: 3,030千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
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キーワード | 超伝導 / 2次元超伝導体 / 量子磁束 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、MoS2単結晶表面の電場誘起超伝導表面を用いて、乱れが極限的に少ない理想的2次元超伝導体における量子ゆらぎに支配された超伝導物性を明らかにする。具体的には、ゼロ磁場および有限面直磁場中における線形・非線形伝導特性を超伝導転移温度の1/100といった極低温まで測定することにより、基底状態近傍にあると予想される、量子磁束・反磁束(BKT)状態、量子磁束液体(量子金属)状態、超伝導-常伝導金属量子相転移といった新現象の存在を検証し、包括的な磁場‐電流‐温度相図を完成させる。以上により、量子ゆらぎ超伝導という未開拓な領域の学理を構築する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、剥離法により純良表面の得られるMoS2の単結晶表面上に作製した電気二重層トランジスタやNbSe2単結晶剥離膜を用いて、乱れが極限的に少ない完全2次元超伝導体の絶対0度近傍でおきる、量子ゆらぎに支配された超伝導物性(磁束の量子ダイナミクス、静的・動的量子相転移)を明らかにすることである。 2022年度は、MoS2電気二重層トランジスタの1K以下の極低温中における磁場中輸送特性や磁束ダイナミクスを測定すべく、新たな希釈冷凍機の整備、3He冷凍機用パルス型電流・電圧特性測定系の構築を行った。さらに2K以上で実験可能な4He冷凍機からこれらの装置に試料を劣化させることなく移動させる手法も確立した。しかし、試料作製に不可欠な微細加工用のLED顕微鏡リソグラフィー装置(2021年度導入)の故障や動作条件の変化、これに用いるフォトレジストの劣化が発生し、これら不具合の解決に時間がかかり、1K以下の極低温測定まで進むことができなかった。 一方、MoS2と同類の結晶構造を持つNbSe2単結晶薄膜の2Kまでの磁場中輸送特性や試料厚さ依存性を詳細に測定することにより、電子系が2次元となる原子層レベルの極薄膜でなくでも、系に生成される量子磁束が2次元となる比較的厚い(磁場侵入長程度の厚さ)試料においても、本研究課題の一つである量子金属状態がこれまでにない高精度で観測できた。さらにこの量子金属状態は、有限な電気抵抗があるにも関わらず、ホール抵抗や非相反抵抗が完全にゼロとなるという新たな特徴を発見するに至った。これらは本研究の試料範囲の幅を広げるだけなく、量子金属状態の発現条件や具体的モデルの把握につながる大きな進展となった。 今後、MoS2とNbSe2の両試料を平行して研究することにより、本研究目的の量子ゆらぎに支配された超伝導物性が包括的に理解できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度計画では、MoS2二重層トランジスタデバイスを用いて、希釈冷凍機を用いた0.1Kまでの極低温磁場中輸送特性、3He冷凍機を用いた高電流極限でのゼロ磁場中電流電圧特性を測定する予定であった。しかし、LED顕微鏡リソグラフィーに関わる不具合が発生し、純良試料作製に関する歩留まりが悪くなる事態となった。この原因の特定や修理に時間を費やしたため、極低温測定用の希釈冷凍機の整備や測定系の構築に関して進展はあったものの、MoS2に関する実験は、2Kまでの低温に留まった。一方で、MoS2と同類の結晶構造を持つNbSe2剥離結晶を用いて、その磁場中輸送特性や厚さ依存性を詳細に測定することにより、研究開始当初おぼろげであった研究対象の量子金属状態に関して、その発現条件やそれを説明する明確なモデルを見出すことに成功した。これにより研究目的に合致する物質系の対象範囲が広がるだけでなく、2023年度に実行予定の極低温下における静的・動的な磁束相図作成に関する実験に対し、ポイントを絞った効率的な研究が可能となった。 MoS2電気二重層トランジスタを用いた極低温研究に関しては当初予定より遅れているが、NbSe2剥離膜の研究に関しては、研究目的である量子ゆらぎに支配された超伝導物性への理解が予定より前倒しで進んだことを勘案して、当初予定よりやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
MoS2電気二重層トランジスタおよびNbSe2剥離単結晶を用いて、(1)2K以下の極低温領域における低電流極限での量子金属状態、量子臨界点、磁場-温度相図の解明、 (2)ゼロ磁場および有限磁場中での量子磁束ダイナミクスの解明、に関する研究を行う。一部昨年度からの継続分を含むが、同一装置を用いるので実行可能である。 (1)では希釈冷凍機を用いて、0.1 K-10 Kの温度、0T-15 Tの磁場領域における輸送特性の温度、磁場依存性をロックイン検出法により測定する。2K以上の実験で見られてきた、電気抵抗がプラトーを示す量子金属状態(上部臨界磁場以下の低磁場中)、超伝導状態から常伝導状態への量子相転移を反映した超伝導ゆらぎ伝導度の量子臨界現象(高磁場中)、さらに両者の境界がそれぞれ2K以下の極低温でどうなるかに焦点を当てる。これまでの研究により量子金属状態で消失することが分かったホール抵抗・非相反抵抗の変化が鍵となる。 (2)ではパルス型電流・電圧測定系と既設の3He冷凍機を用いて、100nAから1mAという4桁の電流変化に伴い生じる磁束ダイナミクスの観測を、0.3K-10Kの温度、0T-8Tの磁場中で行う。ゼロ磁場中では電流の増加とともに磁束・反磁束束縛状態(BKT状態)からジョセフソン磁束高速運動状態(Phase slip line状態)、磁場中では量子金属(クリープ)状態から古典的プラスチック磁束フロー状態への動的相転移がそれぞれ2K以上で起こることがわかってきたが、量子効果が支配的になる絶対0度近傍でこれらがどう変化するかに注目する。ここでも非相反抵抗を磁束ダイナミクスの新たな情報源として活用する。 以上により、本研究課題の最終目標である高結晶2次元超伝導体の絶対0度近傍を含む包括的な磁場-電流-温度相図を完成させ、そこにある学理を解明することで当初目標を達成する。
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