研究課題/領域番号 |
21H01795
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
長谷川 哲也 お茶の水女子大学, 理学部, 学部教育研究協力員 (10189532)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2021年度: 12,480千円 (直接経費: 9,600千円、間接経費: 2,880千円)
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キーワード | 複合アニオン / ReRAM / イオン伝導 / ペロブスカイト / 配位環境制御 / 抵抗変化メモリ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、遷移金属酸フッ化物を用いた抵抗変化メモリ素子(ReRAM)を提案する。F-の移動を利用すると、従来の酸化物系に比べ高速動作と高いON/OFF比が期待できる。本研究では、単純ペロブスカイト、層状ペロブスカイトを中心に材料探索を進め、ReRAMとして最適な遷移金属酸フッ化物を提案する。続いて、有望な系を用いてReRAMを試作し、高ON/OFF比及び高速動作を確認する。
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研究実績の概要 |
本研究では、遷移金属酸フッ化物を用いた抵抗変化メモリ素子(ReRAM)の提案を目的としている。イオン伝導は結晶構造に大きく依存することが知られている。例えば、層状ペロブスカイトは8面体ブロックと岩塩ブロックが交互に積層する構造を有するが、岩塩ブロックの方が低密度であり、フッ化物イオンが拡散しやすい。イオン拡散に適したフッ素量を調べるため層状ペロブスカイトであるLa1.5Sr0.5NiOxFyへのトポタクティックフッ素導入を試みた。 その結果、反応温度によりフッ素量を制御することに成功した。また、フッ素導入に伴い酸素量も変化することを見出した。すなわち、フッ素量yが1以下の場合には、酸素の置換反応が起こり、x+y=4であるのに対し、y>1では岩塩ブロックへの挿入反応も起こり、yの増加とともにx+y=5に漸近した。これはNi2+が安定であり、Niの価数を保持するようにフッ素の導入反応が進行することを意味している。 続いて、アモルファスZnOxSy薄膜における電気伝導機構解明を目的とし、前年度に合成した同薄膜を対象にランダムバリアモデルを用いたシミュレーションを行った。具体的には、電気伝導度およびキャリア濃度の温度依存性に対してカーブフィッティングを行い、キャリアに対するバリアの平均高さとその空間ゆらぎを見積もった。ZnOxSyでは価電子帯は単一の元素(Zn)からなっており、価電子帯が複数の元素からなる従来型材料に比べ、バリアは低いと予想していたが、結果は予想に反しIGZOと同程度であった。これは、Sの電気陰性度が低いためと考えられ、より電気陰性度の高いNを含むZnONが高い移動度を示していることと矛盾しない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、まず層状ペロブスカイトLa1.5Sr0.5NiO4薄膜をパルスレーザー蒸着法により合成した。続いて、PVDFを用いたトポタクティック反応によりフッ素導入(La1.5Sr0.5NiOxFy)を施した。その結果、反応温度とともにフッ素量yは増加し、0<y<3の広範囲でyを制御することが可能であった。また、フッ素の導入と同時に酸素量も変化することがわかった。反応はyに依存し、y<1の場合にはx+y=4、すなわち酸素がフッ素で置換する反応が進行した。この際、Niは+2.5価から+2価へと還元された。一方、y>1ではyとともにx+yが増加しx+y=4に漸近した。これは岩塩ブロックへフッ素が挿入されたことを意味しており、c軸長の伸長も見られた。また、この領域ではNiはほぼ+2価を維持した。以上の結果より、Ni系へのフッ素導入反応ではNiの価数が重要な役割を演じていることが判明した。また、絶縁性はyに大きく依存し、y~0.4の薄膜で最も高い絶縁性を示した。 アモルファスZnOxSy薄膜の輸送特性(電気伝導度、キャリア濃度)の温度依存性を測定し、ランダムバリアモデルを用いたシミュレーションを行った。特に電気伝導性が低い試料に関して良好なフィッティングを得た。バリアの平均高さはキャリア濃度に依存し0.20~0.07 eVと見積もられたが、この値は予想に反しIGZOと同程度であった。ZnOxSyではZn-S結合は共有結合性が高く、軌道混成により価電子帯にもSの影響が及んだものと考えられる。移動度を高めるにはより電気陰性度の高い元素の導入が有効であると推論される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに合成したGdBaCo2O5.5薄膜やLa1.5Sr0.5NiOxFy 薄膜を対象に、フッ化物イオン伝導を評価する。特に、La1.5Sr0.5NiOxFy では、Niの価数制御が重要であることが明かとなった。岩塩ブロックへの挿入反応を促すため、Sr量の異なる一連の薄膜を合成し、その効果を系統的に調べる。Niの単純ペロブスカイトでは、フッ素の可逆的な導入・脱離が起こることが知られており、Fe系よりも良好なReRAM特性が期待できる。また、GdBaCo2O5.5薄膜に関してはプロトン伝導に異方性についても調べる。特に、イオンや空孔の秩序配列がイオン伝導にどのような影響を及ぼすかについて集中的に検討する。 イオンの拡散機構を明らかにする上で、カチオンの配置を精密に測定することが重要となる。薄膜の場合、回折法による評価は難しいが、すでにFe系で経験のあるSTEM-EELS測定が強力な武器になると考えられる。 アモルファスZnOxSyやZnOxNyについてはアニール処理によるイオン拡散の影響について調べる。本系におけるキャリアの供給源は明らかになっていないが、酸化物イオンや硫化物イオン、窒化物イオンの移動による大きな抵抗変化が期待できる。特に前者は結晶化しにくいことから、応用上有利である。さらに、アモルファス材料であるため、フレキシブルデバイスの試作も視野に入れる。
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