研究課題/領域番号 |
21H01797
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
生田 博志 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (30231129)
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研究分担者 |
浦田 隆広 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (30780530)
飯田 和昌 日本大学, 生産工学部, 教授 (90749384)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2022年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2021年度: 6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
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キーワード | 硼化砒素 / BAs / 高熱伝導率薄膜 / 砒化ホウ素 |
研究開始時の研究の概要 |
近年の電子素子の高集積化に伴う発熱量の急激な増大は、誤動作の原因として懸念されている。最近、BAsの熱伝導率が非常に高いことが見出され、熱を効率的に排出できる材料として注目されている。しかし、熱伝導率は転移や欠陥に非常に敏感である。そこで、本研究では(B,Ga)P混晶をバッファ層に用いることで高品位薄膜の成長に取り組む。また、バッファ層の組成制御により薄膜に歪を印加して熱伝導率上昇の可能性を調べる。さらには、人為的に制御された欠陥を導入し、熱伝導率への影響を調べることで、熱伝導率の物理に関する新たな知見を得ることを目指す。
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研究実績の概要 |
近年の電子素子の高密度化に伴う発熱密度の急上昇は、素子性能の制約要因として大きな問題となっている。効率的な排熱には熱伝導率の高い材料が必要であり、BAsが注目されている。しかし、この系の結晶成長は容易でなく、小さな結晶しか得られていない。また、素子応用には薄膜化が必須である。そこで、分子線エピタキシー(MBE)法による薄膜成長に取り組んだ。昨年度後半より膜質向上を目的に成膜温度を上げたが、As再蒸発が問題となっていた。今年度は成膜条件をさらに広げ、MgF2基板では他の基板より高温まで薄膜中にAsが残留することが分かったものの、調べた範囲内では相形成が見られなかった。そこで、Asを同族元素のSbで置き換えたBSbの成長も試みた。BSbは文献で薄膜成長例があり、BAs成膜の手掛かりが得られるものと期待した。その結果、文献と同様の薄膜が得られたことをX線回折などで確認した。しかし、この薄膜を詳細に調べると形成相はBSbではなく、文献のX線ピーク同定に誤りがあることが分かった。したがって、As同様にSbが再蒸発していると考えられる。一方、成長様式の手掛かりを得るために、第一原理計算によりBAs (111)面への原料原子の吸着過程を調べ、As供給量が高い条件ではAsが層状に吸着し、結晶成長する可能性があることが分かった。これらのことから、As再蒸発の抑制が非常に重要であることが分かる。 そこで、低温成膜後に薄膜を熱処理することでBAs相の形成を試みた。まず2枚の薄膜を対向させて熱処理したが、Asの再蒸発は抑制できないことが分かった。そこで薄膜をBで被覆して熱処理を行ったところ、Asの再蒸発をかなり抑制できることが分かった。BAsの相形成には至っていないが、今後、Bキャップ層を厚くすることや、より高温、もしくはより長時間の熱処理によりBAsが形成される可能性があることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に引き続き、様々な基板を用いて成膜条件を幅広く変えながらBAs形成領域を調べた結果、当初の想定以上に成長領域が狭いことが分かった。そこで手掛かりを得るために、Asを同じV族元素であるSbで置き換えたBSbの分子線エピタキシー(MBE)法による成膜を試みた。BSbについては過去にMBE法以外の手法での薄膜成長の報告例が複数あるため、この成膜を通じてBAs成膜について手掛かりが得られると期待したためである。その結果、文献で報告されているのとX線回折の結果がよく一致する薄膜が得られた。しかし、詳細に調べていくと、実際にはBSb相を形成していないことが分かり、色々と検討した結果、そもそもの文献にX線ピークの同定に誤りがあることが判明した。BSb相が得られなかった原因としては、SbがAsと同様に蒸気圧が高く、再蒸発が避けられないためだと考えられる。このため、SbやAsの再蒸発の抑制を目的に前項で述べたBキャップ層を用いることとした。しかし、文献の誤りを見出すまで様々な検討を加える必要があり、想定以上に時間を割かざるを得ない結果となった。 また、昨年度、作製した薄膜を学内の共有設備を用いてオージェ電子分光(AES)法によって評価する手法を確立し、エネルギー分散型X線分析(EDX)よりも高精度に組成分析を可能としたが、この学内共有設備が今年度半ばに廃棄されてしまった。そのため、今後はAESによる分析は学外の施設に頼らざるを得ず、効率が低下してしまう。そこで、それまでに蓄積したAESのデータとEDXの測定結果を対応付けることで、学内でもある程度の信頼度の高いデータを得る手法を開発した。しかし、この対応のために薄膜の評価に想定よりも時間を取られる結果になった。 以上のことから、現在までの進捗状況は、やや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から、低温ではBAs相の成長速度が遅く、現実的な速度で成膜を行うと非晶質相との混合膜が得られる。一方で、膜質向上を目的に温度を上げると、Asが再蒸発して相形成しないことが分かった。しかし、いくつかの試行錯誤の結果、低温で成長後にさらにBを蒸着して薄膜をキャップした上で、高温で熱処理するとAsの再蒸発をかなり抑えられることがわかった。高温での成長により結晶性が高まることが期待されるので、今年度はまず引き続いてBキャップ層を用いた薄膜作製に取り組む。この手法での成膜には、昨年度は主にMgF2基板を用いたが、本年度は他の基板にも広げて調べる。特に、ZnO基板で原子層レベルの高い平坦性を持つ表面を形成する手法を確立できたので、その上への成膜も試みる。 一方、これまでBは電子ビーム蒸着源を用いて単体原料源から供給していたが、制御性に難があり、実験の効率を下げていた。そこで、昨年度はB2O3を原料にKnudsenセルによりBを供給した成膜も試みた。その結果、BAsの相形成には至らなかったものの、エネルギー分散型X線分光法(EDX)でBの付着が確認できた。B2O3はSi基板と反応してBが未結合手を持つと報告されている。したがって、Si基板上のBは反応性が高いことが期待でき、さらに条件を最適化することでBAs薄膜の成長に至る可能性がある。そこで、今後はSi基板を中心に、B2O3をB源とすることで結晶性の高い薄膜が得られるかを調べる。
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