研究課題/領域番号 |
21H01807
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山崎 詩郎 東京工業大学, 理学院, 助教 (70456200)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 11,700千円 (直接経費: 9,000千円、間接経費: 2,700千円)
2021年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | 表面 / 走査トンネル顕微鏡 / 原子間力顕微鏡 / 電子物性 / 原子操作 |
研究開始時の研究の概要 |
元素識別とは、単一の原子間の力を精密に測定し、元素の種類を一意に識別する技術である。本研究計画は、原子間力顕微鏡による原子操作を用い、元素識別が周辺の化学環境の影響をどの程度受けるのかを世界で初めて定量化する。特に、下地との距離、隣との距離下地との結合、原子層の曲げやステップなどの幾何学構造の影響を調べる。
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研究実績の概要 |
走査トンネル顕微鏡(STM)は鋭い探針をトンネル電流が流れる 1nm 以下まで観察対象に近づけて走査することで、原子分解能像を得ることができる強力な顕微鏡である。さらに、探針で対象を“触る”ことで原子を一つ一つ動かす原子操作が可能な点が他の顕微鏡にない特徴である。特に、原子操作によって 2 つの基底状態の間で変形するものは原子スイッチと呼ばれ 100 以上の報告例がある。一方で、電流を検出するSTM とは対をなす顕微鏡として力を検出する原子間力顕微鏡(AFM)がある。近年 AFM により、単一分子の分子骨格が画像化されるなど進展が著しい。研究代表者らは、世界初の室温での分子骨格画像化に成功した。また、4 つの Si 原子が傾いて結合したSi4原子スイッチを作製し、世界で初めてSTMのトンネル電流と AFM の化学結合力の両方で同時に原子スイッチさせることに成功した。AFMによって測定される力の距離依存性はフォースカーブとよばれ、元素種に依存している。この性質を利用した元素識別は世界最高レベルの成果をあげている。本研究計画の最終目的は「原子操作による周辺の化学環境を変え、元素識別への影響を定量化すること」である。 【装置開発1】本研究計画では、原子や分子を精密に動かす原子操作、および力の距離依存性を測定する高精度なフォースカーブ測定による元素識別の二つが基幹技術となる。そのために、最新型の超高真空極低温型の原子間力顕微鏡を導入する。そのベースとなる極低温型超高真空走査トンネル顕微鏡の室温での導入が完了した。具体的には、真空ポンプ等の超高真空装置をくみ上げ、電流や電圧などの配線を完備し、STMのコントローラーをつなぎ合わせ、実際にナノスケールの像を得ることに成功した。さらに、実験装置全てを極低温での実験環境が整っている他大学に移設し、再びSTMを再立ち上げするところまで成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の最終目的は「原子操作による周辺の化学環境を変え、元素識別への影響を定量化すること」である。そこで、本研究計画では、原子や分子を精密に動かす原子操作、および力の距離依存性を測定する高精度なフォースカーブ測定による元素識別の二つが基幹技術となる。そのために、最終的には最新型の超高真空極低温型の原子間力顕微鏡を導入する。 当該年度までに、そのベースとなる極低温型超高真空走査トンネル顕微鏡の室温での導入が完了した。具体的には、真空ポンプ等の超高真空装置をくみ上げ、電流や電圧などの配線を完備し、STMのコントローラーをつなぎ合わせ、実際にナノスケールの像を得ることに成功した。さらに、約半年の準備期間を経て、実験装置全てを極低温での実験環境が整っている他大学に移設し、再びSTMを再立ち上げするところまで成功した。これらの実験装置の立ち上げは、予想以上にうまく進んだといえる。 その一方で、複数のやや深刻なトラブルにも見舞われた。具体的には、走査トンネル顕微鏡の神経系ともいえる、電流や電圧やピエゾ電極などの配線約20本以上の約半数が、衝撃により破断するトラブルがあった。しかしながら、同等の装置を有している共同研究者を訪問し、そのノウハウと材料を用いることで、約1か月程度で完全に復元することに成功した。 以上のように、予想以上にうまく進んだ点と、深刻なトラブルが重なり、総合的にはおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
【装置開発1】原子操作と元素識別のための、原子間力顕微鏡を導入 本研究計画では、原子や分子を精密に動かす原子操作、および力の距離依存性を測定する高精度なフォースカーブ測定による元素識別の二つが基幹技術となる。そのために、最新型の超高真空極低温型の原子間力顕微鏡を導入する。これにより、高精度で定量的な真の意味での原子操作と元素識別が可能となる。 【計画1】原子操作による、シリコン原子クラスターの作成 Si(111)-7×7表面に微量のSi原子を蒸着した表面では、7×7表面上の一部の三角形領域がやや明るくなっている。これは、過剰な1つのSi原子が三角形状の約1eVのポテンシャル障壁内に閉じ込められて拡散している状態で、Siモノマー(Si1)と呼ばれている。探針を三角形の辺の直上で約 0.5 nm押し込んでポテンシャル障壁を下げると、原子のすごろくのように、Si1を隣の三角形のマスに進めることができる。2つのSi1が隣り合うと自己組織化により融合して拡散が止まり、ひし形の7×7ユニットセルの中心にクローバー状の対称性の良い新形状が出現する。これは2つのSi1が集まってできたためSiダイマー(Si2)だと予想されるが、実はSi テトラマー(Si4)である。 【計画2】下地に近い「下位置」と遠い「上位置」でのSi元素識別への影響 研究代表者は、4 つの Si 原子が傾いて結合したSi4 原子スイッチを作製し、世界で初めてSTMのトンネル電流とAFMの化学結合力の両方で同時に原子スイッチさせることに成功した。Si原子が下地に近い下位置と下地から遠い上位置では、同じSi元素でも化学環境が異なるはずである。本研究計画では、「上位置」と「下位置」にあるSi原子においてフォースカーブを比較し、何nN程度の力の差があるかを確かめる。これにより、化学環境がどの程度元素同定に影響するかの情報を得る。
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