研究課題/領域番号 |
21H01835
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分30020:光工学および光量子科学関連
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研究機関 | 東北大学 (2023) 北海道大学 (2021-2022) |
研究代表者 |
小野 円佳 東北大学, 工学研究科, 教授 (20865224)
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研究分担者 |
小原 真司 国立研究開発法人物質・材料研究機構, マテリアル基盤研究センター, グループリーダー (90360833)
藤岡 正弥 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (40637740)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
18,070千円 (直接経費: 13,900千円、間接経費: 4,170千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2021年度: 13,520千円 (直接経費: 10,400千円、間接経費: 3,120千円)
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キーワード | 究極透明ガラス / 高温高圧凍結 / 空隙構造 / 構造揺らぎ / トポロジー / ガラス / 圧力 / 光量子通信 / 低光損失 / シリカガラス / 高温高圧処理 / 量子暗号通信 / 光通信ファイバ / 高温高圧 |
研究開始時の研究の概要 |
量子暗号通信は通常の光増幅が許されないため、その普及には損失の低い通信経路が不可欠である。安定した通信の実現には有線通信が好ましいが、これを担う光通信ファイバの散乱損失は30年余下げ止まっていた。これに対して申請者は、光通信ファイバのコア部材であるシリカガラスの、原子のない部分の構造(空隙構造)に注目し、圧力を印加してこの空隙を縮小すると、光損失が現行の半分以下に低減できることを見出した。また、計算により更に高圧下で光損失をもっと低減できると予測した。本研究ではこの予測に基づき高温高圧凍結ガラスを合成し、究極の透明ガラスを実証する。更に、ファイバ化が可能な究極透明ガラスの材料創成に挑む。
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研究実績の概要 |
本研究は、量子暗号通信の普及に向けた超損失の通信経路となる材料の探索研究である。量子暗号や量子状態は信号増幅を行おうとすると情報自体が壊れることから、低損失な通信経路が求められる。しかしこれを担うべき光通信ファイバの散乱損失は30年余下げ止まっていた。これに対して申請者は、光通信ファイバのコア部材であるシリカガラスに圧力を印加すると、光損失が現行の半分以下に低減できることを見出した。また、計算により更に高圧下で光損失をもっと低減できると予測した。本研究ではこの予測に基づき高温高圧凍結ガラスを合成し、究極の透明ガラスを実証することを目的としている。更に、ファイバ化が可能な究極透明ガラスの材料創成に挑んでいる。 そこで当該年度には、より高圧で凍結したガラスの合成を目指して10 GPaまで印加できる装置の導入を検討していた。ところ、汎用のラマン測定を使って構造情報を取得したところ、圧力が1 GPaを超えたあたりでシリカガラスの構造がむしろ不安定となることを確認した。これは最適圧力が1 GPa以下にあることを示唆しており、その範囲なら気体媒体を用いた高圧印加装置(ただし、日本に1か所しかない)で対応できるため、試料の散乱も測定しやすい。そこで、自らが装置を購入せず、外注により1 GPa以下の圧力の範囲で複数条件でガラスを合成することとした。得られた試料に対し、屈折率、屈折率分散、ラマン散乱測定、FTIR測定を行ったほか、Spring-8のBL04ビームラインを用いて構造のX線プロファイルを測定したところ、1 GPa以下の圧力において、10 A程度の大きな秩序構造が徐々に消滅していくことを突き止めた。圧力の上昇に伴う屈折率の増加と屈折率分散の抑制、FSDPと呼ばれるガラス特有の中長距離構造の先鋭化が同時に起こることを観測したことから、レイリー散乱係数が抑制されることが期待された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、より高圧における高温高圧凍結ガラスの合成を目指し、光散乱係数がもっとも抑制される圧力の見極めとその係数の値を求めることが最初の目的と考えている。計算では4 GPaが最小値となったことからこの値を目標に合成を行う予定であったが、事前調査により散乱測定に適した高圧凍結ガラスを得る条件を信憑性の高い方法で見積もることができたため、効率よく、条件を調査できたと考えている。気体媒体の高温高圧処理装置は一度の試験費用が非常に高額だが、試料表面が結晶化するといった影響を受けにくく、より本質的な研究に注力できている。また、SPring-8の結果や屈折率分散、ラマン散乱の結果を見ても、1 GPa以下の高温高圧凍結ガラスが光損失の抑制に最適な材料となっている推測に反するものはなく、今後散乱測定を実際に行えばこれを証明できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1 GPa以下の高圧高温凍結ガラスの合成条件を温度、圧力、保持時間と変えたものを合成する。また、これらの試料を加工し、光散乱測定のほか、光損失に強い相関があると明らかにしてきたガラス中の空隙構造についても、陽電子測定を行い調査する。 一方で、レイリー散乱の測定装置の立ち上げを行い高い測定精度を得られることを確認したのちに、標準試料を参考にレイリー散乱の絶対値を求める。また、得られた散乱係数の値と、これまでに求めてきた屈折率分散値の相関、構造解析から求められていた10A程度の長距離秩序がこの散乱にどう関係してくるのかなど、ガラスの光物性と構造について統一的な理解ができるモデルを提示したいと考えている。現在のところ、10A程度の秩序が陽電子測定から得られていた空隙構造にほかならず、この減少がレイリー散乱の抑制につながるという推測をしている。
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