研究課題/領域番号 |
21H01895
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
倉持 光 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 准教授 (40709367)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
2021年度: 7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
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キーワード | 超高速分光 / 電子励起状態 / 多次元分光 / コヒーレンス / 非線形分光 / ラマン分光 |
研究開始時の研究の概要 |
化学反応は多くの自由度から成る複雑なポテンシャルエネルギー曲面上で起こるため,その形状を知り,反応座標を明らかにすることは化学反応研究における究極の目標の一つである.しかし,凝縮相多原子分子の反応性ポテンシャルエネルギー曲面に関する情報を実験的に得る事は極めて困難であった.本研究では,極短パルスを用いたコヒーレント分子振動の時間領域観測に基づく先端的な超高速分光法を開発・駆使することで,反応座標や振動モード間の非調和カップリング,円錐交差を形成する振動モードなど,反応性ポテンシャルエネルギー曲面の形状を決定づける情報を実験的に得ることを目指す.
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研究実績の概要 |
本研究課題は振動コヒーレンスをプローブとする先端的な超高速分光法を開発・駆使することで、反応性電子励起状態のポテンシャルエネルギー曲面形状に関する情報を実験的に取得し、化学反応を決定づける電子・構造ダイナミクスを明らかにすることを目的としている。本年度はまず、極限的な時間分解能による超高速分光を実現するための極短パルス光源の開発に取り組んだ。Yb:KGWレーザー再生増幅器を用い、自己位相変調や光パラメトリック増幅などの様々な非線形光学過程を用いることで、紫外-近赤外領域(300 - 1400 nm)において波長可変な広帯域光を発生させた。その出力のパルス幅は、可変形鏡をフーリエ面に配置したパルス整形器などを用いることにより圧縮し、上記のいずれの波長領域においてもサブ10 fsパルス光を得ることが可能となった。また、最短パルスとして可視-近赤外4.5 fsパルスを得た。続いて、これらのパルスを用い、サブ10 fs時間分解能を有する時間分解吸収・ラマン分光装置を構築した。パルス間の遅延時間をnm精度で精密掃引するためのピエゾリニアステージを導入し、レーザー繰り返し周波数と同期してシングルショットでパルスのスペクトルと強度測定を行うための高速ラインカメラシステム、低ノイズ高速フォトダイオードシステムを構築した。また、計測と並行してデータ解析を行える利点があることから、これまで全ての装置の制御と計測をデータ処理ソフトウェアIgorにより行ってきたが、プログラム開発にかける時間を節約するため、これらを全てLabViewに置き換えた。以上に加え、実験室環境および用いる光学素子・マウントの最適化により、世界最高性能を有する時間分解吸収・ラマン分光装置を完成させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の通り、2021年度は本研究課題に用いる紫外-近赤外領域での極短パルス光源とフェムト秒時間分解吸収・ラマン分光装置の開発に取り組み、これらを順調に達成することができた。特に、超高速分光計測に用いるサブ10 fsクラスの極短パルス光の発生はこれまで主に可視光領域に限定されていたが、その波長領域を紫外および近赤外光領域に拡張することに成功し、多様な分子系に対し極限時間分解計測を行う準備が整った。時間分解ラマン分光装置においても10 fs時間分解能を達成しており、励起状態選択的な2次元ラマン分光を行う準備が整っている。2次元ラマン分光法はポテンシャルエネルギー曲面の形状を決定づける振動モード間のカップリングを可視化することが可能であり、本研究課題の目的を達成する上で非常に強力な手法となることが期待される。以上のように、本年度の研究によって今後展開しようとする超高速分光計測の基盤が確立されたことから、本研究課題は現時点でおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
機能性複雑分子系に対する10 fs時間分解吸収・ラマン分光を展開する。近年、視覚の初期過程をはじめとする様々な超高速光化学過程が、その前後で特定の分子振動の位相が保たれるコヒーレントな過程であることが提案されている。これらの振動モードは状態間遷移を決定づける振動モードであることが推測され、反応性ポテンシャルエネルギー曲面に関する有用な情報を与えうることから大きな注目を集めるが、その実験的な検証は容易ではない。そこで、光異性化や一重項励起子分裂などの超高速光化学過程を対象とし、極短パルス光を励起光とする電子励起状態の2次元ラマン分光を行う。2次元ラマンスペクトル上に現れるクロスピークの観測を通じて、極短パルス励起光によって電子励起状態に誘起されたコヒーレントな分子振動と続いて起こる超高速過程との連関を明らかにする。
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