研究課題/領域番号 |
21H01910
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32020:機能物性化学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
白幡 直人 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, グループリーダー (80421428)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2021年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
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キーワード | 発光ダイオード / 量子ドット / ナノ粒子 / エレクトロルミネッセンス / フォトルミネッセンス / 有機無機ハイブリッド / ペロブスカイト結晶 / ペロブスカイト / 外部量子収率 / 近赤外発光 / 蛍光体 / コロイダル粒子 / ルミネッセンス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、次世代環境対応型発光デバイスのニューモデルとなりうる「量子ドット(QD)を活性層に具備する発光素子」創製を目的とする。応募者は、1-5nmの極狭サイズ領域においてQDの粒子径を±1.5Åレベルで制御可能な独自の湿式合成技術を基軸に、コア/シェル界面制御技術を融合することで「発光特性に優れた環境毒性のないQD」を合成する。さらに当該QDを活性層に具備する発光ダイオードを作製する。本研究を実践することで、従来の「重金属ありきのQD開発研究」に漂う閉塞感を打破し、環境QDを研究対象の軸に据えた新しい学術基盤を開拓する。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、蛍光半導体量子ドット(QD)における問題「毒性と性能」のトレードオフを解決し、当該ドットを活性層とする波長可変発光ダイオード(LED)を創製することを目標とする。この目標を達成するために、本年度は、QDの粒子径を±1.5Åレベルで制御可能な独自の湿式合成技術を基軸にコア/シェル界面制御技術を融合し、発光特性に優れ、環境毒性のないQDを合成することに取り組んだ。IV族半導体ではシリコン(Si)に着目した。蛍光量子収率(PLQY)の高いSiQDのみを分画する精製法を開発したことで、PLQY>50%かつ1000nm帯で効率良く発光するSiQDを合成、このQDを活性層に使用し、近赤外LEDの作製に成功した(ACS Appl. Nano Mater. 2021, 4, 11651)。次に、錫系ペロブスカイトではCsSnB(1-x)I(x)の結晶成長を制御する手法を開発し、赤-近赤外波長域で効率良く発光させる(PLQY>10%)ことに成功した(Nanoscale 2021, 13, 16726)。III-V族ではInPをコア結晶粒子に、ZnSをシェル結晶に用いて、シェル膜厚を制御するとコヒーレントコアシェル構造が形成され、コアとシェルの格子定数が等しくなる現象が起こることをInP系で初めて見いだし、70%-PLQYの深緑色蛍光体の開発に発展した(特願2021-142116、論文投稿中)。また、この研究の過程でGaとInを合金化したInGaP系では85%-PLQYを達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、優れた蛍光特性(PL-FWHM<40nm、PLQY>80%、PL時定数<100nsecを示す環境毒性のないQDを合成し、それらを発光層に具備する発光ダイオード(QLED)のプロトタイプを作製、そのエレクトロルミネッセンス(EL)特性から「外部電極からのキャリア注入に最適なQD構造」を明らかにし合成系へフィードバック、調製条件を最適化することで、環境対応型発光素子の活性層に資するQDを開発する。この目的を達成するために、本年度はQD合成を中心に研究を進めた。合成対象は、III-V属系からInP、InSb、IV属系からSi、Ge、非鉛系のペロブスカイト結晶からCsSnX4(X=Halogen)、とした。InP系ではコヒーレントコアシェル型の新しい構造がZnSをシェルにしたときに発現することを見いだした。光学特性はPL-FWHM=36nm、PLQY>70%、PL時定数<60nsecでありほぼ目標値を達成した。PLQY>80%に向け、コア結晶をアロイにするとZnSシェルとの格子緩和が良くなりPLQY=85%を達成したが、PL-FWHM=45nmとなった。PLQYとPL-FWHMの両立が次の課題である。Si系では1000nm波長帯では初めてとなるPLQY>50%を達成した。これはPLQY値の異なるQDの混合物からPLQY>50%のQDのみを分画できる精製技術を確立したからである。このQDを活性層にしてキャリア輸送層で挟み込み電極付けを行い作製したLEDは1000nmに極大値をもつEL発光特性を示した。外部量子収率(EQE) 4.84%は、当該波長帯の非鉛系マルチレイヤー型LEDのなかでは、現時点でチャンピオンデータであり、今後EQE増強に向け研究を深化させる。CsSnX4ではPLQY>12%を達成し、この値は当該結晶系ではチャンピオンデータであったがデバイス応用に向けてはさらなる特性の向上が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は前年度から引き続き優れたフォトルミネッセンス(PL)特性を有するナノ粒子の合成を行う。同時にPL特性の良い物質については、活性層としての性能を明らかにするためにLEDのプロトタイプを作製する。InP系ではPLQYとPL-FWHMの両立を目指し合成条件の最適化を行う。これと平行してマルチレイヤー型LEDデバイスの活性層への組み込みを行い、デバイス駆動させて得られるEL特性を評価する。PL特性との差違を含めた評価結果を合成系へフィードバックする。合成からデバイス作製まで一連の研究を進めることで、研究目標に掲げた環境対応型発光素子を創製する。Si系は合成方法の精密化を達成したので、PL発光波長帯を可視域にシフトするべく研究を進める。従来研究によると近赤外波長域(λ>750nm)では高いPLQYが得られているが、可視域(400<λ<750nm)ではPLQYが低い。この理由について、QDのインク化の過程でQD表面が酸化している可能性がある。酸化されたシリコン表面は無輻射失活のチャンネルとして働くのでPLQYを下げる原因となる。この問題解決に向けてはインク化過程における酸化を抑制するノウハウを明らかにする。デバイス構造についてはキャリアのモビリティーとキャリアブロックを両立可能な構造を明らかにし、可視域でのEQE増強を目指す。非鉛系ペロブスカイトについては、CsSnX4結晶に加え、ダブルペロブスカイト構造のナノ粒子合成を開始する。各ナノ粒子について活性層としての性能評価と合成系を両輪に効率良く研究を進めることで、環境対応型発光素子に最適なリガンド及びQD構造を明らかにする。
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