研究課題/領域番号 |
21H01915
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分33010:構造有機化学および物理有機化学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山下 誠 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (10376486)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 6,760千円 (直接経費: 5,200千円、間接経費: 1,560千円)
2022年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2021年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
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キーワード | ホウ素 / アルミニウム / アニオン / 求核性 / 三重項 / 3重項 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では13族元素化合物の充填軌道および空軌道の位置およびエネルギー準位を精密に制御して、13族元素間単結合分子および13族元素アニオンの化学を展開することを目的とする。それぞれの研究項目において、複数軌道の同時制御を通した新反応を開拓すると共に、特異な電子状態の創出を行い、有機化合物の特性に対する元素の効果についての学理構築を目指す。
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研究実績の概要 |
研究実施計画に記載した項目に従って以下の研究を行った。 (3-1) 高電子受容性の13族元素間単結合分子の電子状態制御と新反応 2021年度に我々が独自に開発したジアミノ置換Alアニオンを用いて、Al-Al単結合を持つジアルマンにおいて二つのAl原子上に異なる置換基を持つ誘導体の合成を達成した。また片側のAl原子にアルコキシドを配位させた誘導体も合成・単離を行っており、ケイ素反応剤を用いてこのアルコキシドを除去することでルイス塩基フリーのジアルマンの合成を検討中である。 (3-2) 13族元素アニオンの特性解明と3重項状態の直接観測 かさ高いアルキル基、アミノ基、またはシリルアルキル基を有するヨードアルマンを合成し、その還元により非環状Alアニオンを発生させる検討を行った。これまでに対応するAlアニオンの発生は確認できていないが、発生したAlアニオンが分子内のC-H結合を切断したと考えられる生成物の同定を達成している。 一方、既に報告したジアミノ置換AlアニオンをScへとトランスメタル化することで、従来には存在しなかったAl-Sc結合を有する錯体の合成を達成した。このAl-Sc錯体はベンゼンおよびハロゲン化アルキルと反応することで、ベンゼンがジアルミニウム化したシクロヘキサジエンが得られることも判明している。DFT計算を用いて反応機構を調べたところ、Alラジカルが中間体として作用するラジカル機構ではなく、イオン性の中間体を経由する2電子機構であることがわかった。この結果は論文発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(3-1) 高電子受容性の13族元素間単結合分子の電子状態制御と新反応 さまざまな縮環芳香族炭化水素を置換基として有するジボランの合成を検討しており、これまでに1-ナフチル基が導入されたジボランの合成を達成しているが、その反応性・光電子特性について現在詳細を調査中である。 ジアミノ置換Alアニオンを用いて、アルミニウム原子が3配位構造を保ったまま3原子のアルミニウムが連結したトリアルマンの合成も行っている。これまでにトリアルマンの中心Al原子上にEt基またはかさ高い2,4,6-(i-Pr)3C6H2基が置換している誘導体が得られている。Et置換誘導体はEt2Oの配位を受けているが、これが容易に解離して別の小分子との反応が進行することを見いだしているため、生成物の詳細な解析を検討している。2,4,6-(i-Pr)3C6H2基が置換している誘導体はルイス塩基に対する反応性が低いため、これの1電子還元反応により安定なラジカルアニオンを発生させる検討を行っている。 (3-2) 13族元素アニオンの特性解明と3重項状態の直接観測 ジアミノ置換AlアニオンのXPSスペクトルを測定したところ、Al(II),Al(III)化学種と比較して内殻電子のbinding energyは大きい値を示した。先に同様の解析を行ったアルキル置換Alアニオンと同様に、ジアミノ置換AlアニオンもAl(I)の電子状態を有することを解明したことになる。この結果については現在論文作成中である。 また、同じジアミノAlアニオンを酸塩化物と反応させることでアシル基が置換したアルミニウム化合物を得ることができている。この化合物は他のC=O/C=N二重結合と反応してアシル求核剤として作用することも見いだしている。これらの結果については論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は研究計画に記載した項目のうち現在検討中のものを完成させて論文投稿を目指すと共に、未達成なものを検討する。具体的には以下。 (3-1) 高電子受容性の13族元素間単結合分子の電子状態制御と新反応 テトラ(1-ナフチル)ジボランはX線結晶構造解析を行って分子構造の解明を行うと共に、テトラ(o-トリル)ジボランと反応性および光学特性の比較を行う。同じ手法を用いて9-アントリル基、ペンタフルオロフェニル基、1-ピレニル基などの芳香族置換基を導入したジボランの合成も検討する。 非対称型ジアルマンおよびトリアルマンの構造解析・反応性解明・電気化学特性解明・光電子特性解明を行う。特にトリアルマンについては合成例が無いため、その構造を既報のジアルマンと比較する。さらにトリアルマンの還元体であるラジカルアニオンの構造や電子特性を解明、これを中性のトリアルマンと比較することで、アルミニウム化学に対してさらなる理解を与えると考えられる。 (3-2) 13族元素アニオンの特性解明と3重項状態の直接観測 ジアミノAlアニオンの反応性解明の一環として他の前周期金属への導入を検討する。具体的には4,5族金属の利用を検討する。これまでに予備的検討として3価のバナジウムに対してAlアニオンを導入することでAl-V結合を有する金属錯体が得られることがわかっているため、その不対電子に由来する電子状態を解明することを目指す。また、Ti(II)へのAlアニオンの導入も検討し、前例の無いAl-Ti結合の創製とその分子の構造解析・反応性解明を行う。合わせて、d2電子配置に由来する開殻特性を解明しながら、量子ビットとしての応用可能性を探るためにEPR測定等も併用した解析を行う。
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