研究課題/領域番号 |
21H01957
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34020:分析化学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
珠玖 仁 東北大学, 工学研究科, 教授 (10361164)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2022年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2021年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
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キーワード | 細胞系譜 / 電気化学 / 走査型プローブ顕微鏡 / 遺伝子発現 / 細胞分化 / 間葉系幹細胞 / 上皮間葉転換 / マイクロ流体デバイス |
研究開始時の研究の概要 |
組織工学分野の技術革新により、革新的移植医療・再生医療が展開しつつある。一方、組織モデルを構成する個々の細胞のキャラクタリゼーションの手法は未だ開発途上にある。本研究では、SICMで得られる高分解能形状画像に、個々の異種細胞の系譜を決定する因子を様々な分析手法を用いて集約する電気化学イメージング技術の開発を目的とする。SICMシステムを、1) ヒト間葉系幹細胞の分化、2) 上皮間葉転換、3) 血管モデル培養系に導入し、通常の蛍光顕微鏡や独自の遺伝子発現解析ツール、および4) 電気化学デバイスで取得した機能情報と組み合わせ、各組織モデルを構成する個々の細胞系譜を明らかにすることを目標に掲げる。
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研究実績の概要 |
1)ヒト間葉系幹細胞hMSCを骨細胞および軟骨細胞への分化誘導する培養条件で、SICM測定を実施し、高さ情報や細胞表面の粗さにより分化状態の定量的解析に成功した。骨細胞および軟骨細胞への分化過程を分子マーカー(アルカリホスファターゼおよびアルシアンブルー染色)により評価した。骨分化過程のSICMの結果をもとに、細胞高さの分布(ヒストグラム)や細胞の形態により分化状態を評価した。hMSCのうち増殖速度活性の高い細胞集団 (REC, 高純度ヒト間葉系幹細胞) の骨分化過程で培養1, 2日目の初期過程で、骨分化培地の細胞高さが未分化維持細胞と較べて有意に低い結果が得られた。このようにSICMでは細胞高さという形状特徴から培養養初期段階での分化能評価が可能となる利点が示された。一方培養中期以降 (5, 8, 14日目) において、RECと通常のhMSCともに、骨分化培地で培養した細胞の高さが未分化維持培地で培養した場合に比べてて有意に低い結果が得られた。しかし、培養中期以降の細胞高さの差は、未分化維持培養細胞において細胞が密になりすぎ高さが増加したため生じた可能性がある。特に培養8日目以降では、細胞高さ情報は細胞密度に影響を与えるため、SICMによる骨芽細胞分化能の評価には限界があることが分かった。本実験では固定化細胞を用いたが、今後は生細胞を対象とした測定を検討している。2)血管モデル培養系および線維芽細胞/血管内皮細胞/がん細胞共培養系における薬剤感受性試験、薬剤応答を電気化学的評価および形状情報、画像解析など複合的な評価を検討した。3)探針走査が不要な広視野電気化学イメージングデバイスや新原理に基づくイムノアッセイ系を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト間葉系幹細胞hMSCと増殖速度活性の高い細胞集団RECの骨および軟骨への分化誘導の培養過程におけるSICM測定を実施し、細胞高さの情報や細胞表面の粗さにより分化状態の定量的解析に成功した。この研究成果をElectrochimica Acta誌に投稿し受理された。軟骨分化過程のSICMの結果をもとに、表面粗さのパラメーターと細胞頂点付近の局面形状パラメーターを分離して数値化する手法を考案した。この研究成果を電気化学会第90回大会で発表した。 血管モデル培養系および線維芽細胞/血管内皮細胞/がん細胞共培養系における薬剤感受性試験、薬剤応答を電気化学的評価および形状情報、画像解析など複合的な評価を検討した。血管網がスフェロイド内部にまで伸長する様子を蛍光顕微鏡と画像処理ソフトにより評価し、個々のスフェロイドごとの血管新生能を評価した。かん流可能な血管網構造上に静置した線維芽細胞/血管内皮細胞cocultureスフェロイドに血管経由で脱共役剤を添加したところ、スフェロイド-血管網間接続の強弱を反映して酸素消費速度OCRが上昇した。また、かん流可能な血管網構造上に静置したがん細胞スフェロイドに血管経由で抗がん剤を添加したところ血管網がないデバイス上の場合と比べて顕著にOCRが低下した。この研究成果をBiosensors and Bioelectronics 誌に投稿し受理された。また繊維芽細胞系スフェロイドのOCRは、がん細胞系スフェロイドに較べ半径依存性のべき乗数が小さい傾向にあることがわかった。 新原理に基づくイムノアッセイ系やclosed bipolar電極アレイ型デバイスを開発した。総じて研究計画に沿った進捗状況にあると判断でき、研究成果も順調に挙がっている。
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今後の研究の推進方策 |
1)昨年度までに、ヒト間葉系幹細胞hMSCの骨および軟骨への分化誘導の培養過程におけるSICM測定を実施し、高さ情報や細胞表面の粗さにより分化状態の定量的解析に成功した。最終年度である今年度も引き続きSICM測定を実施すると共に、酵素活性や遺伝子発現、マーカータンパク質の免疫染色結果とも照合し、異なるパラメーター間の相関をさらに議論する。hMSCのうち増殖速度活性の高い細胞集団(REC, 高純度ヒト間葉系幹細胞)やiPS細胞を含む異なる細胞種や骨・軟骨分化以外の分化誘導経路のキャラクタリゼーションにもSICM測定を適用する。SICM測定で生細胞を対象とした測定を検討している。 2)昨年度までに、血管モデル培養系および線維芽細胞/血管内皮細胞/がん細胞共培養系における薬剤感受性試験、薬剤応答を電気化学的評価および形状情報、画像解析など複合的な評価を検討した。今年度も引き続き様々な細胞機能の評価を進め精度の向上を目指す。上皮間葉転換EMT過程のSICMおよび遺伝子発現解析の結果についてさらにデータ解析の検討を進める。 3)探針走査が不要な広視野電気化学イメージングデバイスとして、電流増幅LSI集積化電極アレイデバイスやclosed bipolar電極アレイ型デバイスで取得したデータの機能情報と組み合わせ、各組織モデルを構成する個々の細胞系譜を明らかにする研究をさらに進める。昨年度開発した新原理に基づくイムノアッセイをさらに改良すると共に、細胞および細胞集団の機能評価に応用する。
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