研究課題/領域番号 |
21H01995
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35020:高分子材料関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
安藤 慎治 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (00272667)
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研究分担者 |
石毛 亮平 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (20625264)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
13,260千円 (直接経費: 10,200千円、間接経費: 3,060千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
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キーワード | 高圧誘起発光 / ダイヤモンド・アンビル・セル / 顕微分光 / 時間依存密度汎関数法 / 高発光性ポリイミド / ダイアモンド・アンビル・セル / 連続照射誘起遅延発光 |
研究開始時の研究の概要 |
室温長寿命燐光を示す発光性ポリマーとそのモデル化合物に対して,高圧(~10万気圧)と低温(-196℃~)を印加しつつ,励起・発光スペクトル,量子収率,発光寿命を測定するともに,赤外・Ramanスペクトル,広角X線回折の観測により,高圧下での発光強度増大の原因を解明する.高圧下では体積圧縮により高分子の局所振動が抑制され,コンホメーションや凝集状態変化が生じるため,振動緩和や項間交差に大きな摂動がかかり、励起状態の光物理過程が変化する.その知見に量子化学計算を合わせ,無色透明性を維持しつつ,室温長寿命燐光や大きな圧力誘起発光増強性を示す新規耐熱性芳香族ポリマー群を創製し,実用化検討に発展させる.
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研究実績の概要 |
2022年度(計画2年目)は,室温・大気中のみならず,極端条件(低温や高圧下)においてPIDL現象を観測するための装置設計と構築を行った.また,紫外光連続照射誘起の長寿命室温遅延燐光現象(PIDL)における発光性分子と局所的な酸素濃度の関係を明らかにするため,酸素透過能の異なる複数の高分子マトリックス(PMMA,ポリスチレン,シクロオレフィンポリマー)を用いた試料作成と観測を行うとともに,蛍光・燐光の発光寿命や極低温での発光スペクトルなど種々の観測結果を総合して,PIDL現象の光物理過程のモデル構築に成功した.このモデルにおいて個々の光物理過程を対応する微分方程式(反応速度式)で記述し,それらを連立してMatLabによる数値シミュレーションを行った結果,実測の結果と極めて良い一致をみた.このことからPIDL現象の全貌を明らかにすることが可能となった.極低温においては,イミド化合物の分子運動とともに酸素分子の拡散も抑制されるため,室温では数分であった誘導時間が大幅に短縮したことから,一重項酸素分子の分子マトリックス中での拡散挙動に関する知見を得ることが可能である. また,含臭素イミド化合物・ポリイミドで観測された圧力誘起発光増強現象(PIEE)が,他の重元素(塩素,ヨウ素,硫黄等)を導入したイミド化合物およびポリイミドでも生ずるかを明らかにするため,新規の含ヨウ素・含硫黄化合物を合成して,特にチアンスレン基とチオフェンを有する新規のイミド化合物で,ストークスシフトの大きな室温燐光発光を観測した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PIDL現象の光物理過程の全体的なモデルを構築し,それを連立微分方程式(反応速度式)で記述して数値シミュレーションを行った結果,実測結果と極めて良い一致をみた.特に誘導時間の酸素濃度依存性が数値シミュレーションにより定量的に再現できたことは,理論モデルの正当性を強く支持しており,またPIDL現象の誘導時間が繰り返し利用可能な酸素濃度センサーとして使用できる可能性をも示唆している. また,室温燐光の圧力誘起増強(PIEE)現象をより広い範囲で観測するため,室温燐光性の発現が予想される新規の含ヨウ素・含硫黄化合物を合成に成功し,特に酸無水物の中央部にチアンスレン基やチオフェン基を有するイミド化合物で特異な燐光挙動を観測した.今後,これらの化合物やポリイミドについてもPIDL現象やDACを用いたPIEE現象の確認を行う. なお,芳香族イミド化合物のPIDL現象および含臭素イミド化合物・ポリイミドのPIEE現象を詳細に分析するため,引き続きリトアニアのビルニュス物理科学研究所への出張観測(共同研究)を計画していたが,ロシア-ウクライナ戦争の影響により中止となったことから,ポリイミド薄膜の精密赤外ATR分光スペクトルによる極端条件印加前後の分子構造変化の解析も検討課題とした.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は研究の最終年度として,これまでの2年間の検討で得られた発光性PIの凝集構造・局所振動と特異な発光特性(特にPIDLとPIEE現象)の相関に関する知見を比較・検討しつつ,それらを基盤として常温・常圧で高い量子収率を示す室温燐光性イミド化合物およびポリイミドの開発を行う.特に高分子化(ポリイミド化)による耐熱性実用材料の開発を目指した検討に注力する。我々が独自に発見したPIDL現象の極端条件下での観測を継続するとともに,顕微赤外分光を用いて構造変化との相関を明らかにする.合わせて3年間の検討から得られた知見を総括するとともに,国内外での学会発表,論文投稿を進め,研究成果のPriority確保と学会・産業界への情報発信を行い,次世代の耐熱性・高機能発光材料の用途展開を進めてゆく。
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