研究課題/領域番号 |
21H02015
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35030:有機機能材料関連
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中野谷 一 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90633412)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2021年度: 12,350千円 (直接経費: 9,500千円、間接経費: 2,850千円)
|
キーワード | 励起子解離 / 自発配向分極 / 有機半導体 / 三重項励起子 / 有機機能性材料 / 熱活性化遅延蛍光 / 三重項 / 励起スピン状態 / 励起子解離エネルギー / 励起子 / 電荷再結合 |
研究開始時の研究の概要 |
有機分子系において、電子と正孔が弱く束縛された電荷移動型(CT)励起子のダイナミクスは、有機光半導体デバイスの動作原理の中核をなす物理現象である。特にCT励起子の解離過程は、光電変換素子においては電荷分離効率の向上に寄与するが、有機EL素子では発光効率の損失となる。そのため、励起子解離過程は極めて重要な物理過程といえる。しかし、CT励起子の解離過程における励起スピン状態の役割は、依然として未解明である。本研究では、CT励起子における励起スピン状態制御の基礎学理を基盤とし、励起子解離過程における励起スピン状態選択性を実証することで、“逆電子移動損失ゼロ”という革新的な光電変換素子を実現する。
|
研究実績の概要 |
本研究の最終目標は、有機分子系において生成される電荷移動(CT: charge-transfer)型励起子に着目し、励起子解離過程における励起電子スピン状態の選択性を実証し、 “逆電子移動損失ゼロ” という革新的な光電変換素子を実現することである。 R3年度までの研究において、熱活性化遅延蛍光(TADF)分子である4CzIPNなど、最低励起一重項準位と最低励起三重項準位間のエネルギー差が小さく、かつ極性を有する分子からなる薄膜では、光励起により生成した三重項励起子が自発的に解離し、電荷が生成されていることを明らかとした(Science Advances, 8, abj9188, 2022)。またさらに、薄膜中で励起子解離と電荷再結合が繰り返されることで長寿命EL発光が生じている事実も明らかとした。R4年度においては、有機薄膜中における自発的な励起子解離により生成した電荷の寿命に着目し研究を実施した。結果、大きな極性を有するTADF分子であるTPA-DCPPを活性材料とした有機薄膜では、驚くべきことに生成した電荷(電子)は、有機薄膜中で1ヶ月間以上に渡って極めて安定に保持されているという事実を見出した(Advanced Materials, 35, 2210335, 2023)。またさらに、長時間保持されている電荷は、有機薄膜中で空間的にも保持されていることを実験的に確認することに成功した。この長時間電荷保持の特性は、1)電荷再結合過程の抑制、2)大きな分極界面の形成によるものと結論できる。これらの事実は、有機分子の極性によって誘起される自発配向分極の形成により、生成した電荷が有機薄膜界面で安定に保持可能であるということを意味し、光電変換素子の高性能化だけでなく撮像素子やメモリ素子などに応用できる可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、CT型励起子の解離過程における励起スピン状態の役割など、有機分子系における一連の励起子失活過程と励起スピン状態の関係を具に明らかにし、励起スピン科学の学理を深化させるとともに、新たな価値を有する有機エレクトロニクスデバイスを創出することを目指している。R4年度までの研究により、自発配向分極を示すTADF薄膜においては自発的励起子解離が生じ、電荷が生成していること(Advanced Optical Materials, 9, 2100619, 2021)、励起子解離現象は励起三重項準位から励起電子スピン選択的に進行していること(Science Advances, 8, abj9188, 2022)、さらに励起子解離により生成した電荷は有機薄膜中で1ヶ月間以上に渡って極めて安定かつ空間的にも保持されているという事実を明らかとした(Advanced Materials, 35, 2210335, 2023)。これらの研究成果は、有機分子の極性によって誘起される自発配向分極を積極的に利用することで、電荷を有機薄膜界面で極めて安定に保持できることを意味し、光電変換素子の高性能化だけでなく撮像素子やメモリ素子など、新たな可能性を示す結果であると自己評価できる。以上の研究進捗状況より、本年度までの研究進捗状況は順調に進展していると自己判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
R5年度は、R4年度までに解明した事実を基盤とし、下記の事項についてより詳細な研究を実施し、本研究提案の最終目標である“逆電子移動損失ゼロ”という革新的な光電変換素子の実現を目指すとともに、有機半導体薄膜中での励起子解離現象を利用した新奇デバイス創出の可能性についても検討を進める計画である。 1)励起子解離により生成した電荷の空間的拡散挙動の解明:R4年度までに、有機薄膜中に生成した電荷が空間的にも長時間保持できることを見出した(Advanced Materials, 2210335, 2022)。これは有機薄膜界面で生じる分極に起因する現象であると予測している。しかし、その電荷保持に関する詳細なメカニズムは未だ明らかではない。そこでR5年度は、薄膜界面で生じる分極の大きさと電荷保持特性の相関関係について詳細な検討を実施する計画である。具体的には、異なる薄膜分極特性を有する種々の有機材料を界面に挿入した場合の保持特性評価を行う計画である。 2)分極界面に蓄積した電荷と励起子との相互作用に関する研究:R4年度までの検討において、励起子が自発的に解離し分極界面に長時間保持可能であることを明らかにした。この事実についてより詳細に検討を進めた結果、界面に蓄積された電荷と生成した励起子の間で励起子消滅過程が生じている可能性を発見した。この事実は、分極界面において無視することができない失活過程が存在することを意味している。そこでR5年度は、電場変調PL強度計測システムを新たに構築し、より詳細な現象解明を実施する計画である。
|