研究課題/領域番号 |
21H02023
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分36010:無機物質および無機材料化学関連
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
井口 史匡 日本大学, 工学部, 教授 (00361113)
|
研究分担者 |
清水 信 東北大学, 工学研究科, 准教授 (60706836)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2023年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2022年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2021年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
|
キーワード | 全固体リチウムイオン二次電池 / ひずみ効果 / プロトン導電体 / 導電率 / 充放電特性 / リチウムイオン導電体 / 弾性波 / 粒界 / 電池反応 / 固体酸化物形燃料電池 / 活性化体積 / 酸化物イオン導電体 / イオン伝導 / 拡散係数 / 全固体電池 |
研究開始時の研究の概要 |
イオンが流れるセラミックスである固体電解質は固体酸化物形燃料電池,全固体電池等の発電デバイスの重要な構成材料ですが,デバイス内で使われている状態では大きな力を受けています。力を受けている状態では,固体電解質が歪み,イオンの流れ易さは変化してしまいデバイスの性能に影響を与えると考えられていますが,実際にそれを明らかにした例はありません。この研究では新しく開発した評価方法を用いて,この影響を明らかにする事を目指しています。
|
研究実績の概要 |
今年度は結晶学的力学因子を評価する対象を固体酸化物形燃料電池とその一般的な電解質である酸化物イオン導電体イットリア安定化ジルコニア(YSZ)から,酸化物系全固体リチウムイオン二次電池とその電解質へと広げた。得られた成果は主に二つであり,電池反応の圧力依存性を明らかにしたこと,電解質の粒界導電率のひずみ依存性を発見したことである。 前者においては市販のバルク型全固体リチウムイオン二次電池を購入し粉体プレスを元に自作した等方圧印加装置で150MPaまで等方圧を印加したところ,電池反応を代表する抵抗成分が6%程度大きくなった。また等方圧印加下における充電試験において抵抗成分変化量に相当する過電圧の増加が観察された。電池反応における活物質へのリチウムの脱挿入は体積変化を伴うため,等方圧による電池反応の変化は理論計算においてはMechano-Chemo-Electro Effectとして導入され,硫化物系の全固体リチウムイオン二次電池においては実験的にも報告されている。しかし酸化物系における実験的な報告は今回が初めてとなる(国内学会で発表済み)。 後者においては酸化物系全固体リチウムイオン二次電池の電解質として有望視されているLLZOセルに弾性波を導入し,その際の抵抗変化を観察した。しかし電極抵抗が空気中の水蒸気,CO2との反応により非常に大きくなり数GΩを超えたため,電解質の抵抗変化を直流4端子セルで評価できなかった。そのため,直流電圧ではなく,LLZOセルに交流電圧を印加するよう見直すことでセル抵抗が大きい場合でも観察が可能となり,副次的にセルの粒界抵抗とバルク抵抗のひずみ依存性を個別に評価できた。その結果,バルク抵抗と粒界抵抗の双方がひずみ依存性を示す事,又,ひずみ依存性はバルクより粒界が大きいことを明らかにした。粒界抵抗が示すひずみ依存性の報告は世界ではじめての結果となる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固体酸化物形燃料電池と全固体リチウムイオン二次電池は作動温度がそれぞれ400度以上と室温と異なる。そのため昨年度まではレーザードップラー変位計やEx-situ計測で間接的に弾性波により生じるひずみを評価するしかなかったのに対しひずみゲージを直接適用でき,弾性波が引き起こすひずみについて詳細な評価が行えた。その結果,従来,アクチュエータから発せられる弾性波により引き起こされるひずみは進行方向に沿い,直交方向のひずみは副次的に生じていると考えていたが,実際は直交方向にも軸方向と同程度のひずみがアクチュエータからの弾性波により導入されている。すなわち3軸のひずみを引き起こす弾性波が導入されていることがわかった。これは2軸の弾性波を導入しなくても測定対象内に平面応力状態,また従来計画していなかった3軸の膨張状態を作り出せる可能性を示している。特に3軸の膨張状態はこれまで外力の印加により作り出せることは無かったため,結晶学的力学因子の評価を大きく発展させる重要な知見と言える。 また,水蒸気,二酸化炭素との反応により電極反応が大きくなるリチウムイオン導電体において,直流ではなく交流を用いることで電極反応による大きな抵抗に阻害されることなく弾性波印加時の抵抗変化を観察できるようになったことは,温度上昇により電極抵抗を低下させることができないリチウムイオン導電体において大きな進展であった。さらに交流の周波数変化によりバルクと粒界別個に観察が行えるようになっており今年度は実際の計測技術において大きな進展があったと考えている。 それに対して,得られた成果の公表に関しては関連論文も含め査読付き論文2本であり,十分とは言い難い結果であった。そのため,進歩状況はおおむね順調に進展している,とした。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度においては今年度研究対象としたガーネット型の結晶構造を持つLLZOに加え,ペロブスカイト型構造のLLTO,NASICON型構造のLAGPと異なる結晶構造を持つリチウムイオン導電体3種のバルク抵抗,粒界抵抗が示すひずみ依存性を評価する。これら3種の電解質におけるリチウムイオン拡散機構は同じホッピング機構であり,圧縮性のひずみに対して抵抗の増加が予測される。それに対し,粒界抵抗が高くなる原因はその発現要因により異なると考えられるため,3種が示す粒界のひずみ依存性を比較することでその要因を明らかにできると期待される。また,既有のLLZO単結晶を用い,結晶方位とその方向におけるひずみ依存性の評価に取り組む。そのためには今年度は行えなかった,ひずみの極性と大きさ,抵抗変化の極性と大きさを直接比較できるように位相を比較可能とする必要がある。そのため幅広い帯域を持つオシロスコープや追加のバイポーラ電源が必要になると考えている。 また弾性波を用いたひずみ依存性の評価に加え,粉体プレスを用いた等方圧依存性の評価も引き続き行う。今年度行った電池反応に対する評価で用いた市販のバルク型電池は構成材料,構造の細部が明らかになっていなかったため,それらが明らかになっている自作の電池も研究対象とする予定である。加えて,上記3種の電解質のバルク抵抗における圧力依存性を評価する。弾性波が引き起こすひずみは応力相当で考えると数MPa程度であり,実際に全固体電池に導入が予測される数百MPaの残留応力とは大きく異なる。そのため,粉体プレスを用いて評価する応力依存性とひずみ依存性を組み合わせることで,全固体リチウムイオン二次電池における応力,ひずみの影響を正しく評価可能な知見が得られると期待される。
|