研究課題/領域番号 |
21H02175
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39020:作物生産科学関連
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
山根 浩二 近畿大学, 農学部, 教授 (50580859)
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研究分担者 |
大井 崇生 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (60752219)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2021年度: 10,790千円 (直接経費: 8,300千円、間接経費: 2,490千円)
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キーワード | 三次元再構築 / 維管束鞘細胞 / 維管束柔細胞 / 塩ストレス / 耐塩性 / イネ / 電子顕微鏡 / 3次元構造 |
研究開始時の研究の概要 |
葉肉細胞へのナトリウム(Na+)の流入抑制能力が、葉の塩ストレス障害に対するNa+の閾値を決定すると推察されるが、細胞レベルでのNa+の閾値の実態は不明である。本研究では、ATP生産能があり(葉緑体やミトコンドリアを含む)、Na+の蓄積が可能な大きな液胞を有する維管束鞘細胞と維管束柔細胞に着目し、Na+の局在、三次元構造解析によるNa+輸送に関わる膜タンパク質の三次元分布とオルガネラ膜接触との関係を調査する。塩感受性品種の日本晴と耐塩性品種のPokkalliを比較し、Pokkalliの葉の耐塩性は、両細胞による葉肉細胞へのNa+流入抑制能力が高いためであることを明らかにする。
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研究実績の概要 |
(1) 維管束柔細胞の構造 イネの塩感受性品種である日本晴と耐塩性品種であるPokkaliを用いて実験を行った。対照区と100 mMのNaClストレスを4日間処理した区において、それぞれの品種の葉を固定して150 nm間隔で1500枚程度の連続切片を作製した。前年度に観察した結果、道管との間に常に二次壁が発達している細胞と、道管との間に部分的に二次壁の肥厚が見られず、細胞質が密でミトコンドリアを多く含む細胞の2種類があり、それぞれの細胞全体の撮影を試みている。現在、Pokkaliの対照区と塩処理区において2種類の細胞の撮影が終わり、トレースも終了している。その結果、とくに違いが大きかったのは液胞とミトコンドリアの細胞内に占める体積率で、道管との間に常に二次壁が発達している柔細胞では、細胞体積のうち約60%が液胞でミトコンドリアの体積率は約3%であったのに対して、道管との間に部分的に二次壁の肥厚が見られない細胞では、液胞の占める割合は30%でミトコンドリアの体積率は約8%であった。この8%というミトコンドリアの体積率は、葉肉細胞よりも高い値であった (葉肉細胞では約5%)。そのため、ミトコンドリアで多量のエネルギーを作り出し、物質の出入りに密接に関与する細胞であることが推察された。 (2) 卓上SEMを用いた免疫電子顕微鏡法の確立 本研究では、連続切片に免疫処理を施し、タンパク質の三次元局在を明らかにする方法論の確立も目指している。今年度、従来の固定方法で免疫電子顕微鏡固定を行い、葉に多量に含まれるRubiscoの抗体を用いて方法論の確立を試みた。しかし、標識として用いた金コロイドは検出できるものの、切片間での差が大きく三次元構築をするのには不十分であった。来年度、固定の条件等を変更して改善を試みる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
維管束鞘細胞と維管束柔細胞の三次元構築に関して、昨年度、切片作製と撮影条件の検討を行い、トレースに十分な解像度で像を得ることができた。今年度は撮影とトレースを中心に作業を行ってきたが、1つの維管束柔細胞を撮影するためには、Pokkaliでは300~400枚の画像、日本晴では500枚を超える画像が必要であった。そのため、トレースに予想以上の時間が必要となり、作業が想定よりも遅れている。研究期間内には、それぞれの細胞の三次元構築を終了し、細胞の全体像や塩ストレスによるオルガネラ変化に関する知見を得る予定である。 動物組織で行われている三次元免疫の手法を植物に応用するため、手法の確立を試みてきた。これまでの研究で実施してきた手法を用いて固定を行い、抗原抗体反応を試みたが、切片間で抗体の反応にむらが生じているため、植物細胞で行われてきた方法論をそのまま当てはめるのは難しい可能性が高い。また、1枚のスライドガラスに200~300枚の切片を回収しているが、全てに均一に抗原抗体反応を起こさせるのは非常に難しく、細胞全体を免疫処理して観察すると言うよりは、オルガネラレベルでの観察にとどめるのが現実的である可能性が高い。 トレースと三次元免疫電子顕微鏡法の確立が遅れているため、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 維管束柔細胞の三次元構築 イネの塩感受性品種の日本晴と耐塩性品種であるPokkaliを用い、3週齢の個体に100 mMのNaClストレスを4日間処理した固定サンプルを用いて観察を行う。昨年度までの観察の結果、維管束鞘細胞よりも維管束柔細胞におけるオルガネラの変化が大きかった。そのため、道管に隣接した形態的に異なる二つの柔細胞に重点を置き、細胞の反復を増やし、塩処理における維管束柔細胞のオルガネラ変化が普遍的なものであるかを定性的かつ定量的に評価する。さらに、日本晴とPokkaliにおけるオルガネラ変化の違いを特定し、耐塩性に必要な形態変化を明らかにする。 (2) 卓上SEMを用いた免疫電子顕微鏡法の確立 動物組織で行われている三次元免疫の手法を植物に応用するため、手法の確立を試みてきた。2022年度に検討した結果では、連続切片での検出が十分にできなかった。検討の結果、①包埋剤の検討、②賦活化処理の時間の2点を検討する必要があると考えられた。これまで試料の包埋にLR Whiteを用いてきたが、HM20の方が良好な結果が得られるとの情報を得たため、包埋剤を変更して改善を試みる。さらに、抗原を露出させるための賦活化処理の時間も検討する。まずは、これらの2つの条件を変更し、標識しやすい光合成酵素であるRubiscoを用いて手法の確立を試みる。その後、本研究の目的タンパク質であるナトリウムの排出に関与する膜タンパク質に応用し、品種間差異や塩処理による膜タンパク質の増減を観察する。 上記のオルガネラ三次元像と膜タンパク質の三次元配置を照らし合わせ、オルガネラ配置とタンパク質の配置が耐塩性に重要であることを示す。
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