研究課題/領域番号 |
21H02221
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39060:生物資源保全学関連
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研究機関 | 桜美林大学 |
研究代表者 |
大脇 淳 桜美林大学, リベラルアーツ学群, 准教授 (40539516)
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研究分担者 |
東城 幸治 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (30377618)
中濱 直之 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 講師 (50807592)
木下 豪太 国立遺伝学研究所, ゲノム・進化研究系, 博士研究員 (60774578)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
16,380千円 (直接経費: 12,600千円、間接経費: 3,780千円)
2023年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2021年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 草原性昆虫 / 系統地理 / 保全単位 / 遺伝解析 |
研究開始時の研究の概要 |
日本各地および東アジア(韓国、ロシア沿海州)で複数の草原性チョウ類をサンプリングする。これらのサンプルを用いて系統地理的な解析を実施し、日本の草原性チョウ類のユーラシア大陸から日本への移住経路と移住年代を解明する。また、各種の保全単位(地理的な遺伝的まとまり)を解明すると同時に、各地域集団の集団動態を過去の人間の土地利用と関連付けて解析する。複数種でこれらの解析を同時に実施することにより、移住経路や移住年代、保全単位の地理構造は異なる種間で普遍的に共通するかどうかを検討すると同時に、現在危機的な状況にある草原性チョウ類の再導入などに際し、得られた情報を保全現場で活用できるよう普及する。
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研究実績の概要 |
本年度は、研究対象となる草原性チョウ類各種のサンプリングを継続すると同時に、広くサンプリングを収集することができたアサマシジミについてはMIG-seq法およびlow coverage Whole Genome Sequencing(lcWGS)法によるゲノムワイドな遺伝的集団構造の解析を行った。 対象種のサンプリングについては、アサマシジミについては、過去の絶滅産地も含め、北海道の複数地点の標本サンプルを入手した。ミヤマシジミについても、未採集地点のサンプルを入手することができた。また、ヒメシジミ、ジャノメチョウ、コキマダラセセリ、ツバメシジミの遺伝解析用サンプルを全国各地から収集した。ほとんどの対象種について、研究代表者、分担者、協力者が愛好家と連携することによって、日本全国からサンプルを収集できている点は大きな意義がある。 アサマシジミについては、北海道、群馬県、山梨県、長野県白馬、新潟県妙高、石川県白山とロシア沿海州、サハリンの集団を含めて遺伝解析を実施したところ、北海道集団はロシアの大陸・サハリン集団とも本州の集団とも遺伝的に異なる独自の系統であるが現存集団は遺伝的多様性が低いこと、本州の各集団は互いに遺伝的に近いが、それぞれ地域固有の系統として認められることなどが明らかになった。また、ミトコンドリアゲノムの解析から、北海道の集団には北海道独自の系統だけでなくウラジオストク周辺と近縁な系統が存在すること、大陸と日本の集団の分岐は最終氷期より前であると推定されることが明らかになった。日本の草原には植物の固有種がほとんどないことから、日本の草原性生物は最終氷期の間に渡ってきたと考えられてきたが、本研究結果は草原の歴史に再考を迫るものであり、非常に大きな意義と価値がある。また、各集団が遺伝的に異なる系統であるという発見は、本種の保全を考える上で極めて重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗状況をサンプリングと遺伝解析に分けて整理すると、以下の通りである。 サンプリングについて、アサマシジミは日本国内およびロシア沿海州、サハリンのサンプリングを収集済みである。また、北海道集団については、現存集団および絶滅産地を含む標本DNAも収集している。ミヤマシジミは、長野、山梨、静岡、栃木、富山の現存集団のサンプリングを実施済みである。これらはミヤマシジミの現在の主要な生息地の多くをカバーできているため、サンプリングは順調に進んでいると考えている。ヒメシジミについては現存集団の東側の集団である北海道の集団から西側の中国地方(広島、岡山、鳥取)まで広くサンプリングできている。本州中部~東北でサンプリングできていない場所があるため、今後はそれらの場所でのサンプリングに努める。ジャノメチョウ、ギンイチモンジセセリ、ツバメシジミ、コキマダラセセリは分布域が広いため、分布範囲を広域的にサンプリングすることが簡単ではなく、サンプリングできていない地点も少なくない。特に四国や九州のサンプルをどのように収集するかが課題となっている。 遺伝解析の進捗状況については、「研究実績の概要」でも述べた通り、アサマシジミについては北海道、本州中部、ロシアの沿海州およびサハリンの集団について、ゲノムワイドな遺伝解析を実施することができた。この成果については、研究分担者である木下が第70回日本生態学会大会で発表済みであり、2年目で研究成果も出つつある。 以上のことから、四国、九州のサンプリングに一部課題があるものの、遺伝解析を実施できた種もあり、二年目としては順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、二つの項目に分けることができる。 まずサンプリングであるが、特に分布域の広いジャノメチョウ、ギンイチモンジセセリ、ツバメシジミ、コキマダラセセリについてはサンプリングを継続し、日本各地(特に四国、九州)および東アジアのサンプル入手に努める。一方、ヒメシジミとミヤマシジミについては、2023年度中にサンプリングをほぼ終了させるつもりで、残り数か所のサンプルを研究メンバーおよび知人を通じて収集する。 遺伝解析については、2022年度にアサマシジミで遺伝的集団構造の解析を行い、重要な知見を得ることができた。ただし、この研究では北海道集団では詳細な解析を実施したが、本州集団では、解析を実施していない集団や個体が含まれている。本州は高標高の山岳地帯や山地の里山など、異なる生息環境に異なる亜種が生息している。生息環境および地理的に異なる集団がどのように分岐し、遺伝的に分化したか解明するために、本州集団の未解析個体を加えて、追加の遺伝解析を実施する。これにより、本州における詳細な遺伝的集団構造を解明すると同時に、実用的な保全単位の設定を目指す。 ヒメシジミとミヤマシジミについても、今年度でサンプリングを終了させて、遺伝解析に着手することを目指す。遺伝解析手法については、アサマシジミと同様、MIG-seqを実施する予定であるが、もし予算が許せば、アサマシジミでも実施したlow coverage Whole Genome Sequencing(lcWGS)法によりミトコンドリアゲノムについても解析できれば理想的である。 以上の方針により、広域分布種についてはサンプリングを継続し、アサマシジミ、ミヤマシジミ、ヒメシジミについては遺伝解析を実施または発展させることを目指す。
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