研究課題/領域番号 |
21H02276
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
細川 雅史 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (10241374)
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研究分担者 |
岡松 優子 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (90527178)
高谷 直己 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (40801501)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
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キーワード | フコキサンチン / 免疫細胞 / T細胞 / マクロファージ / 免疫老化 / 樹状細胞 / フコキサンチン脂肪酸エステル / オルガネラ / 炎症抑制 / 免疫応答因子 / フコキサンチノール |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、ワカメなどの褐藻に特徴的なフコキサンチンの代謝疾患予防機構として、免疫細胞に対する機能調節作用に着目して検討を進める。特に、免疫細胞に対する抗炎症作用機構、組織細胞に対するエネルギー消費因子の発現誘導機構、およびそれらに関わる細胞間相互作用について焦点を絞り解析を行う。その知見を基に、免疫老化への有効性を検証し「イムノカロテノイド」としての有用性を見出すものである。
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研究実績の概要 |
①フコキサンチン(Fx)を投与した肥満マウスの白色脂肪組織(WAT)におけるマクロファージおよびT細胞サブセットについてFACSにより解析を行った結果、抗炎症性M2/炎症性M1の比率の上昇およびTregの減少傾向が認めら、慢性炎症抑制との関連が示唆された。 ②Fxを投与した非アルコール性脂肪肝炎(NASH)誘導マウスの肝臓遺伝子の発現をRNA-Seqで網羅的に解析したところ、Th17細胞のマーカーおよび産生サイトカインのmRNA発現低下がみられ、予防効果との関連が示唆された。さらに、成熟樹状細胞マーカーのMHCⅡのmRNA発現低下も認められた。肥満のWATでは、マクロファージに加え樹状細胞やCD4+T細胞も慢性炎症に関わっていることが報告されているため、Fxは樹状細胞のWATへの浸潤抑制やCD4+Th17細胞の活性化制御を示す可能性が考えられる。 ③Fxを経口投与したマウスの肝臓とWATにおいて、新たな代謝物としてフコキサンチノール(FxOH)およびアマロウシアキサンチンA(AmxA)の脂肪酸エステルを同定した。FxOH脂肪酸エステルは肝臓とWATに、AmxA脂肪酸エステルはWATに特徴的に蓄積されたが、他の組織ではほとんど検出されなかった。血清中にもエステル体がほとんど存在しないことから、Fx代謝物が遊離体として各組織に輸送された後、肝臓とWATで部分的にエステル化されることが示唆された。 ④Fxを経口投与したマウスから肝臓を摘出し、Fx代謝物のオルガネラへの移行を調べた。その結果、ミトコンドリアおよびミクロソーム画分においてフコキサンチン代謝物が検出されたのに対し、細胞質画分では検出されなかった。すなわち、Fxは生体内に吸収された後、その代謝物が細胞膜を通過し、オルガネラに移行、蓄積することを明らかにした。この結果から、Fx代謝物のオルガネラ機能への影響が予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、フコキサンチンを投与したマウスのWATを用いてFACSによるマクロファージおよびT細胞サブセットの解析を新たに進め、免疫細胞プロファイルへの影響を明らかにした。これまで、細胞表面抗原のmRNA発現により予想してきたWAT中の免疫細胞の変化をより明確にすることができ、当初の計画通りFxの免疫細胞の機能制御を示唆する新たな知見を得ることができた。 また、本年度はフコキサンチンを経口投与したマウスにおいて、肝臓から分離したミトコンドリアおよびミクロソームへのフコキサンチン代謝物の移行・蓄積をin vivoで確認することができた。その過程で、新規代謝物としてカロテノイド脂肪酸エステルを同定した点は予想以上の成果である。これまでに、FxがNASH誘導マウスの肝臓においてIL-1βのmRNA発現を抑制することを見出しており、インフラマソーム制御に関わる新たな作用機構を示唆する結果として順調に研究が進んだ。 最終年度は、免疫老化に対するFxの予防機能を検討することで、アンチエイジングへの有効性について検討するとともに、免疫細胞を分離して詳細な制御機能を検討する計画である。以上より、現在までの進捗状況として当初の計画通りおおむね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、これまで進めてきたフコキサンチンによる免疫細胞サブセットの変化について継続して解析をすすめるとともに、各免疫細胞を分離してフコキサンチン代謝物の直接的な作用を調べる。さらに、老化マウスまたは細胞老化モデルを用いて、免疫老化の予防機能へと研究を展開させる。以下の計画で研究を進める。 ①肥満やNASH誘導マウスにフコキサンチンを経口投与し、白色脂肪組織(WAT)や肝臓組織での炎症因子のmRNA発現変動をRNA-Seqにより解析するとともに、FACSを用いて免疫細胞サブセットの分布を測定し、それらの関連性について引き続き調べる。 ②フコキサンチンの免疫細胞に対する機能調節作用を検証するため、マウス組織から非実質細胞画分を分離し、各免疫細胞サブセットの分離を試みる。それら免疫細胞をフコキサンチン代謝物で処理し、免疫機能調整因子のmRNA発現等を解析する。さらに、オルガネラコミニュケーションに関わる新たな機能解明として、ミトコンドリア活性や小胞体ストレスの抑制因子などへの影響を調べる。 ③マウスのWATや肝臓における免疫細胞サブセットは、加齢とともに大きく変化する。そこで、老齢マウスまたは老化促進マウスにフコキサンチンを経口投与し、免疫細胞サブセットの変化や炎症調節因子、老化関連マーカーの産生とWATの増大抑制作用等について調べる。さらに、免疫細胞に細胞老化を誘導し、フコキサンチン代謝物による抑制能を評価する。これにより、フコキサンチンの免疫老化予防機能を検討する。 ④免疫細胞機能の制御因子として注目されるmicroRNA発現への影響についても検討を進め、フコキサンチンの新たな制御機構を探る。
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