研究課題/領域番号 |
21H02278
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤本 貴史 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (10400003)
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研究分担者 |
西村 俊哉 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (10758056)
田中 啓介 東京情報大学, 総合情報学部, 准教授 (60747294)
黒田 真道 東京農業大学, 生物産業学部, 助教 (70880764)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,940千円 (直接経費: 13,800千円、間接経費: 4,140千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2021年度: 12,480千円 (直接経費: 9,600千円、間接経費: 2,880千円)
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キーワード | 非還元配偶子形成 / クローン / 雑種 / ゲノム倍加 / 倍数体 |
研究開始時の研究の概要 |
雑種や四倍体が産する二倍性配偶子は倍数体誘起や新品種作出に有用である。交雑に由来するクローンドジョウの二倍性配偶子形成は、減数分裂前にゲノムが倍加し四倍性の生殖細胞が生じることに起因する。本研究では、二倍性配偶子を形成するクローンドジョウや系統間、種間雑種を用いてゲノム倍加メカニズムの解明に取り組む。比較ゲノム解析や細胞遺伝学的解析により雑種を構成するゲノムの違いを調べるとともに、ゲノム倍加の分子機構を遺伝子発現解析により調査する。育種応用に向けた実証研究では、二倍性配偶子を用いた雌性発生系統の遺伝特性と、異種との交雑による三元雑種の生存性や生殖特性を解析し、育種素材としての有用性を検討する。
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研究実績の概要 |
①ゲノム倍加を生じる系統間ゲノムの違い 2021年度に構築したドジョウのドラフトゲノムのクオリティーをさらに高めるために、A系統およびB系統に加え、新たに取得したクローン系統を用いたオプティカルゲノムマッピング法によるゲノム解析に取り組んだ。また、Genomic in situ hybridization(GISH)によるドジョウA、B系統間の染色体構造の比較解析では、A系統をプローブDNAに用いたGISHを、二系統間雑種の染色体標本に対して実施したところ、A系統由来と推定される染色体全域でプローブ由来の強いシグナルが確認されたため、二系統間では染色体レベルの大きな配列変異が生じている可能性が示唆された。 ②ゲノム倍加の分子機構の解明 ドジョウの生殖腺発達過程における生殖細胞の形態変化と核サイズ変化についてステージングを行った結果、野生型とクローン系統ともに、孵化直後の生殖細胞から減数分裂までの生殖細胞を6段階のステージに分類できた。野生型とクローン系統における生殖細胞の核サイズを、各ステージで比較した結果、クローン系統では減数分裂前の卵原細胞で有意に大きいことが明らかとなった。一方、セルソーターによる発達卵巣からの卵原細胞分離では、細胞解離時の卵黄片が多数発生し、核染色DNA量、前方散乱光、側方散乱光からは明瞭な卵原細胞集団を特定できなかった。しかしながら、クローン系統でのpiwiプロモーター領域とEGFPからなるコンストラクトを導入した遺伝子組換え個体では生殖細胞にEGFP蛍光を有する系統の樹立に成功した。 ③雑種由来の二倍性配偶子の育種応用に向けた実証研究 ドジョウ系統間雑種と雑種由来複二倍体ではクローン性非還元配偶子の形成が認められた。また、ブラウントラウトとタイセイヨウサケの交雑魚から卵が得られ、極体放出処理をともなわない雌性発生により生存個体を誘起できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①ゲノム倍加を生じる系統間ゲノムの違い ドラフトゲノム配列情報から染色体レベルの(コンプリート)ゲノム構築を図るために行ったオプティカルゲノムマッピングにより、A系統では4,672本のドラフトゲノム配列を127本に、B系統では1,274本のドラフトゲノム配列を53本に、それぞれまとめることに成功した。また、GISH解析の結果から二系統間では染色体レベルでゲノム間の配列変異が生じていることを細胞遺伝学的に示すことができた。しかしながら、観察している中期核盤数が十分ではないので、今後、染色体全体で強いシグナルが確認された染色体と、セントロメア領域でシグナルが確認された染色体の種類や数が中期核盤間で共通するのか検証を進める。 ②ゲノム倍加の分子機構の解明 2021年度のクローン系統卵巣由来の固定細胞を用い免疫染色と核染色よって卵原細胞と思われる集団は検出できたが、2022年度の生細胞での細胞集団の特定はできなかった。その理由として発達卵巣の使用による夾雑物の混入が考えられる。しかしながら、2022年度には生殖腺発達段階と倍加時期が推定できたため、細胞分取に適した卵巣の発達段階を特定することが可能となった。さらに、生殖細胞を生きたままEGFPにより標識したクローン系統が樹立できたことから、生殖細胞のEGFP強度と核DNA量をもとにして細胞分取ができる可能性が大きく高まった。 ③雑種由来の二倍性配偶子の育種応用に向けた実証研究 ドジョウ系統間雑種と系統間複二倍体ではクローン性二倍性配偶子形成することが示され、ゲノム倍加現象解明に向けた比較サンプルとして利用できる可能性が示された。ブラウントラウトとタイセイヨウサケの交雑魚は非還元卵を産出した。ニジマス精子では正常発生する個体が得られなかったが、他のサケ科魚類の精子により三元雑種が作出される可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
①ゲノム倍加を生じる系統間ゲノム違い ドジョウのコンプリートゲノム構築と系統間の比較ゲノム解析を達成するために、2022年度のドラフトゲノム配列情報からマーカー開発を実施し、PCRやFISHによる配列間の位置関係を紐づける。クローン系統は、これまでと同様の操作手順でドラフトゲノム構築を行い、オプティカルゲノムマッピングにて取得したデータと照合する。細胞遺伝学的解析では、二系統間の相同染色体間ごとに変異の進行度に違いについてGISH解析から検証する。これまでに得られた二系統のゲノムデータを活用し、ゲノム中に高頻度で存在している可能性が高い反復配列を複数抽出し、それぞれの反復配列をプローブとしたFISHによる二系統間のゲノム構造の解析を実施する。 ②ゲノム倍加の分子機構の解明 ドジョウのクローン系統における生殖細胞の核サイズにより推定されたゲノム倍加現象について、生殖腺を用いたFISH解析によって離散データからゲノム倍加現象の証明を行う。また、樹立した生殖細胞をEGFPで標識した遺伝子組換えクローン系統において、生殖細胞の発生段階に伴うEGFP蛍光強度の変化について明らかにし、EFPG蛍光強度の差による生殖細胞の分化段階のステージングを試みる。さらに本遺伝子組換え系統の生殖腺を解離して得られた細胞を前述のEGFP蛍光強度と核DNA量により細胞集団の分画が可能か検証する。ゲノム倍加前後の生殖細胞あるいは生殖腺のRNA-seq解析により発現変動遺伝子の同定を行う。 ③雑種由来の二倍性配偶子の育種応用に向けた実証研究 ドジョウ雑種とメダカの雑種が産する配偶子の倍数性や遺伝的特性の解析をRAPD等の遺伝マーカーを用いて行う。また、非還元配偶子が得られた場合には、人為単為発生により継代し、生殖腺発達過程におけるゲノム倍加を検証する。
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