研究課題
基盤研究(B)
動物の重症熱性血小板減少症(SFTS)は伴侶動物にとって致死的な感染症であると同時に、人への感染リスクを伴う。獣医療現場で使用できる迅速な診断系や、体内から速やかにウイルスを消失させる特異的な治療法の開発は、動物の救命率を上げるだけでなく人への感染リスク低減の効果も期待される。本研究では動物のSFTSの迅速かつ簡易的な診断法の確立と、治療応用を目指した猫特異的抗体の作成を目的とする。研究期間を通して動物のSFTS発生状況を把握するとともに、ウイルスに対するモノクローナル抗体を作成し、これを用いた簡易診断系を作成する。さらに動物用治療用抗体の作成を行う。
重症熱性血小板減少症(SFTS)はマダニ媒介性の新興感染症であり、人獣共通感染症である。西日本を中心に発生が認められているが、近年は東日本への拡大が懸念されている。人および猫科動物が重症化する傾向にあり、特に猫の場合は約60%が致死的な経過をたどる。発症動物から人への感染事例が報告され、飼主や獣医療関係者の感染リスクについては公衆衛生上大きな問題となっている。獣医療現場で使用できる迅速な診断系や、体内から速やかにウイルスを消失させる特異的な治療法の開発は、動物の救命率を上げるだけでなく人への感染リスク低減の効果も期待される。本研究では動物のSFTSの迅速かつ簡易的な診断法の確立と、治療応用を目指した猫特異的抗体の作成を目的とし、2021年度は①鹿児島県を中心とした動物のSFTS発生調査とウイルス野外株の遺伝学的解析、②イムノクロマト法による犬特異的抗体検出系の作成、③SFTSウイルス由来rNPをマウスに免疫し、抗rNPマウスモノクローナル抗体(MAb)の作成とウイルス抗原と反応するMabのスクリーニングを行った。またこれらのmAbのエピトープ解析にも着手した。また④ウイルス表面タンパク質であるGnタンパク質のリコンビナント蛋白を作成した。また鹿児島県内でSFTSを発症し死亡した猫4例について詳細に解析を行う機会を得たため、伴侶動物における臨床的および病理学的解析を行い報告した。またこれらの症例からリンパ系組織を採材し、猫由来抗SFTSウイルス抗体検索のための材料を得た。
3: やや遅れている
2021年度はSFTSウイルス表面タンパク質Gn/Gcのリコンビナントタンパク質を作成し、免疫マウスモデルを作成してハイブリドーマ株の作成とモノクローナル抗体を取得する予定であったが、当初の想定に反し、複数の手技によりリコンビナントタンパク質の試作を繰り返す必要があった。そのため抗原精製の期間を延長して実施した。
引き続き動物におけるSFTS発症例についての情報を収集し、特に遺伝学的情報についての解析を実施している。期間を延長して実施していたリコンビナントGnタンパク質の精製に成功したため、これを用いて免疫マウスモデルを作成、モノクローナル抗体を現在作成中である。モノクローナル抗体が得られた場合には、診断系における有効性を評価し、また中和活性を評価し治療への応用性について検討を行う予定である。抗SFTSウイルスNP mAb抗体については診断系に使用可能なmAbを複数得たことから、これらの精度について評価するとともにエピトープ解析を実施中である。SFTSを発症した猫由来リンパ節から次世代シークエンス解析により特異的抗体の作成を試みる予定である。さらにSFTSに対する新たな治療法としてワクチンによる暴露後免疫による発症予防の可能性を模索している。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Top. Companion Anim. Med.
巻: 52 ページ: 100756-100756
10.1016/j.tcam.2022.100756