研究課題
基盤研究(B)
私たちヒトが食べ物から体内に吸収した鉄分は、各細胞へ運ばれて様々なタンパク質と結合して生理反応を触媒する。一方で病原菌は、宿主のヘモグロビンからヘムを奪い取り、病原菌の細胞膜で機能する「ヘムトランスポーター」によってヘムを細胞内へ取り込んでいる。そして細胞質でヘム分解酵素が鉄イオンをヘムから取り出すことで、菌の増殖に必要な機能に利用している。本研究では、生体エネルギーであるATPの加水分解の駆動力を利用して膜輸送を行うヘムトランスポーターの分子構造の変化を構造生物学や分光学の手法によって追跡し、ATP依存的なヘム輸送の仕組みの全容を原子レベルで解明する。
鉄は、すべての生物において生命維持に必須な微量金属元素である。病原性細菌が宿主(ヒト)に感染した際には、宿主血液ヘモグロビンからヘム(鉄ポルフィリン錯体)の形で鉄を奪い取り、増殖に必要な多くの重要な機能に活用している。本研究では病原菌がヘムを細胞内に取り込むときに機能しているATP駆動型のヘムトランスポーターを研究ターゲットとし、その作動原理を明らかにすることが目的である。クライオ電子顕微鏡を用いた解析によってヘムトランスポーターの多状態での構造決定に成功した結果、分子の中心を通る基質輸送チャネルに大きな構造変化が起こることが明らかとなり、新たなヘム輸送サイクルのメカニズムが示唆された。
本研究はBurkholderia cenocepacia (セノセパシア菌)という日和見感染菌が持っているヘムトランスポーターを解析の対象としている。この細菌は指定難病である嚢胞生線維症という遺伝病患者の気管支や肺に感染しやすい細菌である。1990年代から多剤耐性菌の出現が臨床現場から報告されており、この患者はセノセパシア菌との戦いが大きな課題となっている。鉄の輸送や代謝に関わるタンパク質をターゲットとしたワクチン開発や治療薬の開発が試みられていることから、本研究で明らかにする構造情報は、創薬・医薬の基礎的な面で社会へ貢献する。
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