研究課題/領域番号 |
21H02507
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44030:植物分子および生理科学関連
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
西條 雄介 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (50587764)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2021年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
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キーワード | 植物免疫 / 湿度 / 免疫受容体 / リン酸化 / ABA / 植物微生物相互作用 / 環境応答 / 微生物相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
モデル植物シロイヌナズナを用いて、病原菌の感染被害が拡大する多湿環境における植物と病原細菌の相互作用様式の変化を遺伝子発現レベルで明らかにする。同時に湿度環境が植物の共生菌の集団組成に与える影響も明らかにする。さらに、病原細菌が植物ホルモン応答系をハイジャックして葉内で水獲得や感染・増殖を進める仕組みとそれに対抗する植物の免疫機構について解明を進める。これらの研究を通して、植物の環境適応を大きく左右する「植物・微生物・環境因子」の相互作用メカニズムの解明に貢献するとともに、作物のストレス耐性強化技術の開発に向けて実効性の高い情報を提供する。
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研究実績の概要 |
高湿度条件におけるシロイヌナズナと病原細菌・共生微生物との相互作用に着目して、植物が湿度環境変化に応じて免疫・共生を調節する仕組み、並びにその背後にある微生物の感染戦略の解明を推進した。具体的には、病原細菌の増殖や病原性発現が増進する多湿環境で、湿度依存的なトランスクリプトーム変化をRNAシーケンス解析により捕捉するとともに免疫共受容体キナーゼBAK1の相互作用タンパク質に関しても共免疫沈降産物のMS解析によるプロファイリングを行った。得られたリストから重要シグナル制御因子の候補遺伝子について機能欠損変異体を取り寄せ、以下の2つの湿度誘導性の防御応答への影響を調べることで重要シグナル制御因子の選定を進めた。 水チャネルPIPファミリーの特定分子種が湿度依存的に免疫共受容体キナーゼBAK1を介してリン酸化・活性化される経路に関しては、湿度誘導性もしくはBAK1と相互作用する膜局在性の受容体様キナーゼや受容体様タンパク質の関与を調べた。湿度上昇により一過的にアブシジン酸(ABA)代謝酵素遺伝子CYP707a3等を誘導する経路に関しては、湿度誘導性の機械刺激チャネルや転写制御因子の関与を調べた。現時点で単独欠損で有意な影響を示す因子の同定に至っていないものの、未解析の因子について解析を進めている。並行して、湿度依存的なリン酸化プロテオーム解析にも着目し、上記の応答の制御因子候補を数多くリスト化することができ、現在、それらの役割について上記と同様に逆遺伝学的解析を進めている。 病原細菌エフェクターAvrPtoBについて、遺伝子導入植物を作出し、上記の湿度誘導性防御応答の抑制機構を植物組織・細胞で解析する系を構築した。また、高湿度・通常湿度条件における葉でメタ16S解析を実施し、共生菌叢の群集構造に湿度変化や特定PIP分子種の欠損が与える影響を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた植物チャンバーの購入が遅れているものの、既存設備をフル活用して一定の成果を上げることができた。 具体的には、高湿度・通常湿度条件における葉のRNAシーケンス解析及び共受容体BAK1相互作用タンパク質プロテオーム解析により、湿度情報にもとづき水チャネルPIPのリン酸化やアブシジン酸(ABA)代謝酵素遺伝子CYP707a3等の誘導に関わる制御因子について、機能欠損変異体を取り寄せ、それらの応答への影響を調べて有力候補の選定を進めた。パターン認識受容体の免疫シグナル伝達に寄与するBAK1等の因子がPIPリン酸化には寄与する一方で、CYP707a3等の誘導には必要でないことがわかり、両経路がそれぞれ異なる遺伝子を必要とし、遺伝学的に分離可能であることが明確になった。 さらに、湿度依存的なリン酸化プロテオームの網羅的解析にも着手し、条件検討を進めてさらなる候補因子の探索を開始した。並行して、湿度に応じた免疫制御に関わる因子の探索に向けて、湿度誘導性遺伝子レポーターを用いた変異体スクリーニング系の構築を進めている。一方、病原細菌の湿度依存的な感染戦略に関しても、特定のエフェクターが上記の湿度誘導性の防御応答を抑制することを示した。さらに、メタ16S解析による葉の共生微生物叢のプロファイリングを行い、湿度及びPIPに依存した共生菌叢の群集構造変化を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
得られたトランスクリプトーム解析・BAK1インタラクトーム解析のデータに加えて新規に展開するリン酸化プロテオーム解析で浮かび上がった、湿度誘導性防御応答の制御因子候補に関して、逆遺伝学的解析を引き続き進めることで重要制御因子の同定につなげる。単純に候補遺伝子の単独欠損で明瞭な表現型が検出されない場合も、リン酸化部位の置換や相同性遺伝子群の同時欠損(多重変異体の作出)等によって打開を図る。仮に、新規の鍵制御因子の同定に至らない場合も、得られたオミクスデータは高湿度環境で既知の免疫制御因子や免疫応答がどのような影響を受けるかを示す貴重な情報であり、成果の学会・論文発表を着実に行う。 高湿度において免疫を抑制する特定エフェクターを発現するトランスジェニック植物や病原細菌の同エフェクター欠損株等を用いてin vivoで植物・細菌の遺伝子発現解析を行い、同エフェクターの植物内における作用機序の解明を進める。 既知の病原細菌エフェクターHopM1は、植物標的因子として膜タンパク質の輸送制御に関わるARF-GEF、MIN7の分解を誘導することで細菌による水獲得ひいては感染を促進する。現在、水浸漬抵抗性における鍵PIP分子種の細胞内膜輸送がMIN7の制御下にあることを示唆する予備データを得ており、同PIP-GFPのイメージング解析・FLIM解析等で本仮説を検証する。それにより、同PIP分子種が、病原細菌が高湿環境で水獲得と植物免疫抑制を進める上でも重要な植物標的因子であるという仮説を検証し、ここまでの成果をまとめて論文発表を行う。 さらに、葉内における湿度依存的な病原細菌の挙動に関して、GFPを恒常的に発現する細菌株を用いたイメージング解析に着手し、上記の分子遺伝学的解析で明らかになった植物の免疫制御因子・防御応答との関連性・依存性を検証する。当初の計画とこれらの新たな取組みを統合して、将来の研究の素地も得る。
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