研究課題/領域番号 |
21H02551
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45030:多様性生物学および分類学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 哲 京都大学, 理学研究科, 教授 (80271005)
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研究分担者 |
城野 哲平 京都大学, 理学研究科, 准教授 (70711951)
森 直樹 京都大学, 農学研究科, 教授 (30293913)
竹内 寛彦 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (40726444)
江頭 幸士郎 北九州市立自然史・歴史博物館, 自然史課, 学芸員 (10738826)
土岐田 昌和 東邦大学, 理学部, 准教授 (80422921)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2023年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2022年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | 防御機構 / 毒 / 進化 / 爬虫類 / 頸腺 |
研究開始時の研究の概要 |
アジア産の一部のヘビ類はヒキガエルやホタルなどの餌動物から取り込んだ毒物質を頸腺という特殊な器官に貯蔵し、自らの防御に再利用する。頸腺の形態は多様で、十数対の小粒状の構造物として並ぶものから、一対の細長い形状として存在するもの、さらには、頸部だけでなく胴体全体の背面にわたって100対以上が並ぶものまである。このような多様化は、貯蔵されている毒物質を、捕食者からのどのような攻撃に対してどのように利用するかということと関連して進化してきたと推測される。本研究では、餌毒を防御に積極的に再利用するメカニズムの多様化と関連した特性を、機能形態学的、行動学的、化学的、発生学的視点から解明する。
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研究実績の概要 |
本年度も前半はコロナ禍の影響で海外渡航ができなかったが、秋にはインドネシアに渡航することが可能となり、短期間ではあるが野外調査と室内実験を実施した。特にシロハラヤマカガシが持つ新規な頸腺類似器官の詳細な観察と滲出液の化学分析、および本種の分子系統解析を行った。その結果、本器官が頸腺と同様にブファジエノライドを含有することを確認した。また、本種はこれまで頸腺クレードと呼んでいた系統群には含まれず、本クレードの姉妹群の中に含まれることが明らかになった。このことから、頸腺システムの進化が独立に2回生じたか、あるいは、二次的な消失が複数回起こったことが推察された。さらに、アカクビヤマカガシの防御行動の詳細な実験も実施し、頸腺に依存したディスプレイは成体よりも幼体がより頻繁に行うことなどが示された。 他の国への渡航はできなかったものの、中国の共同研究者により撮影された同国産ミミズ食ヤマカガシ類数種の頭部形態を日本産ヤマカガシと比較することにより、食性に応じて頭骨形態や歯の形状が変化していることを確認した。また、頸背腺を持つ中国産ヤマカガシ類であるミゾクビヤマカガシ群の分類学的再検討を行った結果、本群には隠蔽種が複数含まれていることが明らかになった。 また、既存のサンプルを分析し、海外産ヤマカガシ類12種の頸腺毒成分を解析し、これらの種はいずれもブファジエノライドを持つが、その組成は種間で変異に富むことがわかった。特に頸腺クレードの中で最も祖先的な位置にあるスリランカ産のナマリイロヤマカガシでは、取り入れた毒の変換能力が低いことが示唆された。 国内においては、単一個体群から得られたヤマカガシの頸腺毒量の定量的分析を実施し、頸腺に含まれる毒量は相対的に非常に高いこと、雌では季節的に毒量が変化し、これはおそらく繁殖と関係していることなどが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍による海外渡航制限のため、本年度も海外産種を扱った分析や実験を円滑に実施することはできず、9月にインドネシア渡航が実現したのみであった、このため、研究課題の中核的要素である海外産種を扱った分析や実験の進捗は遅れ気味である。しかし、海外共同研究者による現地での調査と分析、ならびに、国内に保管していた既存のサンプルを用いた解析により新たな知見は得られつつある。特に、インドネシア産種において、本研究課題に関わる予想外の重要な発見もなされている。
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今後の研究の推進方策 |
日本産のヤマカガシを用いて匂い物質の特定および頸腺毒液の噴出機構の解明を進めるとともに、コロナ禍による渡航制限の解除の様子を鑑みながら、インドネシアを中心に、台湾、中国、および、スリランカの共同研究者と協議の上、これらの国へ順次渡航し、固有種を対象に頸腺形態の観察、毒液の噴出メカニズムの分析、毒成分の化学分析等を実施する。また、各対応国から新たに得られたDNAサンプルを合わせて、より信頼度の高い系統樹の作成を進める。 日本産のヤマカガシにおいては、まず頸腺形態の詳細な解析を進める。海外共同研究者で形態学の専門家であるSavitzky教授が昨年末から来日して代表者の研究室に長期滞在しており、その協力のもと、マイクロCTスキャンによる形態解析に向けての標本作成を実施する。標本は本教授の所属するユタ州立大学へ輸出し、CT撮影するとともに頸腺構造の詳細な分析を行う。また、頸腺毒液の噴出機構の行動学的実験のデザインを完成し、海外産を含めた各種においての検証を本格的に実行する。 インドネシアに関しては、昨年度の調査により、頸腺に相当すると推測される構造物をスラウェシ島固有種であるシロハラヤマカガシが後頭部と側頭部に持つことが判明したので、本種に特に注目して調査を継続する。さらに、キガシラヤマカガシや固有種であるアカクビヤマカガシも可能な限り採集し、頸腺形態の詳細な観察、毒液の噴出メカニズムの分析、毒成分の化学分析等を進める。 中国では、コロナ禍のため停滞していたミミズ食のヤマカガシ類を主な対象として、頸腺形態の観察、毒液の噴出メカニズムの分析、毒成分の化学分析等を実施する。台湾ではスウィンホーヤマカガシを、スリランカではナマリイロヤマカガシを対象に同様の調査を進める。
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