研究課題/領域番号 |
21H02577
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46010:神経科学一般関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
久場 博司 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (10362469)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2021年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | 軸索 / 神経回路 / 細胞骨格 |
研究開始時の研究の概要 |
軸索起始部(axon initial segment, AIS)は神経細胞における出力決定の要であり、その分布(長さや位置)の変化は脳の機能や病態と深く関わることが示唆されている。これまでに我々は、音源定位に関わる脳幹の聴覚回路では、このAIS分布が音周波数域ごとに異なり、この違いが発達期の聴覚入力に依存した構造変化(可塑性)によって生じることを明らかにしてきた。本研究では、この聴覚回路におけるAIS可塑性の分子基盤を明らかにするとともに、この可塑性を操作することの効果を細胞・回路・個体レベルで調べることにより、AIS可塑性が神経回路の形成と動作に果たす役割を明らかにする。
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研究実績の概要 |
軸索起始部(AIS)は活動電位の発生を担う軸索ドメインであり、神経活動決定の要である。本研究では、音源定位に関わる脳幹の聴覚回路を対象にAIS可塑性の分子基盤、さらには回路形成・動作に果たす役割の解明を目指している。 本年度は、昨年度に同定したAIS可塑性の細胞内シグナル経路が微小管の脱重合を引き起こすメカニズムの解明を目指した。特に細胞骨格の制御に関わることで知られるcdk5に着目して、主に分子生物学的手法を用いた検討を行った。具体的には、電気穿孔法により聴覚神経細胞へcdk5不活性型変異体を過剰発現することでもAIS短縮が阻害された。一方、野生型cdk5の過剰発現によるAIS短縮効果はないものの、cdk5の活性化を担うp35の過剰発現ではAIS短縮が生じ、さらにcdk5とp35の過剰発現ではAISは消失した。これらの結果は、cdk5の活性依存的にAIS短縮が生じることを示している。cdk5はp35の138番目のチロシンをリン酸化することで、チュブリンとの結合親和性を低下させることにより重合を阻害し、微小管を不安定化させることが知られている。従って、p35の138番目のチロシンをアラニンに置換した変異体(T138A)を過剰発現させたところ、AISの短縮は阻害された。一方、okadaic acid(20 nM)によりp35の138番目のチロシンのリン酸化を促進させるとAISの短縮は増強し、この効果は微小管の安定化剤であるTaxol(50 nM)により消失した。以上のことから、cdk5はp35の138番目のチロシンをリン酸化することにより微小管の脱重合を促進し、このことによりAISの短縮を引き起こすことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Cdk5/p35を介した機構の神経細胞や神経回路の機能への効果について解析ができていないため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は対象をcdk5と微小管に関連する分子をp35以外にも広げて解析を進めていく予定である。また、AIS構造変化前後でのRNA-seqについても解析を継続するとともに、候補分子のノックアウトスクリーニングも本格的に進めていく。一方、これまでの薬理スクリーニングの過程で、細胞外器質の分解がAIS短縮に重要である可能性を見出している。具体的には、MMP9の阻害剤によりAIS短縮が阻害される。このことは、ankyrinGの安定化には微小管との相互作用以外にも細胞外器質との相互作用が重要であることを示唆しているため、更なる検討を行う予定である。ノックアウトによりAISに変化が見られた分子については、NM細胞からホールセルパッチ記録を行い、膜特性や活動特性、さらにシナプス応答などについても調べることで、AISの細胞、回路機能への関与を検討する。また、周波数域間での比較を行うことで、細胞の機能分化(形態、チャネル発現、シナプス特性)への関与についても検討する。
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