研究課題
基盤研究(B)
樹状突起基幹部から樹状突起棘(スパイン)への移行部の細胞膜直下に集積するセプチン集合体には、膜蛋白質の拡散障壁として上記2領域を区画化する機能が提唱されてきたが、生理的意義は不明なままである。本研究では、「拡散障壁仮説」とは別に、独自の作業仮説を検証する。即ち、①「スパイン基部のセプチン集合体は、シナプス活動に応じてリン酸化で活性化されることにより、第2、第3の分子機能を有するサブユニットを遊離するデポとして機能する」 ②「遊離サブユニットはPSD凝集相をリモデリングする」 ③「遊離サブユニットはスパイン内アクトミオシン系と協調して滑面小胞体をスパイン内へと伸展させ、Ca2+反応を増強する」
2021年度までに以下の知見を得た。1)初代培養ラット海馬顆粒細胞に後期長期増強(late LTP)を誘発し得るレベルの薬理学的入力模倣刺激を与えた直後にシナプスが拡大し、遅れて小胞体(ER)が伸展する。SEPT3枯渇は後者を選択的に阻害する。2)Sept3欠損マウスの海馬DG-CA3-CA1領域の3D電顕(ssTEM)形態計測では、スパイン密度や体積は正常であったが、pp-DGのみでスパイン内ERが減少していた。DG選択的SEPT3レスキュー/枯渇実験から、pp-DGシナプスに限局したスパイン内ERの減少がSept3欠損マウスの記憶固定化障害の主因であることが示唆された。3)ER伸展にはMYO5Aも必要であることと、両者のリン酸化依存的な会合から、SEPT3との機能的協調が示唆された。4)両者がスパイン近傍のER上ないし近傍に存在し、過活動後のスパイン内でSEPT3シグナル数が増加することをpp-DGシナプスの免疫電子顕微鏡法で示した。2022年度は上記知見に基づき、「SEPT3が活動依存的にMYO5A と会合し、MYO5AをERに連結してスパイン内に牽引するアダプターないし補助因子として機能する」という仮説を立て、検証のためにCID(Chemically Induced Dimerization)法でMYO5A、SEPT3、ER 膜蛋白質ERjの3者のうち2者をRapalogで人為的に連結してERをスパイン内に伸展させる手法を確立した。さらにこれを用いて「E-LTPレベルの弱いシナプス活動でもERがスパイン内に伸展すればL-LTPとなる」という作業仮説の検証も試みた。L-LTPの指標として細胞体の高頻度同期発火が維持されることを用いたが、G-CaMP6f発現誘導をCIDと組み合わせたところ、毒性によって細胞機能が低下したため断念し、近日中に論文を投稿する。
2: おおむね順調に進展している
本研究により、SEPT3がリン酸化されることでスパイン基部から遊離し、リン酸化(活性)型MYO5Aと協調してスパインへのER伸展を促進することが示唆されたため、これまでの知見も踏まえて以下のように作業仮説を洗練させた。①シナプス活動で活性化したキナーゼにより、スパイン基部に集積するセプチン集合体内のSEPT3がリン酸化されて遊離し、活性化MYO5Aと会合する。②リン酸化SEPT3-活性型MYO5A複合体がER膜と直接または間接的に接触し、スパイン頸部のアクチン系を介してERを牽引する。
過活動したスパインのER膜上にSEPT3とMYO5Aが集積することは、「強いシナプス活動がSEPT3のリン酸化による遊離とMYO5Aの活性化を誘発し、両者がER膜上で会合してスパイン内へER を牽引する」という作業仮説を支持する。これまでの研究成果に基づき、長期記憶のシナプス基盤と想定されるスパイン内ER伸展の分子メカニズムの解明と、加齢や過食による長期記憶障害モデルにおいてもスパイン内ER伸展障害がみられるかの検証を進める。
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Life Science Alliance
巻: 5(12) 号: 12 ページ: e202101205-e202101205
10.26508/lsa.202101205