研究課題/領域番号 |
21H02617
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47020:薬系分析および物理化学関連
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
川崎 ナナ 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (20186167)
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研究分担者 |
大橋 祥子 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 特任助手 (00908709)
高倉 大輔 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 特任教員 (90760231)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2021年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | グライコプロテオミクス / 神経分化 / 神経変性疾患 / 糖鎖 / 分子マーカー / iPS細胞 / アルツハイマー病 / LC/MS/MS / OGlcNAc / データ非依存的データ取得法 / 糖鎖生合成酵素 / 神経変性疾患マーカー / バイセクト糖鎖 |
研究開始時の研究の概要 |
糖鎖は分化やがん化など様々な生命現象に係わっている。しかし、神経分化や再生における糖鎖の役割は断片的にしか解明されていない。それは、ヒト神経分化・再生を時間的・空間的に再現するモデルに限界があったこと、及びタンパク質への糖鎖修飾を体系的・網羅的に解析することが困難であったことに起因する。本研究では、我々が開発したN-グライコプロテオーム解析手法を用いて、正常iPS細胞と神経変性疾患モデルiPS細胞の神経分化に伴う糖タンパク質プロファイル変化を解析することで、神経分化の分子基盤の一端を明らかにするとともに、神経変性疾患診断マーカー候補の探索を行う。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、神経変性疾患などの診断法や治療法の開発に資する研究として、神経変性疾患モデル細胞を用いて、神経分化に伴う糖タンパク質の糖鎖修飾とその機能を解析し、神経変性疾患に係わる糖鎖の構造や糖鎖生合成酵素を明らかにすることである。 令和3年度は、iPS細胞 (iPSC) 由来アルツハイマー病 (AD)モデル神経前駆細胞を入手し、神経分化のための条件検討を行った。また、O型糖鎖修飾タンパク質の網羅的定量解析法の開発を目標として、データ非依存的(DIA)-MSの最適化を検討した。さらに、神経分化に関与するN型糖鎖修飾の特定を目標として、我々が既に見出している神経特異的N型糖鎖BA2の構造形成に不可欠なBeta-1,4-Mannosyl-Glycoprotein 4-Beta-N-Acetylglucosaminyltransferase(タンパク質名:GnT3;遺伝子名:MGAT3)のsiRNAによるノックダウン実験を行い、MGAT3の発現低下により、細胞増殖が亢進され神経分化が抑制されることを見出した。 令和4年度は、第一にO型糖鎖の中でも特にADとの関係が指摘されているOGlcNAc糖鎖修飾を網羅的に解析することを検討した。データ非依存的(DIA)-MSに必要なOGlcNAc糖鎖結合ペプチドのライブラリを構築し、DIA-MSによる定量を行うことで、神経分化に伴うOGlcNAc修飾の変化を解析できることを確認した。第二に、前年度、神経分化におけるMGAT3の重要性が明らかになったことを踏まえ、神経細胞分化に係わる糖鎖生合成酵素を網羅的に解析する方法の開発を検討した。超網羅的タンパク質ライブラリを構築し、DIA-MSを行うことで、神経分化では硫酸化へパラン硫酸合成酵素が大きく変動することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和4年度は、第一にO型糖鎖の中でも特にADとの関係が指摘されているOGlcNAc糖鎖修飾を網羅的に解析することを検討した。網羅性と定量性に優れたデータ非依存的(DIA)-MSでOGlcNAc糖鎖修飾を解析するためには、OGlcNAcペプチドのマススペクトルライブラリの構築が不可欠である。そこで、iPS細胞を神経細胞に分化させることで分化誘導期間の異なる細胞を数種類調製し、可溶化、タンパク質回収、トリプシン消化により糖ペプチド断片を得て、GlcNAcを認識するWGAレクチンを用い、OGlcNAcペプチドを回収した。DDA-MSで得られたデータを用いてライブラリを構築し、DIA-MSによる定量ができることを確認した。この方法を用いて、神経分化に伴い変化するOGlcNAcタンパク質を明らかにすることができた。 第二に、前年度、神経分化におけるMGAT3の重要性が明らかになったことを踏まえ、神経細胞分化に係わる糖鎖生合成酵素を網羅的に解析する方法の開発を検討した。iPSCを神経(外胚葉系)だけでなく、心筋(中胚葉系)、肝前駆細胞(内胚葉系)に分化させ、それらから得たペプチドをDDA-MSで解析することで、16000種のタンパク質を含む超網羅的タンパク質ライブラリを構築した。ここから糖鎖生合成酵素のデータを抽出し糖鎖生合成酵素ライブラリを作成し、DIA-MSを行うことで、153種の糖鎖生合成酵素を一斉に解析することが可能となった。その結果、神経分化ではへパラン硫酸合成に係わる一部の酵素が大きく変動することを見出した。以上のように令和4年度は、ライブラリの拡張とDIA-MSによる糖鎖および糖鎖生合成酵素の網羅的定量解析法の開発を行った。当初の計画以上に研究は進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、平成3年度に得られたゲノム編集により作製されたアルツハイマー病モデル細胞とパーキンソン病モデル細胞、およびそれらの対照細胞のOGlcNAc修飾と糖鎖生合成酵素プロファイルを、OGlcNAcおよび糖鎖合成酵素ライブラリを利用したDIA-MSにより比較し、神経変性疾患に関係するOGlcNAc基質タンパク質および糖鎖合成酵素を明らかにする。また、令和4年度、神経分化においてヘパリン硫酸合成酵素が大きく変動することを見出したことから、ヘパリン硫酸のコアタンパク質を同定する。 これらの結果を踏まえ、神経分化や神経変性疾患におけるOGlcNAc、糖鎖生合成酵素、ヘパリン硫酸の役割を明らかにするため、iPSCおよび神経変性疾患モデル細胞のOGlcNAc転移酵素 (OGT)、OGlcNAc分解酵素 (OGA)、OGlcNAc基質タンパク質、変化の大きかった糖鎖生合成酵素、ヘパラン硫酸の合成に係わる酵素、ヘパラン硫酸コアタンパク質をsiRNAもしくはゲノム編集により発現制御し、形態変化および網羅的プロテオミクスとバイオインフォマティクス(GO解析、パスウェイ解析、ネットワーク解析など)でその影響を解析する。これら一連の実験により、神経変性疾患に係わる糖鎖関連分子を同定し、診断・創薬ターゲットとしての可能性を考察する。
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