研究課題/領域番号 |
21H02620
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47030:薬系衛生および生物化学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松沢 厚 東北大学, 薬学研究科, 教授 (80345256)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2021年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | ストレス応答 / 翻訳後修飾 / 液-液相分離 / シグナル伝達 / 液滴 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞はストレスの種類や強さに応じてストレスに適切に応答し、生命を維持している。我々は、ストレス応答シグナル分子への多様な翻訳後修飾による制御を介して適切な応答が誘導され、その制御の破綻が疾患の原因となることを解明してきたが、シグナル制御の分子実体や具体的な仕組みは不明であった。最近我々は、液-液相分離で形成される液滴様構造体がストレスシグナルの制御・発信の場として働き、その形成異常が細胞死や炎症を惹起し、薬剤の毒性発現等に寄与する可能性を見出した。本研究では多様な分子修飾による液-液相分離形成を介した適切なストレス応答機構とその破綻による癌・自己免疫疾患等の治療戦略の解明を目的とする。
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研究実績の概要 |
生体や細胞は、酸化ストレス等の様々な内外環境ストレスの種類・強さなどに応じて、ストレス応答シグナル分子を介して適切に応答し、恒常性を維持している。ストレス応答シグナル分子へのユビキチン化等の多様な翻訳後修飾による制御を介して適切な応答が誘導され、その破綻が癌等の多様な疾患の原因になることを我々は明らかにしてきたが、シグナル制御の場所や具体的なメカニズムは不明であった。本研究では、液-液相分離で形成される液滴様構造体が、ストレスシグナルを発信し、細胞死・炎症を誘導する起点となり、化学物質・薬剤の毒性発現や疾患発症に寄与することを見出し、さらに、ストレスに応じた多様な分子修飾を介して形成される液滴様構造体の制御機構、および癌等の疾患発症の分子機構・治療法の可能性を明らかにした。 具体的な成果として、我々が独自に見出した新たなタイプの細胞死の誘導には、リン酸化・ユビキチン化・ADPリボシル化といった多様な翻訳後修飾が必要であること、また、これらの全ての翻訳後修飾の相互作用によって液滴様構造体の十分な形成が実行されること、その形成がストレス誘導性の新たなタイプの細胞死の誘導に必須であること、さらに液滴様構造体の形成の仕組みと液滴様構造体から細胞死に至るまでの分子メカニズムについても明らかにすることができた。新たなタイプの細胞死が誘導される生理的意義について、新たに細胞周期との関連も見出しており、昨年度から明らかにしてきた、癌転移などで行われる組織内への細胞浸潤に必要な細胞運動・遊走も含め、様々な基本的生命現象の遂行に、多様な翻訳後修飾の相互作用を介した液滴様構造体の形成とそれを起点としたストレスシグナルが不可欠であることを解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の成果として、様々なシグナル分子の修飾を起点とした、液-液相分離による液滴様構造体形成を介したストレス応答シグナルの新規制御機構とその破綻で生じる疾患発症等の新たな仕組みが解明できつつある。具体的な成果を以下に挙げる。 1) ストレス刺激の種類や強さによって、標的となるストレス応答シグナル分子の翻訳後修飾の有無が異なり、その翻訳後修飾が惹起される分子機構を見出し、2) ストレス応答シグナル分子への翻訳後修飾が液滴様構造体形成を促進する仕組みが明らかとなった。 3) リン酸化・ユビキチン化・ADPリボシル化といった多様な翻訳後修飾のそれぞれの役割が異なり、それら翻訳後修飾の相互作用について分子レベルで解明した。 4) 翻訳後修飾の有無が、液滴様構造体の大きさや形成数、形成の可逆性、さらに生理的応答の誘導などに影響することを見出した。 5) 液滴様構造体形成を起点としたストレス応答シグナルの活性化と微調整の仕組みは、細胞周期や細胞運動・遊走などの様々な基本的生命現象の遂行に普遍的なメカニズムであることが判明した。 6) 液滴構成分子の中に、癌・自己免疫疾患等の疾患に対する創薬治療標的分子の候補を見出し、その妥当性を評価することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、さらに本年度の成果を基盤として、様々なシグナル分子の修飾を介した液-液相分離による液滴様構造体形成で誘導されるストレス応答シグナルについて、その新規制御機構と、その破綻で起こる内外環境物質の毒性発現や癌・自己免疫疾患等の発症の機序解明に関して、以下の観点から研究を推進していく。 1) ストレス刺激がシグナル分子の修飾に変換されて液滴形成を促進する仕組みについて、液滴様構造体形成に関わる重要な構成因子であるp62等のシグナル分子に着目し、それら分子の修飾部位変異体の導入細胞等での表現型を解析し、ストレスの種類や強さと液滴形成に重要なシグナル分子修飾との関係を解明する。 2) 液滴形成を起点としたストレス応答シグナルの活性化と微調整の分子機構を明らかにするため、液滴形成に重要なp62やPARP-1等のストレス応答シグナル分子の活性化、またアウトプットとしての細胞死や炎症等のストレス応答が、翻訳後修飾の種類・量で制御されることを実証する。 3) 液滴形成による化学物質・薬剤等の毒性発現や癌・自己免疫疾患発症の仕組みを解明するため、我々が独自に見出した新たな細胞死の誘導促進剤等が新規抗癌剤として癌抑制効果を持つか否か最終的に検証を行う。
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