研究課題/領域番号 |
21H02656
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48010:解剖学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
宮田 卓樹 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (70311751)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2022年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2021年度: 6,760千円 (直接経費: 5,200千円、間接経費: 1,560千円)
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キーワード | 脳発生 / 力学 / 張力 / 圧縮 / メカノセンシング / 大脳皮質 / 脳室 / 圧縮力 / 弾性 / 脳脊髄液 / 残留応力 / 力学的解析 / 器官形成 / 形態形成 / 力学的要因 / 神経前駆細胞 / 大脳原基 |
研究開始時の研究の概要 |
哺乳類の脳形成の力学的理解を増してきた先行研究の発展として,本研究は,「胎生早・中期(頭蓋骨形成前の)脳胞壁」に注目し,壁内で どんな局所形態に どんな向きの「押し」と「引っ張り」の力が生じ,それらがどう組み合わさることで,壁が頑強さ・適正曲率を持ちつつ劇的な成長・形態変化を果たし得るのか を理解するために,①脳壁内細胞の形態および分布・集簇性がもたらす局所および壁全体の力学的特性,② 弾性線維関連分子群(エラスチン,マイクロフィブリルなど)の役割,③ 機械刺激センサー Piezo1 の役割,について「残留応力解放試験」を基軸とする複合的解析で明らかにする.
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研究実績の概要 |
胎生期のマウス大脳の発生過程を支えるメカニカルなメカニズムを理解すべく計画された研究である.まだ骨が頭部背側に形成されていない時期にあって,その背側方向に向けてドーム状に成長する大脳原基の壁が,周りの結合組織(表皮と間充織=頭皮と総称)との間で,結合組織から脳に対する押しとどめ,脳から頭皮に対する押し・伸ばし,という力学的関係にあるということを前年度に報告したことを受け,脳原基壁のさらに奥にある,脳脊髄液をたたえた脳室が頭皮による締め付けによってどういう影響を受けているか,手製マノメータによる圧計測と頭皮に対する外科的および薬理学的操作を組み合わせて検討した.脳脊髄液の量や脳壁体積の貢献以上に脳室内圧の成立に「頭皮による締め付け」が大きく貢献していることが分かった.そして脳室・脳室内圧には,それ自体が積極的に脳壁ドームを「膨らませる」という,肺の発生過程で想定されているような「圧の内外差(内>外)による構造拡張の働きではなく,頭皮からの締め付けのもとにある脳壁を受け止める「カウンターバランサー」としての役目があると分かった.そうして締め付ける頭皮と内で受け止める脳室に挟まれる脳壁は,神経前駆細胞の分裂によって産生されたニューロンを壁の外層に圧縮的に充満させ,先行して誕生したニューロンが伸長させる軸索(脳壁の周方向に沿う)と神経前駆細胞のファイバー(脳壁の法線方向に沿う)という2種類の相互直行関係にあるファイバー構造に張力を加えることで強度が確保される構造になっていることも分かった.加えて,壁の内面・頂端面が連続性・収縮性を有することが,壁の肥厚(ニューロン充填を通じた)を助けていることも明らかとなった.脳室の「カウンターバランシング」は,脳壁が,そうした収縮性を有する脳壁内面を脳室を狭めるようせり出させながら肥厚するということに対する許容性も帯びている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究全体は,脳原基が胎生期頭部の中の構成要素として置かれた状況をメゾスコピックなレベルで壁全体として理解しようとする切り口と,脳原基の中にいる細胞がどこでどんな力を感知するか・それに反応してどう振る舞うかという,細胞・分子レベルの切り口という,異なる階層をつなぐ構成になっている.メゾスコピックレベルでの進捗は,予想・期待を上回るレベルにある.手製マノメータによる圧計測と頭皮に対する外科的および薬理学的操作を組み合わせた検討により,頭皮による締め付けと脳室内圧の関係,頭皮・脳壁・脳室の三者関係について,新しい概念を得るに至った.そして,頭皮と脳室に挟まれながら肥厚せねばならぬ脳壁がいかにして「潰されない強度」を確保しているのかについて,圧縮材・張力材の組み合わせという構造力学的視点による検討の結果,長いファイバー構造が張力材役,次々に産生され増加するニューロンが圧縮材役を果たしていると分かった.こうした成果は,論文投稿に至った.一方,細胞・分子レベルの切り口では,壁の内面に存在が認められる細胞外基質分子の役割に対する解析が続いており,免疫組織化学的手法,分解酵素による実験などの結果を受けてiGONAD法による遺伝子欠損が達成できつつある.当初の計画よりは時間を要しているものの,一定のペースで知見の蓄積が続いている.またメカノセンサー分子に対する解析ではノックアウトマウスの異常初見の病理学的読み解きが進み,現在詰めの解析をしつつ論文執筆の段階にある.この他,力学的手法(原子間力顕微鏡など)を介した研究や,大脳原基動態に対する解析やスライス培養を通じた研究での成果が論文発表された.総合的に,研究全体では,概ね順調に進展と判断される.
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今後の研究の推進方策 |
脳原基が胎生期頭部の中の構成要素として置かれた状況を,メゾスコピックなレベルで壁全体として理解しようとする切り口においては,脳室内圧に関する新知見(脳室内圧の成立に「頭皮による締め付け」が大きく貢献している,脳室・脳室内圧には頭皮からの締め付けのもとにある脳壁を受け止める「カウンターバランサー」としての役目がある,脳室の「カウンターバランシング」は,脳壁内面を脳室を狭めるよう,せり出させながら脳壁が肥厚するということに対する許容性も帯びている)を論文にまとめ投稿する.一方,壁が,生体内の三次元的なドーム形状から,取り出されてスライスされるという外科的措置を受けることで,「生体内において閉じ込められ・蓄えられていた力」が解放されることで,スライスが動く(曲がったり反ったりする)という現象を見出しているので,バネ定数をあらかじめ求めた微小ガラスキャピラリーによって「曲がり・反り」を受け止める系を構築し,どの程度の力がキャピラリーにかかるのかという定量から,「生体内において蓄えられていた力学的(弾性)エネルギー」を推定することをめざす.一方,細胞・分子レベルの切り口では,細胞外基質分子に対するiGONAD法によるノックアウトマウスから得た脳原基壁に対する力学的検査などを行い,論文執筆に向けてまとめに入る.メカノセンサー分子については,論文執筆を終え,投稿,さらには追加実験等を経ての出版をめざす.
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