研究課題/領域番号 |
21H02688
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48040:医化学関連
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研究機関 | 大阪公立大学 (2022-2023) 大阪市立大学 (2021) |
研究代表者 |
徳永 文稔 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 教授 (00212069)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2022年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2021年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
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キーワード | タンパク質 / ユビキチン / 酵素 / 細胞死 / 炎症 / 酸化ストレス / NF-κB / 細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、複数のユビキチンリガーゼ(E3)や脱ユビキチン化酵素(DUB)が協調的に働くことで、分岐鎖や混合鎖など複雑なユビキチン鎖を生成し、多彩な生理機能を司ることが明らかになった。我々は、ユビキチンのN末端Met1を介する直鎖状ユビキチン鎖を生成するE3酵素(LUBAC)を発見し、LUBACが古典的NF-κBシグナル活性化を導くことを見出している。さらに最近我々は、2種のLUBAC結合性新規E3と、LUBACによるNF-κB活性化を顕著に抑制する1種のDUBを同定した。そこで本研究では、これら酵素間クロストークが炎症・免疫制御にどのように関わるか、分子細胞生物学解析やマウス個体レベルで解明する。
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研究実績の概要 |
ユビキチン修飾はプロテアソーム分解のみならず、8通りのユビキチン連結を生成することで多彩な細胞機能を制御する。近年、1つのユビキチン化部位に分岐鎖や混合鎖など複数のユビキチン連結が含まれる複雑さの存在が明らかになり、細胞内の10-20%はこのような複雑鎖であることが示唆されている。我々は、ユビキチンのN末端を介する直鎖状ユビキチン鎖(M1鎖)を生成するLUBACユビキチンリガーゼ(E3)を見出し、LUBACが炎症や免疫制御に重要なNF-κBシグナル経路を活性化することや細胞死を抑制することを見出した。さらに、LUBACが他のE3と協調的に働くことで直鎖とLys63(M1/K63)の混合鎖など、複雑なユビキチン鎖を生成する可能性を見出している。そこで我々は、LUBACと協調して複雑なユビキチン鎖生成に関わるE3とこれを制御する脱ユビキチン化酵素(DUB)の探索を行い、2種の新規RING型E3(LUBAC-associated protein 1と2、各LAP1、LAP2と略)とDUBのOTUD1を見出した。本年度の研究によって、LAP1はLUBACと協調した複雑なユビキチン鎖生成を介してTNF-αによって惹起されるアポトーシスやネクロプトーシスなど細胞死制御に重要であること、LAP2はLUBACサブユニットをK63ユビキチン化することでNF-κB活性を亢進することを突き止めた。さらに、OTUD1はLUBACなどTNF受容体複合体I構成因子からK63ユビキチン鎖を除去することでNF-κB活性を顕著に抑制することを明らかにした。また、Otud1-KOマウスでは酸化ストレスが亢進し、炎症性腸炎が重篤化した。これらの結果から、LUBACと協調するE3やDUBによって複雑鎖の生成・分解、炎症応答、細胞死が制御されていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究で我々は、LUBACと相互作用することを見出している2種のE3(LAP1、LAP2)について精査した。その結果、LAP1はLUBACによるNF-κB活性化を抑制するとともに、TNF-αによって誘導されるアポトーシスに対しては促進的で、ネクロプトーシスは抑制した。この過程では、LAP1が先行して付加するユビキチン鎖がシードとなって、これにM1鎖が付加されることで複雑なユビキチン鎖が生成される可能性があることを見出し、2022年度分子生物学会のシンポジウムにて発表した。一方、LAP2はLUBACサブユニットにK63鎖を付加して、NF-κBシグナルをさらに亢進させることを突き止めた。LAP2の完全KOマウスは胎生致死であるが、E3活性を喪失させたLAP2のノックインマウスは誕生することから、LAP2はE3活性非依存的に発生段階で重要な役割を果たすことが示唆された。 さらに、LUBACやNF-κB活性を制御する新規DUBとしてOTUD1を同定し、OTUD1が酸化ストレス応答に重要なKEAP1に結合し、NF-κBとNrf2/KEAP1という炎症応答に重要な2つのシグナル経路をクロストーク制御することを突き止めた。さらに、OTUD1-KO細胞では、TNF-α誘導性アポトーシスやネクロプトーシスのみならず、酸化ダメージによる細胞死(オキシトーシス)に対して脆弱になることを明らかにした。また、Otud1-KOマウスを用いて病態モデル解析を進め、デキストラン硫酸によって重篤な炎症性腸炎を引き起こすことを示した。これらの成果は、Cell Death Dis(2022)に発表するとともに、Antioxidants(2023)に総説を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
1.新規E3-LUBAC相互作用を介したユビキチン鎖の複雑化と生理機能制御 既にLUBACと相互作用することを見出している2種のE3酵素(LAP1、LAP2)について、ノックアウト細胞を用いて各種炎症性サイトカインや病原体関連分子パターン(PAMPs)によって惹起される炎症・免疫関連シグナル応答を精査する。また、アポトーシスやネクロプトーシスなど細胞死に与える影響を分子レベルで詳細に解析する。さらに、LUBAC欠損細胞や我々が開発したLUBAC阻害剤(HOIPIN-8)を用いてこれらE3とLUBACの相互作用によって引き起こされる細胞機能を解明する。また、これらE3のノックアウトマウスを用いて、これにTNF-α、LPS、デキストラン硫酸ナトリウムなどを投与することで、それぞれ全身炎症、敗血症、腸炎を引き起こした場合の生存期間、炎症・免疫関連シグナル活性化、細胞死亢進、病理・組織染色、ユビキチン鎖生成への影響を解析するとともにヒト炎症性腸疾患発症への寄与を解明する。 2. 新規DUBの炎症シグナル制御と生理機能制御 OTUD1に関しては、酸化ストレスと炎症細胞死に関わることが示されたので、Otud1-KOマウスを用いて高脂肪コリン欠乏食負荷による非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)モデルの解析を進める。さらにOTUD1に次いで阻害能が強いDUBやM1鎖特異的DUBのOTULINに対する創薬シーズの探索を行う。これによって、生理的なLUBACとの機能クロストークを明らかにする。
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