研究課題/領域番号 |
21H02691
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49010:病態医化学関連
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野口 拓也 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (20431893)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
15,600千円 (直接経費: 12,000千円、間接経費: 3,600千円)
2023年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2022年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2021年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
|
キーワード | 自然免疫応答 / MAPキナーゼ / ユビキチン化酵素 |
研究開始時の研究の概要 |
敗血症は、世界で年間約2700万人が罹患し、内800万人が臓器障害により死亡するという、現代社会が克服すべき重大な疾患である。しかし、未だ有効な治療法がなく、その克服は世界的に急務の課題となっている。我々は最近、LINCRというストレス応答分子が、敗血症の発症に大きく寄与しているのではないかという研究結果を得ている。そこで本研究では、敗血症治療薬の早出を見据え、LINCR欠損マウスを用いたin vivoでの解析を行い、LINCRの細菌感染症に対する生理的役割、および敗血症等におけるLINCRの病理的役割を解明する。
|
研究実績の概要 |
我々は機能未知のLINCRに着目して研究を進め、LINCRがTLR4シグナルの「増幅」に重要な役割を果たしていることを発見した。我々はLINCRが敗血症の病態形成に深く関わると考え、本研究では、LINCRによるTLR4シグナル増幅機構の全容を解明するとともに、その生理的・病理的意義の解明を目的とする。本研究目的を達成するため、今年度は「① LINCRの活性化制御機構の解明」と「② LINCRの生理的・病理的役割の解明」の2つの課題に取り組んだ。 ① TLR4シグナルにおけるLINCRの安定化機構の解明 LINCRは定常的に自己ユビキチン化を介して分解されることで発現が低く保たれている一方で、TLR4の下流では炎症シグナルの伝達において中心的な役割を担うキナーゼ分子TAK1の活性化依存的にタンパク質レベルで安定化を受ける。これまで、我々はLINCRがTAK1から直接リン酸化を受けることでユビキチン化状態を変化させるモデルを想定していたが、今年度の解析よりLINCRはTAK1からリン酸化を受けないことが明らかとなった。さらに、LINCRの安定化が脱ユビキチン化酵素の活性化に依存することを発見し、TLR4シグナルにおいてLINCRは脱ユビキチン化酵素Xから脱ユビキチン化を受けて安定化されていることが示唆された。 ② LINCRの生理的・病理的役割の解明 LINCR欠損細胞を用いて、細菌感染など自然免疫応答の持続性に着目し、細菌感染症に対するLINCRの機能的役割を解析した。また、TLR4シグナルにおけるLINCRの制御機構について、これまで培養細胞を用いて得られた結果との整合性を評価するため、LINCRを欠損した初代培養の骨髄由来細胞を用いた解析を行い、LINCRの自然免疫応答における役割について確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの解析から、LINCRは定常状態においてプロテアソーム依存的な分解機構で発現量が低く保たれているが、TLR4の下流でストレス応答キナーゼTAK1が活性化すると、TAK1の酵素活性依存的にプロテアソーム依存的なLINCRの分解が抑制され、LINCRの発現量が増加することが明らかとなっている。このLINCRの発現上昇は、メッセージレベルでの制御ではなく、タンパク質レベルでの制御であるため、LINCRがTAK1からリン酸化を受けることでユビキチン化状態を変化させ、安定化するモデルが想定される。そこで今年度は計画通りTAK1によるLINCRのリン酸化評価を実施した。しかし、TAK1は他の基質をリン酸化することでLINCRのユビキチン化状態を変化させることが判明し、その詳細を解析した、その結果、TAK1が脱ユビキチン化酵素Xをリン酸化し、Xの安定性または活性を上昇させることで、LINCRの脱ユビキチン化を亢進する可能性が示唆された。そこで、脱ユビキチン化酵素Xを同定するためのスクリーニング系を構築した。一方、LINCRの生理的役割を解析するためのLINCR欠損マウスは未だに得られていない。しかし、LINCRの活性化制御機構を解析する過程で、LINCRを特異的分解に導くLINCR阻害剤を発見し、これを用いることでLINCRの生理的役割の個体レベルでの解析が可能となった。従って、本年度はこれまで不明であったLINCRのユビキチン化状態を制御する機構として新たに脱ユビキチン化酵素Xの存在を見出した点や、LINCRの生理的役割を個体レベルで解析することを可能にするLINCRの特異的阻害剤を同定したことから、当該年度に遂行した解析は順調に進展したと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
敗血症は、世界で年間約2700万人が罹患し、内800万人が臓器障害により死亡するという、現代社会が克服すべき重大な疾患である。敗血症を克服すべき有効な治療戦略が存在しない現在、敗血症の病態メカニズムの分子レベルでの解明、即ちTLR4経路を含む自然免疫応答のシグナル増幅機構の解明によって、自然免疫増幅機構の分子基盤を確立することが、敗血症の革新的治療戦略の開発に有効と考えられている。このような状況の下、我々は機能未知のユビキチン化酵素LINCRに着目した研究を展開した。これまでの解析から、LINCRは自然免疫応答シグナルを増幅し、持続的な活性化を誘導していることが判明した。従って、過剰な自然免疫応答を原因とする敗血症等の増悪にLINCRが関与していることが想定される。今後は、LINCRの生理的・病理的役割の解明を最大の目的とし、LINCR阻害剤を用いて、大腸菌による細菌感染症モデルの実験を行う。特に、自然免疫応答の持続性に着目し、細菌感染症に対するLINCRの生理的役割を解明する。また、エンドトキシンや腹膜炎が誘導する敗血症モデル(ウイルス成分誘導のサイトカインストームモデルも含む)においてLINCR阻害際による病態の改善効果を詳細に解析し、敗血症でのLINCRの寄与を明らかにする。本実験においてLINCR阻害剤で敗血症症状が軽減された場合、LINCRは敗血症の増悪因子であることが明らかとなり、LINCRを治療標的とした新たな敗血症治療薬の創出を目指して、本テーマは次の研究段階へと移行できる。一方で、LINCRのTAK1による制御機構、およびLINCRによるMKP1の制御機構の詳細な解析結果を統合し、LINCRによるTLR4シグナル活性化機構のモデル構築を目指す。
|