研究課題/領域番号 |
21H02722
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49040:寄生虫学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
後藤 康之 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (50553434)
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研究分担者 |
藤井 渉 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (40708161)
片岡 直行 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (60346062)
山岸 潤也 北海道大学, 人獣共通感染症国際共同研究所, 准教授 (80535328)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2021年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
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キーワード | リーシュマニア / 免疫病態 / マクロファージ / 多核化 / 血球貪食 / ATP6V0D2 / 貧血 |
研究開始時の研究の概要 |
内臓型リーシュマニア症(VL)はリーシュマニア原虫の感染により引き起こされる人獣共通感染症で、ヒトやイヌに重篤な症状をもたらし、年間20-40万人の患者と2万人もの死者を出している。本研究では、VLにおいて『「感染」がどうやって「症状」を引き起こすのか』という疑問に対して、分子生物学や発生工学の技術を駆使して病態形成機序を免疫学的に解明する。臨床現場において感染者のうち発症に至るのは数%である。つまり、症状のメカニズムを理解し、多数を占める無症状感染者の状態を人工的に誘導できれば、現在の化学療法が抱える薬剤耐性や副作用などの問題を軽減する新たな治療法として期待できる。
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研究実績の概要 |
本研究では、内臓型リーシュマニア症(VL)において抗リーシュマニア原虫防御免疫と独立して宿主に悪影響を及ぼす病態因子の同定を目指している。2022年度は、宿主因子が病態形成に関与するメカニズムについて、とくに感染によるマクロファージの病態型多核化機構の解明に焦点をあてた。VLを引き起こすLeishmania donovaniを感染させたマウスでは貧血を呈し、その脾臓では多核化した感染マクロファージによる赤血球貪食が亢進している。そこで、マクロファージの多核化に関与する分子の探索を行ったところ、宿主因子ATP6V0D2がマクロファージの多核化に寄与すること、ATP6V0D2の関与は全てのマクロファージ多核化に関与するのではなく、病態型多核巨細胞にユニークであることが明らかとなった。加えて、ATP6V0D2がマクロファージ内の鉄輸送もしくは鉄貯蔵に関与することが示唆された。上記を総合すると、リーシュマニア原虫はマクロファージのATP6V0D2発現を上昇させることにより、赤血球貪食を亢進してマクロファージ内の鉄濃度を上げるとともに、同分子による細胞内鉄濃度の維持を誘導していることが考えられる。これら病態型マクロファージを誘導する原虫側の因子の同定には至っていないものの、病態型マクロファージの形成に寄与する分子機構の解明はVLのみならず他のマクロファージ関連疾患にも応用される知見である。感染マクロファージによる赤血球貪食は原虫の生存に有利にはたらくことから、ATP6V0D2を標的とした治療法は原虫増殖抑制と貧血抑制の両面に効果的な方法となりことも期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ATP6V0D2はこれまで破骨細胞における機能について研究がされてきた一方、マクロファージにおける役割については知見が限定的であった。とくに、これまでの研究がノックアウト細胞における表現型を解析したものがほとんどであった。今回、リーシュマニア原虫感染という、マクロファージにおいてATP6V0D2の発現が大幅に上昇するというモデルを初めて報告し、その機能を明らかにしたことは大きな成果である。実際に、これらの成果は論文成果につながっており、現在も続報を投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度はATP6V0D2が鉄輸送もしくは鉄貯蔵にどのように関与しているのかを明らかにする。そもそもATP6V0D2は細胞質内にドット状に存在しているが、既知の細胞小器官との共局在が見られず、どのような場所にどのように存在しているのか未解明である。そこで、脂肪滴や細胞内相分離に焦点をあてた研究を進めていく。予備実験により、リーシュマニア原虫に感染したマクロファージにおいて脂肪滴の形成が亢進することを確認している。また、Atp6v0d2をノックダウンする実験により、感染マクロファージではATP6V0D2依存的に脂肪関連遺伝子が変化することも確認できている。細胞質内の鉄プールの維持機構については不明な点が多いが、Atp6v0d2の遺伝子発現操作技術を駆使することでマクロファージの鉄輸送や鉄貯蔵に果たす役割が解明されると見込む。
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