研究課題/領域番号 |
21H02801
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分51010:基盤脳科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
揚妻 正和 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 主任研究員 (30425607)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2021年度: 10,010千円 (直接経費: 7,700千円、間接経費: 2,310千円)
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キーワード | 二光子イメージング / population coding / 並列計算 / 前頭前野 / 光遺伝学 |
研究開始時の研究の概要 |
大脳皮質前頭前野は、快・不快の情動や外界からの感覚刺激など様々な情報を「並列処理」することで生存に不可欠な判断を実現する。脳の限られた容量を効率的に利用するための独自の並列処理様式がその機能を支えると推察されるが、技術的制限によりその理解は理論や仮説の提唱に留まっている。そこで申請者らは新たなシステムを開発し、マウス前頭前野の詳細な神経活動記録と、複数の情動記憶が並列に形成される行動課題を実施可能にした。本研究課題では、機械学習によるデータ駆動型の解読と、光遺伝学による精密な因果性の検証により、前頭前野における並列処理の核となる要素を同定し、脳独自の並列処理様式の実態を証することを目指す。
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研究実績の概要 |
大脳皮質の中でも前頭前野は、快・不快の情動や外界からの感覚刺激などの様々な情報を並列処理することで、生存に不可欠な判断を可能にする。一方、脳回路は増設可能な電子回路とは異なり、限られた容量を効率的に利用するための「脳独自の並列処理様式」がその機能を支えると推察されるが、技術的制限によりその理解は理論や仮説の提唱に留まってきた。 本課題では、新たな2光子イメージングシステムを開発し、マウス前頭前野の最大数千の神経細胞一つ一つから詳細な活動を記録しながら、複数の情動記憶が並列に形成される行動課題を実施可能にした。得られる学習過程を通じた長期神経活動記録を元に、機械学習によるデータ駆動型の解読と、光遺伝学による精密な因果性の検証により、前頭前野における並列処理の核となる要素を同定し、脳独自の並列処理様式の実態を実証することを目指している。 着目するマウス内側前頭前野(mPFC)は正負両方のvalence(恐怖・報酬など正負両方向の情動)の記憶を制御する。2022年度までの期間は、valenceの異なる二つの記憶を同時平行に獲得する課題を行い、それらの記憶がmPFC内部で混線せずに保持される仕組みの解明を目指した。学習課程を通じた神経細胞集団の活動記録を元に、mPFC神経細胞集団が異なる記憶を分別しながら並列に情報処理する機序を明らかにした。モデルベースの機械学習を用いた解析法を開発し、mPFCでの並列計算の鍵となる神経細胞集団(アンサンブル)の検出を可能とした。さらに、その検出結果をもとに、同期性の解析、グラフ理論などによるネットワーク再編の評価法開発を行い、脳情報動態の変遷を可視化することに成功した。心拍計測など情動状態を反映する観察個体の内的状態を反映する指標の計測系を組み込んだ顕微鏡システムも開発し、これらの研究成果について論文化を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、機械学習によるデータ駆動型の解読と、光遺伝学による精密な因果性の検証により、前頭前野における並列処理の核となる要素を同定し、脳独自の並列処理様式の実態を証することを目指している。 この中で、特に独創的でかつ本課題の基盤をなす「機械学習によるデータ駆動型の解読」の部分で当初の期待以上の成果と興味深い知見が得られており、さらにその知見はプレプリントとして報告することができた(Agetsuma et al., 2021, bioRxiv)。2022年度はそれらの成果について論文化を進めた。その際、査読者からのコメントに対応する中、新規解析技術によって見出された結果(神経細胞集団としての情報処理動態)と、古典的な観察指標(単一神経細胞レベルでの挙動)とを徹底的に調べ、その結果として神経細胞が個として集団の中でどのように振る舞うか、さらには情動記憶をコードする集団の中でどのような神経細胞がハブとなり、情動記憶を形成していくか、など非常に興味深く、あたらしい知見・結果が得られた。特に本研究課題に関する知見としては、区別が必要な二つの異なる記憶を同時に学習させた場合、それらは全く別の細胞集団によりコードされるのではなく、一部をオーバーラップした状態でありながらも独立にコードされている、すなわち直行的なコーディングが示唆された点は、非常に興味深い。 そしてそれらの結果をもとに、リバイスした内容に関する2023年度開始早々の再投稿の準備が整った。 これらの結果から、概ね順調と言えると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」の項で説明したとおり、本研究の成果の論文化を進めており、2023年度内の論文化を目指す。 併せて、神経細胞集団による活動パターンの精密な再現の為の光学系・顕微鏡の構築も推進する。光遺伝学技術を基盤に、神経細胞集団による活動パターンの人工的な再現を推進を目指す。 ただし、2022年度までの成果により,情動記憶は生得的な情動の回路を組み込んだ形で構築されていることがわかった。そのため、「記憶のみ」を人工的に操作し、その操作結果を正しく考察するには、神経細胞集団が織り成すネットワークの情報の流れをさらに理解する必要があることも見出された。そのため、さらなるネットワーク構造解析法の開発や、網羅的分子プロファイリングの導入などの新たな切り口も併行して探索する。 さらに、もう一つの提案課題(報酬系の学習課題)についても実験系構築を推進し、並列処理におけるその基盤原理の解明をさらに深めていく。
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