研究課題
基盤研究(B)
NASHでは、肝線維化が進行すると肝組織中の脂肪沈着がむしろ減少・消失し、いわゆるburned-out NASHと呼ばれる状態となり、肝硬変・肝発癌の高リスクであることが知られている。これまでに遺伝子改変によってburned-out NASHを模倣する新規マウスモデルを樹立し、その機序として脂質生合成低下に伴う脂質の質的変化、特にリン脂質代謝の恒常性破綻が鍵を握っていることを見出した。そこで本提案では、オリジナルマウスモデルを基軸とし、豊富な臨床検体を組み合わせることで、NASHにおけるリン脂質の役割を多方面から解き明かすとともに、新規治療法やバイオマーカーを探索する。
これまでにNASHモデルマウスにおいて、脂質生合成のマスターレギュレーターSREBP活性化に必須の分子SCAPをKOし脂質生合成を阻害すると、むしろ肝臓の炎症・線維化・発がんが促進されることを見出した。そこで網羅的メタボローム解析およびトランスクリプトーム解析の結果、SREBP 機能障害は、生体膜リン脂質に組み込まれる脂肪酸の組成を大きく変化させ、その結果として小胞体膜の流動性が低下し、小胞体ストレスを惹起することによって病態を悪化させていることが明らかとなった。またこれらのリン脂質組成の変化は、脂肪酸合成低下に加えて、脂肪酸をリン脂質へ組み込む酵素LPCAT3 の異常が加わって生じることもわかった。LPCAT3の発現低下はLXRの活性低下によるものであり、LXRアゴニストによってSCAP欠損による病態悪化が改善された。さらにNAFLD 肝生検検体を用いたRNAseq解析の結果、SCAP-SREBP-LXR-LPCAT3 axis の活性は肝線維化進行とともに低下しており、とりわけburned-out NASH の原因の一つにもなっている可能性が示唆された。これらの研究結果から、NASH における広範かつ過剰な脂質生合成阻害はむしろ病態を悪化させる懸念があること、加えてburned-out NASH におけるSREBP 活性の低下はさらなる病態促進因子となっている可能性が考えられた。一方でSCAP単独欠損では肝障害を生じないが、PTEN欠損を組み合わせることで著明に病態が悪化した。その原因として、PTEN欠損に伴うmTOR経路活性化によりオートファジー機能が低下し、膜の流動性が低下した異常な小胞体を除去できず、結果として小胞体ストレスや細胞死を招くことがわかった。
令和5年度が最終年度であるため、記入しない。
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