研究課題/領域番号 |
21H02991
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55010:外科学一般および小児外科学関連
|
研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
小池 直人 横浜市立大学, 医学研究科, 客員教授 (50301081)
|
研究分担者 |
田所 友美 横浜市立大学, 医学部, 助教 (20507644)
小林 達哉 横浜市立大学, 医学研究科, 共同研究員 (60837839)
谷口 英樹 東京大学, 医科学研究所, 教授 (70292555)
村田 聡一郎 横浜市立大学, 医学研究科, 客員准教授 (40436275)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2023年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2022年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2021年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
|
キーワード | 高次肝組織 / 神経 / 微小血管 / iPS細胞 / 血管 / 門脈域 |
研究開始時の研究の概要 |
これまでの研究で肝細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞に分化させたhiPS細胞を用いて、体外で肝芽を再生し、それを移植する事により、血管ネットワークを有し障害肝の機能を代償できる高次肝組織を生体内で再構築することに成功した。しかし、胆管、動静脈、神経から成る門脈域を構築し、長期安定な胆汁分泌を再現することができなかった。本研究の概要は、これまでの研究では欠落していた神経の幹細胞を肝芽作成に加えて、ヒト型高次肝組織を生体内において再構築し、組織再構築過程をライブ観察で解析するとともに、組織的に門脈域を有し、胆汁分泌などの高次機能を発揮可能な移植用肝組織の開発への基礎を築くことを目的とする研究である。
|
研究実績の概要 |
胆管、血管、神経が伴走して走行する門脈域を構築させるために、2021年度同様、ヒトiPS細胞由来の肝前駆細胞(hiPS-HE)、血管内皮細胞(hiPS-EC)、間葉系幹細胞(hiPS-STM)からなる多数の微小肝芽を神経幹細胞(hiPS-NCC)を3次元培養して得られた神経線維の上に添加し共培養した。 2022年度はhiPS-NCCの誘導法を改良したことにより、より安定した実験結果を出すことに成功した。また、十分に神経線維を構築させるために、肝芽を追加するまでのhiPS-NCC単独の培養時間を10日から20日に延長した。 hiPS-NCCにはGFPをhiPS-ECにはKO(Kusabira orange)を導入して可視化できるようにし、共培養した肝芽を蛍光顕微鏡でタイムラプス観察を行った。その結果、肝芽の共培養開始後、1から7日にかけて神経突起が肝芽に向かって伸びる様子が観察された。共培養7日目では、肝芽内で構築された血管の周りに神経線維が伴走している様子が観察された。また、CK19の免疫染色を行い肝芽における胆管の観察したところ、肝芽から胆管様に伸びた突起の周りに神経がまとわりついているように観察された。この形態は正常肝の門脈域の形態に近いものと考えられた。また、微小肝芽と肝芽の間に胆管構造の繋がりも観察された。 神経を加えない群とで肝芽内の血管、胆管構造を、画像解析ソフトウエアを用いて定量解析し比較検討した。その結果、神経を加えない群では血管の総長、分岐数は有意に低下していた。胆管様の突起数も有意に短かった。また、培養上清中のアルブミン、フィブリノーゲン量をELISAにて測定すると神経の共培養を行なっていない群では有意に少なかった。また、アンモニアクリアランスも有意に低かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度はvitroで肝芽を作成する際の各細胞の比率を、hiPS-HE:hiPS-EC:hiPS-STM:hiPS-NCC=10:7:1:1を基本に変化させ試行錯誤していた。この培養系にてできた細胞集団をそのまま、マウス頭蓋に作成したCranial window (CW)に移植し、vivoでも肝芽の成長を観察した。その結果、移植後28日までに移植肝芽はhiPS-ECからなるホストからの血流を有する微小血管を形成していた。hiPS-NCCは一部でこの微小血管周囲を取り巻き、hiPS-HEからなる胆管を思わせる管状構造にこの血管が伴走している所見もところどころに認められた。しかし、移植後NCCの消失が早く、構築された組織のパラフィン包埋薄切組織標本では残った神経線維が確認できなかった。そこで2年目はvitroの培養方法の改良を行った。 hiPSから細かな諸条件を最適化しながら自律神経としてhiPS-NCCを分化誘導する方法を改良し効率を安定化させることができた。また、微小肝芽の共培養を開始するまでhiPS-NCC単独で神経線維を構築させるための時間を倍に延長した。これによって、胆管構造と血管が伴走し、神経が胆管構造にまとわりつく正常肝の門脈域に近い形態を構築させることに成功した。更に、神経細胞を加えることが胆管構造の構築に影響を及ぼすこと、肝臓としての代謝合成機能を向上することが定量により確認され、順調な進捗であると考えられた。 また、予想外に肝芽を添加した後、神経線維がこの肝芽に向かって進展する現象が確認できた。この現象に肝芽から何らかのgrowth factorが分泌されていないかを確認予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
2年間でvitroでは門脈域様の構造を構築することに成功した。しかし、培養方法の異なる初年度の方法で構築した肝芽をCWに移植しても、血流を有する肝芽の成長を一時的に観察できたのみで、神経細胞が消失し門脈域を再現することはできなかった。最終年度は神経細胞が多く移植されることにはなるが、2022年度に行った3次元培養のシステムをそのままCW内に移植することを検討している。 また、2022年度には予想外に肝芽が神経線維の進展を誘導する現象を認めた。したがって、最終年度には、これに関与する可能性のあるnerve growth factor等のgrowth factorや、アドレナリン、ノルアドレナリン等の神経伝達物質の定量もvitro培養上清中で行う予定である。また、確認された因子の阻害物質を用いた阻害試験も必要と思われる。 今回の実験系では門脈域様の構造は見られているものの、肝機能の軸となる肝細胞索の構築は不完全で、長期安定して生体内で機能する高次肝組織の構築をvivoで目指すために、移植部位、移植方法にも検討を重ねる予定である。新たに構築できた神経系を有する高次肝組織の機能を評価するために、肝障害マウスを用いた実験も必要と考えている。このように、最終的にヒトの再生医療への利用を目指すため、プロトコルをより改良して肝芽形成実験を行っていく。 昨年度までは、肝再生には自律神経の中でも副交感神経が重要との論文が散見されたことより、hiPS-NCCの副交感神経系への分化誘導を検討していた。しかし、今回誘導された神経細胞の性質を確認してみると、既に副交感神経の性質を有していた。だが、実際には生体肝の自律神経はほとんどが交感神経であることがわかっており、vivoでの結果が芳しくない場合には交感神経への分化誘導も検討している。
|