研究課題/領域番号 |
21H03114
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57020:病態系口腔科学関連
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
丸山 健太 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 特任准教授 (60724119)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2021年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | 痛覚神経 / 敗血症 / 脳 / 代謝 / 感覚免疫学 |
研究開始時の研究の概要 |
重症敗血症では、サイトカインストームが生じた後に異常体温・頻脈・低血圧が生じ、最終的に凝固異常を伴った多臓器不全で死に至る。しかし、炎症性サイトカインの中和抗体やコルチゾールの投与は敗血症の死亡率を改善しない。これらの事実は、現在信じられている敗血症の病態生理に根源的な欠陥があることを意味する。申請者らは、痛覚神経を先天的に欠損するマウスを解析する過程で、痛覚神経が敗血症の病態において適応的な役割を果たしていることを見出した(未公開)。本研究では、痛覚神経が如何なるメカニズムで敗血症死を防いでいるのかを明らかにすると同時に、感覚免疫学にインスパイアされた革新的敗血症救命法の提案を目指す。
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研究実績の概要 |
LPSの刺激で痛覚神経より産生されたReg3γが如何なるメカニズムで脳ミクログリアのIDO1 の発現を抑制しているのかを明らかにするための研究に着手した。Reg3γの受容体であるExtl3 と結合する可能性のある遺伝子をSTRING データベースで検索したところ、Ext1、Ext2、Extl1、Atxn1、XIAP の5 つがヒットした。この中で実際にExtl3 と結合するものを免疫沈降によって検証したところ、XIAP がExtl3 と結合することが明らかとなった。また、Extl3 あるいはXIAP をミクログリアの細胞株でノックダウンすると、Reg3γによるIDO1 の発現抑制効果が消失した。これまでの報告により、XIAP はBcl10 と結合し、炎症シグナルを伝達することが報告されている。そこでLPS を投与したBcl10欠損マウス由来の脳におけるIDO1 の発現とQUIN 濃度を定量したところ、LPS を投与した野生型マウス由来の脳と比べてこれらの量が顕著に増加していた。IDO1 の発現はBin1 によって抑制され、Bin1 の発現は転写因子E2F1 によって誘導されることが知られている。また、E2F1 はRac1 によって活性化され、炎症シグナル存在下においてBcl10 はRac1 を活性化しうることが報告されている。詳細な生化学的解析の結果、Reg3γで刺激されたミクログリアではBcl10 依存性にRac1 が活性化され、これに続いてE2F1 がBin1 のプロモーターに結合することでBin1 の発現が誘導された。また、Reg3γで誘導されるBin1 の発現上昇は、Rac1 阻害剤の処理によって消失し、Bin1 をノックダウンしたミクログリアの細胞株では、Reg3γによるIDO1 の発現抑制が観察されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Reg3gによってIDO1の発現が抑制される分子メカニズムの詳細を解明することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
我々の研究によって、Reg3gが脳のIDO1発現を抑制するためにはBcl10が必須であり、Bcl10を欠損するマウスはLPSの投与に対して脆弱であることが判明した。Bcl10は、真菌の成分であるb-glucanを認識する受容体であるDectin1のシグナル伝達において必須の遺伝子であると考えられているが、我々の予備的検討では、Dectin1を欠損するマウスはBcl10を欠損するマウスと同じくLPSの投与に対して脆弱である(未公開)。このことは、Dectin1に何らかの生体内在性のリガンドが存在し、これが敗血症死を防ぐうえで極めて重要な役割を果たしていることを示唆する。そこで今後はDectin1-Bcl10経路が痛覚神経性免疫寛容において果たす役割を明らかにするための研究に着手する。これまでの免疫学では、LPSやPoly(I:C)をマウスに投与することで細菌性/ウイルス性の敗血症を模したモデルを作成し、マウスの生存率を観察したり血中の数種類の炎症性サイトカインの濃度を定量した上で、炎症性サイトカインの量が多ければそれが直接死因であるかのように議論すること多かったが、敗血症の病態というものは現実には非常に複雑であり、炎症性サイトカインの産生量では説明のつかないことが多々あることが明らかとなってきた。我々の提唱する痛覚神経性免疫寛容も、炎症性サイトカインでは説明のつかない事象の一つと位置付けることができ、今後はこれまでの免疫学において見落とされていた新しい生体防御機構に光をあてるための研究に着手してゆく。
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